*この話は人によってはグロいと思われる描写があります



 レディネスはサンティアカのギルドを訪れていた。
受付にいるのは見覚えのある少女――のアンドロイド。
無表情で仕事の受付や報酬を渡すための受付装置と化した存在。

 女神が人として生きるのを見守るつもりだったのに、彼女の人への愛も自分の希望も全て爆発四散して失ってしまったあの日。
もっと早く彼らを止めていれば良かったのか?さっさと早く彼女を保護していれば良かったのか?と何度自責したか分からない。



、どうした? 具合でも悪いのか?」
「……っ……あたまが…痛い……っ――頭の中から声がする、いっ、いや!!!」
「大丈夫かい?少し休もうか」
「何か冷やすものを――」

……どうし――っ!?」

っ! どうしたんだよ! 聞こえないのか!?」
「……コロス」
「え――」

「おい、近くに幻術でも操る魔物がいるのか?」
「いや、魔物の気配は全く感じない」
「しかしのあの様子は――」
「っ危ねぇ!!!」

「あいつ、炎の魔法も使えるのか?」
「雷魔法が使えるのだからそのくらい容易いだろうう。
 ……が、普段はかなり力をセーブしているようだね。威力が半端ないな」
「一番敵に回したくない奴かもしれない」

「どうしたら正気に戻せると思う?」
「術者がいるならそいつを倒せば何とかなるが……」
「この野原にいるのは私たちだけだからねえ」
「……仕方ない、力尽くで無力化するしか」

「うっ…」

「――ごめんなさい」

 悲しそうに呟いた後、は自爆した
彼女の頭が吹き飛ぶ瞬間を見た。一緒に吹き飛んだカイトやアステム、リットンの体に焦げ付いた彼女の皮膚や髪の毛が張り付いている。
レディネスは絶望した。救えなかった自分に。彼女を止めるためとはいえ全員で攻撃したパーティの面々に。彼女が愛そうとしたヒトというものに。
 は死に、キャスカは行方不明になり、カイトとリットンは精神崩壊を起こして精神病棟へ入院。
アステムは入院こそしなかったけれども食事をすることなく静かな自殺を選ぼうとしており、パーティは崩壊した。



 その後、新たな魔王となったレディネスは魔王軍をエウリードの施設に突入させてエウリードがテロを計画していたことを発表し、
これを機にこのティン島を魔王軍が統治すべく、傭兵団と帝国軍へ宣戦布告する。
そしてその過程で機械化されたを発見した。
 正確にはの複製を機械化したアンドロイドだった。
彼女と同じ顔をしたアンドロイドを破壊することができず、レディネスはエウリードにプログラムされた彼女のデータを全て消去した上で初期化した。
壊せはしなかったけれど、彼女を傍に置いておくこともできなかった。
仕方なく傭兵団のデルタへ預けることにした。彼とは顔なじみで人となりは分かっていた。
それに彼女を預けることで傭兵団へ借りを作って傭兵団とは和平を結ぶことに成功した。
 ティン島からは帝国軍だけが出て行けば良い、とレディネスは考えていたからだ。
傭兵団は所詮傭兵の集団だ。自治はできても国家経営するほどの力はない。これからは魔王軍の下請けにするだけだ。
いずれ取り込むことになるだろう。何せ自分は長生きの種族だ。
ミーシャが生まれ変わる500年もの間待てた男だ。傭兵団を取り込む為の数百年程度くらい何ともない。

「……許せないのは今でもお前がヒトや魔物を信じているところだ」

 魔王軍城の一室でレディネスは窓の外を眺める。
が死んだあの日から、空から淡い色をした雪のように小さい光の粒が降り注いでいた。
彼女の愛が魔力となってこの大陸に降り注いでいるのだ。
それによってこの大陸は神が消失しているのにもかかわらず魔力が失われなかった。

 仲間に攻撃され、理不尽な死を迎えても、それでも彼女はまだヒトやこの世界を愛すというのか――

「お前のそういうところ、嫌いだ」

 レディネスはそう呟いてカーテンを閉めた。


 このエウリード事件から470年後、優性処理された者たちが政治も社会も牛耳るようになったネープル帝国でレジスタンスによる革命が起きる。
革命によるものかは不明だが、同時にネープル帝国の首都でテクノロジー消失事件が起きた。
一夜にして街が近世時代の町並みになってしまったのだ。
それにより先進化した機器や設備は消え、中枢にあったマザーコンピュータに蓄積された数百年分のデータも失われた。
金に糸目を付けず最新の医療機械で50年ほど命を繋いでいた優性処理をしていた富裕層は次々と亡くなり、
労働力として使われていたアンドロイドも施設と共に消え失せた。
 
 そのレジスタンスに接触していた男の容貌がレディネスに似ていたという噂があったが、
ロストテクノロジーによって国家としての機能も民衆の生活も停止してしまったネープル帝国は魔王軍に頼らざるを得ず、
後に魔王軍に併合された為に記録は一切残っていないという。









-BAD END-



公開するか迷っていたバッドエンドルート。
しかしながら書きたいと思っている話や別の作品に影響してくるので書くことにしました。
これはネープル帝国でロストテクノロジーが起こった歴史の流れを生み出す分岐です。
この歴史が影響する作品の多さからいうと、どちらかというとこれが正史かもしれない。
レディネスが闇落ちして救われない内容です。
それでもまた女神が転生したらレディネスはまたヒトを信じようかという気にはなるキャラなんですけどね。
この話はバッドエンドではありますが、他のエンドも見ていただけると幸いです。

最後まで見てくださってありがとうございました!
サイト20周年を迎えることができましたのも、応援してくださる皆様のおかげです。
missingは完結しましたが、他にもまだ書きたい話や書き途中のものもあったりするので
今後も是非足をお運びいただけると幸いです。
どうぞ今後とも宜しくお願いいたします!

裕 (2025.11.3)


メニューに戻る