Jの告白 −6−
ペアを組むこと決めた私たちだったが、翌日に私の休息日が来てしまったので
ユージンだけ先にピアスホールを開けに病院に行った。
私は予定外に休息日がきたことに驚き、休息日が終わってから母にも勧められてかかりつけ医に見て貰うことにした。
恐らくルネやユージンの強いフェロモンを浴びたことで
私のフェロモン感度が上がったのだろうと医師は説明した。
けれど、ペアを組んだら安定するだろうということも。
休息日が終了した2日後、私もピアスホールを開けに行った。
その足でアクセサリー店に向かってブラッド結晶のピアス加工とリングの予約をして帰る。
家に帰ると玄関前でユージンが待っていた。
一週間と少し会っていなかっただけなのに、待ち侘びたといった様子で私を迎えた彼は無邪気な笑顔を向ける。
そんな彼を自室に通して、私たちはまたベッドを背にして並んで腰を下ろした。
彼は鞄から長細い箱を取り出して、私の薬指に合うように作った守護契約用のリングと
ペア用のボディピアスを見せてくれた。
彼のブラッド結晶はマゼンタ色をしていて、とても綺麗だった。
「のができたら交換しよう」
「うん」
「ピアスホールの処置の仕方、ちゃんと習った?」
「うん、大丈夫。消毒液とかガーゼとかも買ってきた」
「そうか。俺の方はもう落ち着いてきたからいつでも大丈夫だけど、ペアになるのは様子を見てからだね」
「分かった」
「ね、先に指輪だけ渡しておいていい?」
「うん。……着けて」
「守護契約はクイーンが自分で着けるものだけど」
「そうしないと絶対に駄目なの?」
「いや、そういうわけでもないと思うけど。形式的なものだと思うし」
「じゃあ着けさせていただきます、女王様」と言ってユージンは私の左手を取って
リングを薬指にゆっくりとはめる。
「これでユージンの相手はペアも守護契約も私になるんだね」
「そうだよ。俺の全部がのものだ」
そう言ってユージンはリングを着けた私の手の甲にキスを落とす。
子どもじみているとは思ったけれど、私はこれからもユージンを独り占めできることが嬉しくて、
私たち二人ならどんなことでも乗り越えられるし、やり遂げることができるだろうという自信すら湧いてきた。
「ずっと一緒だよ、」
「うん、一緒にいる」
私たちは手を重ねて誓い合う。
ユージンが相手なら、いずれ私たちはハートのペアになれるだろうと私は思った。
高校二年生の冬にペアとなってからの休息日は毎月来るようになった。
彼女が休息日に入ると俺は放課後、彼女の家に寄って一緒に過ごす。
ペアになってからはフェロモンが落ち着いて高熱が出にくくなったが、
それでも微熱は出るのでほぼ一日中ベッドの上で過ごす為、酷く退屈なのだそうだ。
俺が訪問すると嬉しそうに出迎えて、俺の手を掴んで自分の頬にあてる。
俺の体温は低めなので気持ちいいらしい。
ペアになったことで完全にクイーンの素質が出始めたは、おっちょこちょいだった性格はすっかり息を潜め、
委員長となって皆を力強く率いたり、陰ながらサポートしたりするようになり、皆から頼られるような存在になった。
他人のフェロモンの影響を受けなくなったこともあって勉強に集中できるようになり、成績も学年三位以内に入っていて、
あっという間に憧れの先輩として有名になってしまった。
それでも以前のように焦る気持ちは一切湧かないのはペアとなったからだろう。
臍のピアスに服の上から触れるだけで、俺は彼女のものであり彼女は俺のものなのだという強い気持ちが俺の身体中に溢れてくる。
ルネは俺たちがペアになったことを知って軽くショックを受けていた。
奇跡とも言われる運命を失うと、言いようもない喪失感を覚えるらしい。
けれど、時間が経つにつれてそんな気持ちも自分の中で上手く処理できたようで、
漸く運命から解放されたと言って前向きに毎日を送っている。
もペアを組んでからルネに対する執着心のようなものが消えたと言っていた。
やはりあの感情はバースによるものだったのだ、と少し落ち込んでいたけれど
彼女もまた前向きに俺との人生を考えてくれているようだし、バースに対する嫌悪感も薄まってきている。
――いや、薄まってきていると言うよりも。
「――ごめんな、。
バースに振り回されないように俺を選んだのに。
俺が振り回すことになっちゃった」
キスしただけで気絶してしまったをベッドに運び、布団をかけてやった俺は彼女の髪を梳く。
彼女の薔薇色をした頬を指でくすぐると「ん……」という吐息が漏れた。
眠る彼女の額に唇を落とす。
そして布団から出た彼女の手を取り、指輪がはめられた左手薬指を撫でた。
「でも、安心して。の管理はちゃんとするから。
セックス依存症になんてさせないよ。
規律ある生活が送れるように俺、頑張るから」
――嘘ついてごめんね、。でもきちんと確認しないお前も悪い。
俺には守護契約なんて無理って言っただろ。
「俺はJはJでもジョーカーの方なんだよ。
はジョーカーのフェロモンに呑まれたんだ。バースへの嫌悪を忘れるくらいに」
――俺はが嫌ったバースをずっと利用している。
俺の中に蠢く欲はとても醜くて暗いものだ。
俺は幼い頃から彼女の頭を撫でる度にごく僅かなフェロモンを出していた。
彼女が俺の手を無意識に欲しがるように、俺の存在を求めるように。
物心つく頃から俺にはしかいなかった、だけが欲しかった。
がクイーンだと確定する前から俺だけは知っていたのだ。
それなのに後から現れた運命なんかに奪われてたまるものか。
彼女の幸せを他人に握らせるつもりはない、俺が彼女を幸せにする。
フリーのクイーンに対してフェロモンを利用して何が悪い。
その為に俺はジョーカーとして生まれたのだ。
彼女を運命から奪い取れるほどの快感を与える為に!
「真実を知ったとしても、どうか俺を嫌いにならないで。
身体で繋ぎ止めるのは悲しいから」
が眠っている時だけが俺の告白と懺悔の時間。
ジョーカーだってジャックと同じように守ってみせるさ。
これから先、ずっと。
− 完 −
数日前にこんな内容の夢を見てから、一気に設定から話まで作り上げてしまいました。
久々の創作欲にびっくり。
でも、大晦日なんだよなぁ。
今年はサイト開設記念日以外に何も更新がなかったもので、もっと早く創作意欲が来て欲しかった……。
というわけですけれど、今年も最後まで自分だけが得する設定マシマシですみませんでした!!
最近、バース系が流行ってるみたいで、私も二次創作で読んだことはあったのですが、
自分で設定から作ってしまうとはおもわなんだ。
私の好きなものを好きなように詰め込んだ設定ですが、もしこの設定で何か書いてみたいと仰ってくださる方がいらっしゃいましたら
是非使ってみてください。
という感じで、作品自体の後書きを。
今回はリーフグラント大陸の話です。リーフグラントは神のマリービーンが人々に失望して長い間氷漬けになっていましたが、『destin』終了と同じ時期に氷が溶けます。
そのせいでアークバーン大陸は危機に陥るのですが…。
今回の話はそのずっとずっと未来の話です。
他の大陸では神の愛は魔力や霊力として具現化されるようになっていますが、リーフグラントの場合はバースとなっています。
バースを受け入れ上手に社会システムに組み込みながらバースのない人とバースのある人とが共存して生きていくこと、
それがマリービーンが与えた試練であり愛であります。
この話のユージンは最初からしたたかにヒロインさんとペアになることを考えて行動しています。
タイトルの時点でピンときた方は多いかと思いますが、ジャックを装いながら少しずつマーキングしていって
相手の幸せを願う素振りをしながら最終的にフェロモンと接触で押し切ろうと思っていた感じです。
最後ら辺はホラーのつもりで書きました(^_^;)
奇跡的な運命のペアを結構あっけなく書いておりますが、私としては王道な運命のハートのペアも好きだし、
それに横やりを入れてその上でラブラブで幸せになるハートのペアも大好きだなぁと思いながら書きました。
エースの話も書いてみたいですが、凡人以下なので天才を書くのってめっちゃ難しくて。
エースの女の子にキングの男の子が従うっていうのもなかなか良いと思いませんか!?
色んな可能性を考えられるのがバースの良いところだと思っています。
またいつか思いついたらこのカードバースで書いてみようと思います。
というわけで、ここまで読んでくださった皆様、ありがごうございました!
来年もどうぞよろしくお願いいたします!!
吉永裕(2019.12.31)
メニューに戻る