―洞窟奥―
「…何か…変」
は表現し難い空気の流れのような感覚を覚えた。
引き寄せられるような不思議な感覚。
「大丈夫?」
「…どうやら、宝玉まで近いようです」
「…魔物の気配もするぞ」
シャルトリューとククルが低い声を出した。
彼らの声のトーンに緊張が高ぶってくる。
「宝玉が魔物を惹き付けているのかも知れないな。
不思議な力を持つと言われている石だ。油断せずに進むぞ」
そうして一行は更に奥へと進んでいく。
「…あれか?」
洞窟の行き止まりの奥にひっそりと光を放つ石が岩の上に乗っていた。
「…あれが朱玉…?」
「、ちょっと待って!!」
宝玉の方へ行こうとするをランが制する。
「どうやらこの洞窟の主が来たらしい」
レジェンスがの言葉と同時に、グルルルルと唸り声が辺りに響く。
そして5人の前には狼の3倍はある大きさの魔物が現れた。
「少し手強そうですが、何とかなるでしょう」
「ランはを頼む。ククル、シャル、行くぞ!!」
「はいっ!」
「仰せのままに」
そしてククルは大きな両手剣を構え、レジェンスは細いレイピアを構える。
シャルトリューは精神集中し、呪文を暗唱し始めた。
「くっ」
「はぁっ!!」
レジェンスとククルは魔物の攻撃をかわす。
「…シャルトリュー・ノルディックが命ず。かの者の動きを封じたまえ」
シャルトリューが呪文を唱え終わると手の先から光がほとばしった。
すると魔物は身体を硬直させ、ピクピクと小刻みに震えている。
「何が起こったの?」
はランに今起こった事を聞く。
「あ、はシャルトリューさんの魔法を見るの、初めてだっけ?」
「魔法!?」
(魔法…ってあるものなんだ)
「あれは相手の動きを封じる魔法。
こんな狭い洞窟じゃ、攻撃系の魔法は使えないんだよ。
シャルトリューさんの魔法って強力だから」
「へー」
よくはわからないが、この世界には“魔法”が存在するらしい。
「よし、トドメを刺すか」
(え!? それって殺しちゃうって事!?)
「ちょっと待って!!」
はククルたちの前に飛び出す。
「何だ?」
「殺さなくてもいいでしょ?今、あの魔物さんは動けないわけだし。早くここから出ようよ」
「……」
「…つまりはこの魔物を助けろと?」
「…うん。だって、この魔物さんは悪い事、してないもの。
たまたま私たちが彼の縄張りに来ただけ。だから殺さないで欲しいの」
そう、は宝玉も手に入れたのだし、意味もなく生き物を傷つけて欲しくなかったのだ。
それに宝玉を手に入れた後の事が気になった。
宝玉の力によって栄えていたこの村は、これから一体どうなってしまうのか。
そんな事を考えたら、自分たちは“この大陸を救う為”という大きな目的の為に他の色々な事を犠牲にしているような気がして
それはあまりにも自分勝手だと思えたのだ。
だから今目の前にいる魔物は助けたいと思った。
ちっぽけな事だけれど、今の自分にできる事はこのくらいしかできないから。
「…貴女は優しい人ですね」
「そ、そんな事ないですよ!」
「…じゃあさっさとここから出るぞ」
「うん!」
の想いを感じ取ったのか、彼らは朱玉を手に入れると足早に洞窟から抜け出たのだった。
―宿屋―
「…まずは1つ目だな」
「あとはアーク国に3つ、バーン国に4つか…。まだまだだな…」
「結構大変そうだね」
今までの事を思うと先が思いやられた。
町や村で情報収集をし、残りの宝玉を集めるなんて一体あとどのくらいかかるのだろう。
「でも、今回は位置の把握に時間がかかりましたけど、
他の3つの宝玉は代々守り継がれているって話ですし、大丈夫ですよ!」
「そうですね。宝玉を守っている町はホーリー家と親交がありますし、
王子が旅をしている事も連絡が行っているでしょうから、きっと協力してくれるはずです」
「そっか!! だったら後は目的に向かってGOだね!!」
「そうだな」
2人からホッとする話を聞けて、落ちかけていた気力が再び高まった。
は握りこぶしを作ると、「頑張るぞ!」と高く掲げる。
そんな彼女の様子に一同は笑みを零した。
こうしてたちは伝説の宝玉の1つ、朱玉を手に入れたのである。
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