第4章 第5節
施設内は暗くてどこか湿っぽくも感じる。
人や獣に機械化を施す施設なのに地下は石材で作られていて、どこかの遺跡調査に来たかのようだ。
それでも元々何もなかったところにエウリードが作り上げた施設なのだから、
この建物は彼自身と彼が生み出した機械化人が作り上げた城そのものなのだろう。
一行は先頭のカイトがランタンを掲げながら先を進む。
地下施設は広い折り返し階段になっていた。折り返す部分の左右に部屋の入り口が見える。
一つ一つ部屋の中を確認していった方が良いだろうかと一同は暫し立ち止まった。
時間は惜しいがこんな狭いところで挟み撃ちに遭ってはたまらない、とレディネスは部屋を確認することに決めた。
扉には鍵がかかっているので、レディネスは以前披露した影と一体化するような魔法を使った。
黒い霧に包まれた彼はぐにゃぐにゃと体を歪ませて影の中に入り込んだ。
鍵を壊さずとも扉の下のほんの髪の毛一本ほどの隙間から中に入り込めるなんてなんて便利なのかしら、とは感心する。
体が変形する瞬間を見るのはまだ少し怖いけれども。
そんなことを考えていたら、確認が済んだレディネスが戻ってきた。
「中は食料なのか実験動物なのか分からないけど、小型動物が檻に入れられてたよ。
害はなさそうだからそのままでいいだろう」
じゃあ次はこっちの部屋ね、と再びレディネスは影となって扉の下から向こう側へと向かっていった。
そして戻ってくると「ただの倉庫みたい」と言い、下に行こうと促した。
地下二階へ降りたところで二つの部屋の一つから気配を感じた。
獣のうなり声が聞こえてくる。恐らく機械魔獣がいるのだろう。
再びレディネスに偵察を頼んだ。今回は5分ほど中から出てこない。
心配して自分たちも扉を蹴破って加勢した方がいいかと顔を見合わせたところでレディネスが戻ってきて姿を現した。
少し疲れたような表情の彼は中にいた機械魔獣を始末してきた、と話した。
どうやら結界発生装置を破壊した時の魔力で機械制御に不具合が起きたのか、中にいた二頭の機械魔獣は動けない状態だったようだ。
なので彼は二頭の脳を破壊して命を終わらせた、らしい。
レディネスの話を聞いてなんと言えばよいのか分からず黙り込んでしまったに対して「これでいい」と彼は言った。
彼女も頷く。
「機械化された生き物は生きていてはいけない。将来的にそういう時代が来るかもしれないけど、それはこんな使役動物的な存在じゃないだろう。
魔硝石漬けにされ思考を催眠で制御された存在なんて許されない。
機械化は純粋に欠損部位のあって困ったり不便に生きざるを得ない人や動物にとってその部位の代わりとなる救いであってほしい。
今の技術力ではそこまで到達してないんだ」
だからこんな存在は消すしかない、とレディネスは語気を強めた。
今ある機械化された生物の命を全て殺しても良いかと言われたら、自分たちにそんな権利が?とは思う。
もしかすると魔硝石中毒が治って催眠からも解放されたら今まで通りに生きていけるのではないだろうか。特に人間は。
けれど、まともな精神を持つ人であればあるほど自分が改造された・体の一部が機械であるという事実に苦しむかもしれない。
そういう時はどうすればよいのだろう。やはり正気に戻す前に殺してあげればよかったとなるのだろうか。
それとも必死に彼らを受け入れて生きていてほしいと伝えたらいいのだろうか。
その人と永遠に一緒に生きていくわけではないのに?ずっとその人に寄り添えるわけではないのに?
「迷いがあるならオレに任せておけば良い。全員にオレと同じ考えや主義を求めてない。
見るのも聞くのも嫌ならオレを止めたら良い。
但し生き残った奴らの人生にオレは今後関与するつもりはないし、そいつらが後々問題起こしたらまた殺しに行くけどね」
「お前はそうやって悪者になろうとする」
アステムが半ば呆れたようなため息をついた。
も頷く。
「私はまだ結論を出せないけど、でもキャスカが背負うなら私も一緒に背負うよ。
今の時点ではこの方法が最善だったって一緒に言う。
貴方が今現在ではどうしようもなくて選択せざるを得ない状況で選んだ結果で、治療したり改善できるものならそちらを選ぶつもりだったって分かるし、
きっとこれが終わった後、貴方は必死にそのことについて勉強するんでしょう?そのことを私は証言できるし、させてほしい。
だって貴方は私の大切な相棒だもの」
がそう言うとレディネスは眉を下げて優しい瞳で微笑んだ。
しかし一言も発さず彼女の肩にポンと手を乗せると、もう一つの部屋へと向かっていく。
その隣はどうやら書庫だったようだ。
エウリードの研究レポートなどもあったようで、レディネスはこれを後で回収したいと意気込んで出てきた。
気になるタイトルのファイルを手に取って数ページ読んでみたそうだが、脳に埋め込んだマイクロチップの仕組みが分かったらしい。
脳に流す電気信号の種類に応じて<攻撃><服従>の行動を覚えさせるそうだ。
なので自身に埋め込まれたマイクロチップも恐らく同じ仕組みで、パーティメンバーを襲った時は魔王軍領のどこかに設置されている装置によって
<攻撃>の電気信号を増強させられていたのだろうと言う。
「ある程度は予想してたけど領内にある小さな機械を探し回らなきゃならないのか」とレディネスは肩をすくめた。
彼のやることはどんどん増えているようだが、そんな彼にカイトは「お前が全部やる必要はないんだろ。人手が必要なら俺たち傭兵が手伝うぜ」と言い、
リットンも「勿論だとも」と胸を叩くと、そんな彼らにレディネスは「じゃあその時は頼むよ」と言いくすりと笑った。
なんとか今年のサイト20周年に完結を間に合わせたいと思って頑張りました。
コツコツ書いていきます!ええ!頑張ります!!!
正直自分でも細々とした部分を忘れているので、以前の話を読み返したり設定を書いているメモ帳のファイルを横に並べて書いたり。
熱量のあるうちにさっさと書いていれば…と後悔しかないんですけど、年をとった今でしか書けないものもあるのだと信じて
でもできるだけ説教くさくならないように書けたら良いな!
来月も更新できるよう励みますので、待ってくださっているお客様、どうぞ宜しくお願いいたします。
今回もご覧いただき、ありがとうございました!
裕 (2025.7.20)
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