「夕方でも暑いなぁ。でもジメジメしていないだけマシか」

俺は今、ワインを持って空港にいる。
先程飛行機が到着したのでロビーは次第に混雑してきた。
俺はある日本人を待っている。25歳になっても心から消えない人だ。


暫くするとゲートから1人の日本人女性が歩いてくるのが見えた。
その女性は白いノースリーブのワンピースにベージュのカーディガンを腕に引っ掛け、
白地にベージュの花飾りがついたサンダルを履いて恰好良く歩いてくる。
彼女は25歳になっても変わらず美しく輝いていた。その姿は次第に大きく、リアルになってくる。
そして俺の前まで歩いてきてピタリと立ち止まった。彼女の左手の薬指にある翡翠の指輪が静かに存在を主張する。

「ここの空って日本よりもずっと透き通ってるのね、綺麗だわ」
「君も、綺麗だよ」

口から自然と言葉が出た。
すると彼女は下を向いた。その肩は小刻みに震え、零れ落ちた涙はワンピースにポツポツと跡をつける。

「ごめんなさい。私、臆病だった」
「君が悪いんじゃないよ」

俺たちは優しく、しかし、しっかりと抱きしめ合った。
彼女の爽やかで甘い香りは懐かしく、初めて電車の車内で語り合った時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

「ずっと好きだったの、貴方のこと」
「俺も、ずっと好きだった」



 「Where's Taku?」
「He's on vacation. And, he went to the airport in Lima to meet his lover」
「How far! By the way, did he go to there leave open his personal computer?」
「He may have been hasty」
「…Oh. Is this E-mail?  What content is it?」
「I can't understand Japanese」


 拝啓

  この猛暑の中、いかがお過ごしですか。
 私は相変わらず元気で、色んなことに感動しながら過ごしております。
  さて、貴方からの最後のメールを受け取ってから、もう4年経ちました。あの時は返事をしなくてすみませんでした。
 実は前々からサークルの後輩に貴方の話を聞いていたので、それとなくオザキさんは貴方であると気づいていました。
 しかし、そのことを話すと貴方からの連絡がなくなってしまうような気がして、真実を言えませんでした。
 ですが、貴方は勇気を出して早々に私を探し出してくれました。そして私の為にそんなに心を痛めていらっしゃったとは。
 本当に申し訳ありませんでした。
  あの時のことを話させてください。あの時――貴方が私に好きだといってくれた時、私は突然のことに戸惑っていました。
 しかし、心のどこかで嬉しいと思う自分が存在していたのです。
 そうした自分の心に一番驚いてしまい、私は何と言えば良いのか分からず呆然とするしかなかったのです。
 結局、返事をすることもできず、貴方と別れてしまいました。
 その後、貴方はきっとあの時の私の態度に憤慨しているだろうと思うと、何となく貴方に近づけなくなってしまいました。
 私は臆病でした。貴方に嫌われるのが何よりも怖かったのです。ですから貴方にこれ以上嫌われたくないと怯えた私は、
 貴方に話しかけることすらできなくなったのです。ですが貴方のメールを読んで勇気が出ました。
 それまでも、いいえ、今でも貴方に会いたいと思っているのです。
 しかし貴方は夢を叶えているのに私はまだ実現できていなかったので貴方にどんな顔をして会えば良いのか分からず、
 夢を実現してから自信に満ちた自分で会おうと思い、今まで連絡を取っていませんでした。
 そして私は2年前から自分の出身幼稚園で働いています。今年から主任教諭になりました。
 子どもたちはとても元気で可愛く、毎日新しい発見や感動でいっぱいです。
  まずは挨拶まで。今後とも宜しくお付き合いのほどお願い申し上げます。
                                                                          かしこ
  8月2日
                                                                        香川 冴子
 小澤 拓哉様

   追伸 8月9日に日本を発ち、10日私の大好きな時刻にリマの地に立てます。
       地上絵を見に行くつもりですので、偶然、貴方と会うことがあれば、約束通り案内をお願いしたいと思います。
       そして、もし貴方が今までの私の行為を許してくれるのであれば、その時は一緒にワインを飲みましょう。










―完―


最後まで曖昧な情報しか与えず相手を試す冴子さん、超悪女(笑)

さて、ずっと後回しにしてきたこのSAEKOですが、自分的には青臭くて結構好きな作品です。
ちょっと古臭い冴子の口調の感じも私の生きた時代っぽくて。(でもあんな口調の人いませんけどw)
登場人物は全て私の高校時代のクラスメイトをモデルにしています。
ホントに皆で問題を出し合ったりしていたのでした。
まぁ、好きとか付き合うとかの人間関係と、遊びに行ったりするような関係は全然違いますけど^^; 
皆、今頃何してるんだろうなぁ…。
ちなみに小澤くんのモデルになった人も考古学を専攻した…筈。
更に言うと、私を冴子とすると実際に仲が良かったのは真田のモデルになった人です(笑)
彼と私でいつも世界史の点を競っていたのでした。

というわけで、結構文字の多いこの作品でしたが、
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
少しでもこの作品の青臭さを気に入ってくださる方がいらっしゃったら幸いです。


吉永裕 (2008.5.22)



解説を読む     メニューに戻る