アークバーンという小さな大陸には伝説がありました。

「光と闇がひとつになる時
 世界を変える力が手に入る」

 そうしてその絶大な力を求め、長い間、光と闇の両国は争い続けてきたのです。
しかし、一人の少女によって争いは終わり2つの国は1つの国に生まれ変わって、アークバーン大陸は救われました。

「――ねえ、お母さん。皆は幸せになったけど、その少女はどうなったの?」











 ラスティア山の山頂に着いた全員は以前とは異なった面持ちで祭壇を見据えた。
そしてそれぞれが持つ宝玉を取り出してレジェンスへ託していく。

「……皆、ありがとう」

 レジェンスは受け取った7つの宝玉を台座に置き、最後の1つである銀玉を懐から取り出して台座に置く。
あの時とは全く違う状況だ、とレジェンスは目を閉じる。
 あの時はアーク国とバーン国がまだ睨み合っていたし、バーン地方の者たちのことは何一つ知らず、剣を交えた。
伝説の宝玉で全て丸く収めようとして問題から目を逸らし勝手に期待した。
その結果、宝玉は光らなかったし、もっと一緒にいて話を聞くべきだった最愛の安奈を失った。
 しかし、この大陸の未来の為に心血を注いで無事にやり遂げた今なら応えてくれるのではないだろうか。
我々の奮闘と挑戦と成功の軌跡を神が認めてくれるのではないか、と。

 レジェンスは呼吸を整えて祭壇の前に立ち、胸の前で手を組んで神に呼びかける。

「――宝玉よ。8つの封印を解き放ち、今ここに力を解放せよ」

 レジェンスが呪文を唱えると8つの宝玉は眩しい光を放ち、暗い山頂に電飾が灯ったようだった。
以前はそこで光は立ち消えてしまったが今度は目を開けられない程の光を発し続け、遂には太い柱となって空へ伸びていった。
まるで防御壁から光が天へと上っていった時のように。

「私の眠りを覚ましたのは誰だ」

 光の柱の中には、人間に羽が生えたような姿の存在が現れた。
余りの目映さに彼らは目を細めたり手庇を作って声の主を捉えようとした。
逆光で詳細は見えないが、彼は空中で見えない椅子に座っているかのような格好で浮かんでいる。
 伝説の宝玉が応えてくれたことに彼らは呆然としていたが
次第に落ち着きを取り戻すうちに光も神の周りを包む程度に和らいでいき、
レジェンスたちは改めて神の姿を拝した。
 男神のように見える神は余裕綽々といった様子で笑みを浮かべながらも眼光は鋭く、こちらを見定めているかのようだ。
その威圧感に押されてレジェンスは一歩下がる。
恐らく彼がこの大陸の守護者であるオーランド神であろう。
 挑戦と快楽を司る神・オーランド。
もしかすると宝玉が応えてくれてもオーランドに気に入られなければ、願いは叶わないかもしれない。
何せ挑戦を司る神なのだから。

「――私です」

 覚悟を決めて来たのだと自身を奮い立たせレジェンスが前に出る。
すると意外にもオーランドは表情を緩ませ、全てを見ていたと言わんばかりにレジェンスたちを見渡すとうんうんと頷いてみせた。

「封印が解かれるのは久しぶりだな。
 大陸が2つに割れ、争いが続く限り再び目覚める事はないかと思っていたが……。
 よくぞ、私の封印を解いた。1つ、願いを叶えてやろう」

 その光の主は立ち上がり、見えない階段を下りるようにして空からレジェンスの元へ近づいて来た。
これが本当の姿だとは思わないが、自分たち人間と同じようなサイズをしている今のオーランドは
人間で言うと30代のような見た目をしていた。
 日に焼けたランのような健康的な肌色で、鍛えている兵士のような筋肉質な体格だ。
そんな姿が近衛隊長であるククルの父親にどことなく重なる。
 レジェンスは不敬とは思ったがこの神に親しみを覚えた。
少し緊張が解れた彼は更にもう一歩前へ踏み出た。

「さぁ、願いを言うがいい」
「私の願いは――」









最終話 アークバーンの伝説 〜Chapter of the shining prince〜










 瞼を開いた瞬間に飛び込んできた光の愛おしさ。
この感覚はいったい何だろう――そんなことをぼんやりと思いながら、寝ていた体を起こす。
 しかし目の前に広がったのは見たことのある祭壇と日の出を迎えようとしている薄暗い空。自分の足の下には茶色の地面が。
この状況に困惑しながらも立ち上がり周りを見渡すと、どうやらここは……。
 ――嘘だ、これは都合の良い夢なんだ。
自分の頭に浮かんだ考えを否定しようとして首を振った。
 今はしっかりと覚えている。あの世界に行く前のことも、あの世界でのことも。
どちらも大切な場所だった。大切な人たちとも出会えた。
 産み育ててくれた両親以上に心残りがある人物の顔を思い浮かべる。
そう、優しくて温かなエメラルドの眼差し、夜でも光りを放つような目映い金髪の――目の前にいる彼、そのもの。
なんて幸せな夢なのだろう。彼が駆け寄ってくる。

「アンナ!」

 ……アンナ。そう、私の名前は星野安奈。 
そして、貴方は――

「――レジェンス?」

 夢の中だと思っていた安奈の瞳から涙が零れた。
何故なら痛い程にレジェンスが自分の身体を抱きしめていたから。

「夢、じゃない?」
「ああ、夢ではない。確かにそなたはここにいる」
「……私、生き返ったの?」
「あぁ、宝玉の力でな」
「まさか、封印が解けたの?」
「そうだ」

 そうしてレジェンスは安奈が消えてからの出来事を簡単に話した。
カルトスと話し合って両国が戦争を放棄し共和国を作る為の革命を起こしたこと。
無事に共和国が建国され、国民に大災害のことを知らせて協力を仰ぎ、魔動機器を組み込んだ防御壁を作ったこと。
そして、無事に厄災を逃れたこと。
その後、宝玉を持った全員が自らの意思でラスティア山にやって来て儀式を行えたこと。

「……奇跡が、起こったんだね」
「そうだ」
「良かった、本当に良かった……」

 安奈は安堵の涙を流す。
レジェンスは彼女をそっと抱き締めた。

「――じゃあ俺たちは行くぜ」
「では、次の機会に会いましょう」
「俺もこれで失礼する。レジェンス殿、落ち着いた頃に連絡する」
「ああ。皆、本当にありがとう」

 かつてのバーン国の者たちも二人に気楽な挨拶をしてラスティア山を下りていく。
彼らの間にはもう何の隔たりも感じない。
安奈は本当に国が一つになったのだと実感した。

「――これはそなたのものだ」
「ありがとう、持っていてくれたんだね」

 レジェンスは懐からネックレスを取り出し、安奈の背後に回った。
一度は手放してしまったエメラルドのネックレスは変わらず美しい。
彼は引き輪にチェーンを通し終わると、安奈の手を取り祭壇の前へとエスコートする。

「今から私の両親のところへそなたを連れて行く。そなたを妻として紹介するつもりだ」

 安奈は言葉を失った。勿論、嬉しい意味で。
そんな彼女の前に跪き、レジェンスはネックレスと揃いのエメラルドの指輪が収まった箱を開いて見せる。
目覚めてからずっと涙が止まらない安奈は口元を押さえて俯いた。
 こんな日が来るなんて信じられなかった。
自分の気持ちに気づいても身分があって諦めるしかなかったし、何より文字通り生きる世界が違っていた。
最後に想いが通じ合えただけでも幸せだと思っていたのに。

「あの日から、私の時間は止まったままだ。
 周りがどんなに変わってもそなたのいない世界はどんなに味気なく空しかったことか」
「私でいいの?突然現れた身元不明の私を王様たちは許してくれる?」
「勿論だとも。大陸中の者たちが祝福するさ」

 レジェンスは立ち上がり、感動で震える安奈の左手薬指に指輪をはめる。
いつの間に調べていたのだろう、驚くほどにぴたりと彼女の手に馴染んだ。

「アンナを愛している。ずっと傍にいて欲しい」
「私も、愛してる。ずっと貴方の傍にいるから。二人で新しい世界を見て回ろう」

 声を詰まらせながら安奈はプロポーズに答える。
二人は固く抱きしめ合い、唇を重ねた。

 ラスティア山の二人を祝福するように太陽が水平線から昇ってくる。
防御壁に押し寄せた波も既に消え、海は凪ぎ、昨日と変わらぬ太陽が昇って世界と二人を照らした。
 二人の人生とアークバーン国は今から始まるのだ。














 アークバーンという小さな大陸には伝説がありました。

「光と闇がひとつになる時
 世界を変える力が手に入る」

 そうしてその絶大な力を求め、長い間、光と闇の両国は争い続けてきたのです。
しかし、一人の少女によって争いは終わり2つの国は1つの国に生まれ変わって、アークバーン大陸は救われました。
 そして伝説の救世主となったその少女は、平和な国で光の王子と呼ばれた最愛の人と生涯幸せに暮らしましたとさ。














 ―おわりー











終わったーーーーー!!
前回からだいぶ経ってしまってすみません!最後まで駆け抜けたかった!
とはいえ、何とかレジェンス編を終えることができました。
とはいえ、蛇足的なエピローグなどは省いています。見たい方は原作の方でちらっと確認してみてください。

原作が乙女ゲー風なイメージで、小説に興味のない人でも気楽に読めるモノを、というコンセプトだったので
台詞が主ななんちゃって小説でしたが、それを補完するのが本当に難しかったです。
場面毎の情景や人物描写など皆様の想像にお任せしていた部分と、
テンポ良く物語を薦める為にある程度省略していた主人公の心理描写や各キャラクターの事情、背景などを
リメイク版ではできるだけ書こう!(いや、それが小説書く上では当たり前なんですけど)と思い、
頑張ってきたつもりではありますが、年々年を重ねていく内に創造の瞬発力が落ちていって
頭でっかちな文章しか書けなくなっていき、更に筆が遅くなるというジレンマに陥っていました。
とはいえ、私の最初の連載作品で大切な存在ですので、舞台や世界観やキャラクターたちも今後も大切に描きたいという気持ちがありまして、
そんな気持ちを結集させてなんとか終わらせることができました。

甘っちょろい夢物語な展開ですが、最後までお付き合いしてくださった皆様、本当にありがとうございました!

次は誰を書こうかまだ迷い中です。
よろしければ次のメンバーの話もお楽しみに!


吉永裕 (2021.8.14)


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