「じゃあ、食材の買出しします!」
「そうか。では私が同行しよう」
「え、でも…」
「荷物持ちは男の仕事だ」
「あ、ありがとうございます」
―町―
「王子、少し休憩しませんか?」
「そうだな。宿まで距離もあるし、そうしよう」
そうして2人は公園の噴水の淵に腰を下ろす。
「…はぁ、お腹空いたぁ。王子は空きません?」
「少し空いたな。…それよりも、。私を王子と呼ぶのはやめてくれないか?」
「え、でも…」
「名前でよい。それに敬語もやめてくれ。この旅の間は、王族という事を忘れていたい」
静かにそう言うレジェンスの表情が少し寂しそうに見えた。
何となく彼は自分の身分の為に孤独感を感じていたのであろうという事が伺い知れる。
「…わかりました、じゃなかった。わかった!! じゃあ、レジェンスって呼んでもいい?」
「あぁ」
そんな彼女の言葉に嬉しそうに笑ってみせるレジェンス。
は彼を少し身近に感じた。
「そうだ、リンゴ1つ食べない?私、自分のおやつ用に皆に貰ったお小遣いで買っておいたんだ」
「しっかりしているんだな、は。しかし、私が貰ってもいいのか?」
「勿論!」
そう言いは林檎を取り出すと、綺麗なハンカチでリンゴの表面をふき取り、
護身用にとレジェンスに買ってもらった小さなナイフでリンゴの皮をカットしていく。
「はい、でーきた」
「…これは…」
「リンゴうさぎだよ。レジェンス、見るの初めて?」
「あぁ」
レジェンスは目の前に差し出されたリンゴを興味深そうに見つめる。
ほぉと感心しながら色んな角度からリンゴを見上げる彼は何だか初めておもちゃを与えられた子どもみたいで
何だか可愛らしく思えた。
「は器用なんだな。驚いた」
「えへへ」
昔、作っていたのだろう。
の手は無意識のうちにリンゴをうさぎにしていた。
記憶はないけれど、感覚は身体に残っているらしい。
「…しかし、は名前以外覚えていないのだったな」
「うん」
「では年齢もわからないのか」
「…うん。あ、レジェンスは何歳?」
「私は17だ」
「へぇ…。しっかりしてる」
「そなたもしっかりしているぞ。普通、記憶のない状態だったらもっと不安になるだろう?」
「えへ、そうかな」
は少し照れながらも喜ぶ。
「私は城の中の世界しか知らない。だからこの世界の事は何も知らないと私は同類だ。
…似たもの同士、よろしく頼む」
「うん。よろしくね!」
レジェンスの言葉に彼への同情や悲しさを感じつつも、彼の優しさを嬉しく思う。
そんな彼との距離が昨日よりも近づいた気がした。
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