翌朝、がカルトスとレイラに話をすると二人ともラスティア山についてきてくれると言う。
彼らだけでなく昨日の夜に話をしたレノンやククル、ヤンも同行することとなり、
こんな状況でなければ日帰り旅行のような気分なのだが、とは思った。
そうだ、元の世界に戻ったらエドと旅行がてら皆に会いに行く計画を立てようと同時に思いつく。
きっとエドは長期間の休みは取れないと言うからバーン地方とアーク地方に分けて旅行するというのはどうだろうか。
そんなことを瞬間的に考えてしまう自分はやはり図太い人間だなとは苦笑するが、しかしそれが自分の取り柄なのだからと開き直ることにした。
「これが例の鏡ですか?」
「ええ、そうよ。とりあえず割れたり壊れたりしてなくてよかったわ」
達はエドワードの提案通りに先に二人が出会った鏡のところへ向かった。
鏡は変わらずそこに置かれてあって一先ずは胸を撫で下ろす。鏡は特に変わったところはないようだ。
「本当に世界間を移動できるなら私も向こうの世界に行ってみたいものですね」
「おい、無暗に触るなよ」
「――っ!?」
ヤンが鏡に手を伸ばした瞬間、鏡面から眩しい光が発された。
そして弾かれるようにヤンは手を引っ込める。
「ヤン、大丈夫!?怪我は?」
「いえ、何ともありません。ただ何か見えない壁のようなものに弾かれたような感触がしました」
「でも変ね、私が手を入れた時は何ともなかったのに…」
「おい、大丈夫か?」
ヤンの時と同様にククルがを引き止めたが、の指先はすっと鏡の中に吸い込まれた。
鏡の表面は水のようにの指を中心に波紋を描いている。
「、平気なのか?」
「ええ、何ともないわ」
カルトスが心配そうにに近寄るが彼女は何事もない様子で頷き鏡から手を引き抜くと鏡面は静まりを取り戻した。
とりあえずに対しては不思議な力を発動するようなので、恐らく元の世界に戻ることはできるだろうと皆の意見は一致する。
「世界間移動が可能なのはさんだけ…か。質量保存の法則でもあるんでしょうか。
向こうの世界にはまだ私がいるから私は世界を越えられない、とか」
「確かにこの世界には私はいないものね。
でも、質量保存の法則が成り立つならいつかこの世界にも私が人として生まれてくる可能性があるのかしら…」
この世界ではまだ目に見えない元素や魔力の欠片でしかないが、
いずれは自分と同じような存在が生まれてくるのかもしれない、とは思った。
それがどのくらい先のことなのかは分からないが、皆で困難を乗り越えていくというカルトスやレイラの志は引き継がれていきそうだから
現在の自分以上に図太くて前向きな存在として生きることになりそうだ。
「…ではこの鏡を持っていくとしよう。持ち運ぶ分は誰が触れても構うまい」
「じゃあ持って来た布で包むか。紐も持って来たから馬に付けとくな」
「ありがとう、ククル。お願いするわ」
その後、はエドワードと、レイラはカルトスと、ヤンはレノンと一緒に馬に騎乗し、ククルは鏡を運ぶことになった。
ラスティア山に向けて四頭の馬は走り出す。
辺りは折れた木やゴロゴロとした岩が土に埋まっていて、地面からは所々に新しい緑が芽吹いている。
建物に使われていたであろう木材や家具、雑貨なども目についた。
バーン国の民は殆どの人が避難できていると聞いているが、アーク国の状況を考えるにあちらは余計に生々しく感じることだろう。
は苦痛に顔を歪めながらもその光景を目に焼き付ける。
そんなに気付いていながらもエドワードは何も言わず馬を走らせた。
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