「じゃあ私、食材集めします」
「では私も行こう」
「あ、ありがとう」
―森の中―
「これ、食べれると思う?」
はキノコを手にしていた。
「…以前食べた事がある気もするが…」
「…毒キノコだったりして」
顔を見合わせて2人は苦笑をする。
「…すまないな。私が何も知らないばかりに」
「そんな!レジェンスのせいじゃないよ。私だって何も知らないし」
「…。ありがとう」
レジェンスの笑顔には顔を赤らめた。
(顔、綺麗過ぎ…。そこら辺の女の人よりずっと美人だ…)
「…どうした?」
「…い、いや!何でも。…あ、そうだ。レジェンスは王子様なんだよね。
王子様ってどんな事するの?」
「…そうだな」
レジェンスの表情が少し強張る。
(もしや地雷を踏んだ!?)
「あ、ごめんなさいっ。旅の間は王族だって事忘れるようにしてたんだよね」
「…いや、話そう。には聞いて貰いたい。
……ふふ、何故かな。そなたは私の心を開かせる魔法を持っているようだ」
レジェンスが頬にそっと触れる。
「…あ……そう…かな?」
(静まれ、心臓!!)
激しい鼓動はなかなか収まらない。
しかしそんな彼女とは反対に、彼は静かにゆっくりと話をし始めた。
「…私はずっと勉強をしていた。
王としてどうすれば民が従うか、どうすれば国が繁栄するか」
「うん…」
「しかし私は現実の世界を何も知らなかった。
国民がどのような暮らしをし、どのような事を王に望んでいるのかも」
「でもそれは…」
「城にいる時の私は何も感じなかった。城の中だけが世界だと思い込んでいた。
自分は王として形だけは身につけ、肝心な事に気づこうとしなかった」
レジェンスの声が荒いでくる。
「だからこの旅に出て、私は世界を知ったのだ。
まだこの国の一部しか知らないけれどもそれでも、以前の私よりはずっと良い。
城にいる私は喜びや悲しみなどがわからなかった。大人たちに囲まれ、何も感じずに生きていた。
ただ、皆が望む私になろうという気持ちだけで」
「レジェンス…」
思わずは彼の手にそっと触れる。
レイピアを使いこなす彼の手は思った以上に華奢で綺麗だったけれど、今は戦いの時のような力強さは感じない。
寧ろ、微かに震えている。
「私は諦めていた。王には人間らしさというものは必要ないと。
しかしずっと憧れていた。妹やククルを見ていたら、毎日が楽しそうに見えるのだ」
寂しげな表情をしながら、ふっとレジェンスは視線を逸らす
「そんな時、この旅の話が出た。私は嬉しかったぞ。
これで私はククルたちに近づけると思った。
そうして旅をしていくにつれて私の心も次第に解放されてきたのだ。
更に……。そなたに出会えた」
静かに名前を呼ばれたのにも関わらず、は驚いてビクッと身体を揺らした。
目線を上げると穏やかな微笑をたたえたレジェンスが真っ直ぐにこちらを見ている。
「私はのいろいろな表情を見るたびに嬉しく思う。
そなたを通して、私はこの世界の素晴らしさを知っていく気がする。
そなたを介する時、何もかもが輝いて見え、素晴らしい音色に聞こえる。
私の鈍っていた感覚を目覚めさせるのはそなたなのだ」
「え…、わ、私!?」
彼は笑ったまま頷いた。
その姿に胸が締め付けられる思いがする。
(レジェンスは…ずっとお城に閉じ込められてたんだ。何だか可哀想…。
もしかしたら、この旅が終わったらまたお城に閉じ込められる事になっちゃうのかな…)
「…レジェンス!」
「何だ?」
「もし、この旅が終わってレジェンスがお城に戻っても私が貴方を救い出してみせるから!!」
「…」
いきなりの言葉に、レジェンスは呆然としている。
「あ、救い出すっていうかその…。うん、遊びに行くから!!
私みたいな一般人じゃ会えないかもしれないけど、でも、こっそり外に連れ出してあげる!」
「…っはは!」
クシャっと顔を崩して彼は笑った。
それでも充分恰好良いが。というより可愛い。
「頼もしいな、は」
「まぁね!」
そう言い、は小指を差し出す。
「何だ?」
「約束!! レジェンスは私が助ける!」
そしてレジェンスの小指に自分の小指を絡ませた。
「約束…?この儀式は約束の儀式なのか?」
「…?さぁ。よくわかんないけど、何かこうしたくなった」
記憶の片隅に“指きり=約束”という事が残っていたのかもしれない。
「じゃあ、私も約束だ。…は私が守る」
穏やかではあるが真剣な瞳には身体の自由を奪われる。
「…じゃあ、守ってもらっちゃおうかな!」
恥ずかしさを隠す為に冗談っぽく言う事しかできない。
そうして2人は怪しいキノコを抱えて山小屋に戻って行った。
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