カミツレと双子
昔、同じ民族同士での争いが続く国がありました。
広大な国内の地下には貴重な資源が多くあり、それが国に認知され国のものになる前にと、人々は土地そのものを奪い合っていたのです。
それを王様も貴族院も見て見ぬ振りをしていました。
争いに介入し、自分たちに争いの火が降り注ぐことを恐れたのです。
そんな荒れた国に平和を愛する双子がおりました。
兄のイルキは優しくて明るく、弟のウルカは勤勉で実直な少年でした。
二人は早く国が平和になり、荒れ地となった大地が草花で覆われるようにと白い花の種を植え、二人で大切に育てました。
それを見た魔導師の青年は、彼らの志が世界に広がるようにと花に命を与えました。
すると花は美しい少女の姿になり、無言で彼らを王都へと導いたのです。
数年後、各地で平和を説き、同志を増やした兄弟は仲間と一緒に王の城を取り囲みました。
民族同士での争いをやめさせる為、王や貴族たちに実情を知ってもらい、彼らに立ち上がってもらおうとしたのです。
そんな兄弟らの勢いに押され、渋々王は代表である兄弟の謁見を許可しました。
――謁見の前夜。
兄弟と少女は火を囲んでいました。
「これで少しは争いの火が収まり、人々の生活が楽になるといいのだけれど」
イルキは空を見上げ、残りの二人も頷き月を眺めました。
三人の目に映る月にそれぞれの想いを重ね、無言の時が過ぎていきます。
ふとウルカは今や仲間たちの中で平和の象徴となった少女に尋ねました。
「もしこの国が平和になったら、君はどうする?」
少女ははっきりと言いました。
「私は二人の想いが魔法で具現化されたに過ぎません。
二人が願った平和への願いが叶えば、私は使命を果たし消えるのみ」
その言葉にイルキは悲しそうに俯き、ウルカは言葉を失いました。
イルキが再び空に目をやると黒い雲が月を飲み込んでいました。
それを見た三人は慌てて火を消し、屋根の下へと移動したのでした。
謁見当日、三人は嵐のような天候の中、城へ行きました。
王との謁見が叶い、気合いが入るイルキと神妙な面持ちのウルカ、そして真っ直ぐ前を見つめる少女。
表情とは裏腹に埃まみれで所々破れた服を纏った彼らに王や従者は目を逸らします。
しかし、少女が瞬きをしたまさにほんの一瞬。
彼女が口を開いた時には既に王とイルキの身体からは血が吹き出していました。
我に返り槍を構える兵士たち。
槍を向けられたのは鮮血の滴る剣を握るウルカ。
次々に襲い来る兵士たちを鬼神のような動きで斬り捨てていくウルカの形相は先程とは全く違うものでした。
そうしてその場にいた兵士たちがすべて動かなくなると、ウルカは血に塗れた玉座に腰を下ろしました。
「何故なのです、ウルカ!?」
何故このようなことを起こしたのかと少女は嘆きました。しかし彼は答えません。
答えないかわりに彼は自らがこの国を導くと宣言しました。
そうして少女を城から追い払ったのです。
その後、イルキの遺志を継いだ少女は白い服を脱ぎ捨て深紅の鎧を身に纏い、反ウルカ勢力の統率者として立ち上がりました。
それからウルカと少女は三日三晩戦い続け、四日目の太陽が昇る頃、ウルカは少女に胸を貫かれて息絶えました。
しかし、彼の顔はとても安らかなものでした。
彼は兄を殺してでも少女をこの世界に残したい程に彼女を愛してしまっていたのです。
彼女が存在するために平和な未来を投げ捨てたウルカの執念はその後もその土地に遺ることとなりました。
そして傾いたその国はあっという間に滅ぶこととなり、動乱の時代の幕が開いたのです。
事の顛末を見ていた魔導師は己の愚かしさに頭を垂れました。
実は魔導師はこの亡国を含む大陸を守護する神だったのです。
自らの関与で一国が滅んでしまったことを酷く嘆いた彼は神で在ることを拒絶しました。
するとその大陸からは神の加護が完全に失われ、大地や人の身体に宿っていた魔力は消え去りました。
その後、人々の資源争いは更に激しさを増し、大陸中に広がった戦乱によって自然は殆ど失われ、戦いの跡地には砂漠が広がることとなりました。
――神が消滅して千五百年以上経った今、大陸は多様な進化を遂げています。
砂漠が大陸の八割を占めているにもかかわらず、人々は逞しく生き続け、道具を作り機械を生み出しました。
しかし大陸の西部だけは自然が残り、人と魔物が共存しています。
その土地には珍しい赤色のカミツレが何百年も咲き続けていると伝えられています。
その花は恐らくかつて白い花であった少女なのでしょう。
そして、ウルカの愛した少女は彼の最後の願いそのままに、世界が平和になるまで存在することになるのです。
(AHD3455年にカミツレ村のエルフの村長から話を聞いた神の名を持つ青年の手記より)
カミツレはカモミールの別名です。花言葉は苦難に耐える。(by『誕生花366の花言葉』)
この話は実は色んな作品にかかわっているのですが、ほぼ私の頭の中で構想中の作品なので
何がどうとか説明できないのが酷く口惜しい…。電波を中途半端に放出して自己満できないっていうお客様に不親切な作品ばかりで申し訳ないです^^;
ちなみにピンときた方もいらっしゃるでしょうが、これはサウスランドの話でテラ消失の原因となった事件を描いています。
吉永裕(2011.8.7)
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