意識を取り戻したは体力も徐々に回復していった。
リハビリで自力で生活できる程度まで筋力も戻し、退院する頃にはすっかり元の朗らかで明るい人格を取り戻したようだった。
 それでも記憶は未だ戻ってはいなかった。
元々の後見人を勤めていたデルタが彼女を引き取ることになり、
彼女はパッシたちと一緒に暮らし、パッシがしているギルドの受付の手伝いをするようになった。

 のパーティは解散した。
カイトは傭兵を続けているので時々ギルドを訪れその度にパッシやに声をかけるが、それ以上の関わりはなくなった。
アステムは幼馴染みを探す為にティン島から旅立ち、リットンは実家に戻って家督を継ぐ為の準備をしているそうだ。
レディネスは魔王としてまずは自国の制度を整え、獣型魔物の被害を抑えるべく制御方法を研究したりパトロールを強化しているようだが、
時々堅苦しい生活に嫌気がさして傭兵団のギルドへ遊びに来る。

 記憶をなくしたままのを、彼らは無理に治療しようとしなかった。
これまで色んな記憶を埋め込まれたり前世の記憶を思い出したりして混乱してきた彼女が、再び混乱したり困惑して新たな生活に悪影響を及ぼすのを恐れたのだ。
皆の願いは「には穏やかで幸せな人生を送ってほしい」だ。
 その中で記憶が戻り「またメンバーに会いたい」と思ってくれたらその時はどこにいても会いに来る、と約束して
彼らはそれぞれ自分の人生を歩み始めた。

 パッシはいつも一緒にいて和気藹々としていたパーティメンバーがバラバラになってしまったことが残念だと思ったし、
こういう時こその傍にいてあげてほしいと思ったが、一緒に戦ってきた彼らだからこそ彼女の安寧を求めるのだろうとも思った。
 自分も犯罪者となってしまった兄がどんな判決の結果になったとしても最期は穏やかであって欲しいと願わずにはいられないのだ。
そんな彼に人生を踏みにじられたのことを気の毒に思うと共に、彼に代わって自分たち家族が償いたいとも思っていた。
 けれどそんな気持ちを彼女は分かっているようで、変に気を遣うと悲しい顔をするのでいつの間にかそういう気持ちは消えてしまった。
今は家族として仲間として大切に想っている。

「パッシさん、来週は傭兵としてお仕事に出かけちゃうんですよね?私、一人で受付の仕事できるかしら」
「大丈夫だって!は今でも十分上手くやってるよ。ルールも全部覚えてるし、手続きも完璧だし。
 それにに見送られて仕事に行って、帰ってきた時笑顔で出迎えられるとさ、なんか――」

 パッシはそこで言葉を失う。

「なんか…何です?」

 は首を傾けてパッシを見上げた。
一緒に働き始めて半年ほどになるがいつの間にかパッシの方が明らかに背が高くなっていた。

「――なんていうか、その、ホッとするというか。帰ってきたなって安心する感じ?」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 パッシは気づいてしまった。
ギルドの受付としてではなく、自分だけに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を言って欲しいことに。
 白紙になってしまった彼女に自分は新しいページとして存在はしているのだろうが、いつ昔の記憶が戻るかは分からない。
その時、彼女はかつての仲間たちのように旅立ってしまうかもしれない。
彼らの中の一人を追いかけることになるかもしれない。
そんな未来が来たとしたら、自分は彼女の旅立ちを笑って見送れるのだろうか。

 余計なことを考えてしまったと、パッシは一度目を閉じてぱっと見開いた。
今は仕事に集中しよう。いつまで記憶も仕事も関係もこのままでいるかは分からないけれど、
とりあえずは一番傍で彼女を守れる存在でありたいとパッシは思った。



「いってらっしゃい」

 任務に発つパッシをが見送る。
任務内容は依頼人を隣村まで護衛という程度のものであるが、油断大敵だ。
無事に任務を成功させて、彼女の笑顔の「おかえりなさい」をこちらも笑顔で受け止めたい。
 若き傭兵は意気揚々と一歩踏み出した。









-Normal END-




これにて、 『missing』 完結です!!
サイト開設当初から公開していた連載小説で、完結するまでにまさかの20年かかるっていう……。
本当にお待たせいたしました。
とはいえこれはNormalENDという名のパッシENDではありますが。

さて、このmissing。
連載が長すぎて何でタイトルmissingなんだっけ?って成ってしまった情けない作者であります。
単語を調べたら、行方不明者とか失われた物とかで、
「ああ、そうだ。ティン島での傭兵行方不明事件とヒロインさんの記憶消失に絡めてmissingにしたんだった~」と
20年経った今頃思い出しました。
各キャラそれぞれも失ったものがあって、そのトラウマ救済の為の小説でしたのであまり恋愛に力を置いていなかったのと、
戦闘シーンが難しくて手が止まっていました。
本当に待たせてしまったお客様、すみませんでした。
そして最後まで見てくださってありがとうございました!
サイト20周年を迎えることができましたのも、応援してくださる皆様のおかげです。
missingは完結しましたが、他にもまだ書きたい話や書き途中のものもあったりするので
今後も是非足をお運びいただけると幸いです。
どうぞ今後とも宜しくお願いいたします!

裕 (2025.11.3)


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