必殺技TRPG   <初恋クインテット・番外編>




 それはある連休の深夜。
前日から浩輝のアパートに集まってゲームをしたり漫画を読み漁ったりしていた4人はそのまま泊まり込んだ。
 そして連休に突入した後もだらだらとデリバリーを頼み食っちゃ寝しながらも動画配信サービスで話題になっているB級映画を見て過ごしたりしていたが、
流石に飽きてきて孝輔が「誰か何か面白いことしろよ」という無茶な命令を出した。

「じゃあ、俺の考えた遊びをしてもらう!」

 少し考え込んでいた章博が立ち上がり、浩輝から適当な裏が白いチラシを貰うと机の上に転がっていた筆記用具をひったくる。
そうして暫く何か箇条書きしたかと思うと今度は「サイコロあるか?」と聞いてくる。
 「サイコロなんてねーよ」と浩輝は言いながら、携帯端末を操作し始めてサイコロのアプリケーションを探し出すと「ほら」と画面を見せるように突き出した。
 章博はそれを受け取り、机の上に置く。

「今から始めるのは、“必殺技TRPG”だ」
「ひっさつわざてぃーあーるぴーじー?」

 自信満々な様子の章博に向かって棒読みするように直彬が繰り返す。
他二名も「こいつ、いきなり何を言い出すんだ」と少し馬鹿にしたような表情だ。
けれどもそんな空気に慣れている章博は全く気にせず、話を進める。

「よし、まずは浩輝!行くぞ!!!
 ――世界の存続を脅かす程の強敵を倒す為に孤独な旅をしてきたあなた。
 長い時を経て敵の元へと辿り着き、今まさにその目的の相手が待ち構えています。
 その敵とは……」

 そう言って彼はチラシの上部分に書いた箇条書きを皆に見せた。
殴り書きした字は読みづらかったが、昔から見慣れているこのメンバーは問題なく解読できた。
書かれていたのは

1:大切な人の仇
2:皇帝
3:魔王
4:堕天使
5:神
6:勇者

という項目だ。
 章博は浩輝の携帯端末を指差し、サイコロを振れと指示をする。
仕方ねぇなぁといった様子で浩輝も気持ちを切り替え、この遊びに乗ってやることにした。
携帯端末のサイコロのアプリケーションのボタンに触れるとサイコロが転がる映像が流れ――5が出た。

「あなたの敵は神ですね」
「はぁ~?」
「やばいじゃん」
「俺は何者なんだよ!」

 孝輔や直彬、浩輝がそれぞれツッコミを入れた。
そんな彼らに「神様と戦うなんて凄いですね、浩輝さん」と章博は冷静に対応する。

「そんな敵との因縁は……」

1:出会った時から敵対
2:幼馴染
3:家族
4:師弟
5:崇拝
6:元恋人

 次に見せられた項目を見て皆の視線が浩輝の指に集中する。
転がったサイコロが示したのは3。

「かつて家族だったんですね、お二人は」

 章博がまたしても冷静に話を続ける。

「俺も神かよ」
「つえー」
「家族の喧嘩に世界を巻き込むんじゃねーよ」

 神々の戦いにスケールアップしてしまったが、まだまだ話は続く。

「あなたと敵は僅かに睨み合った後、言葉を交わします。
 相手が放った言葉は……」

 次の項目に皆の視線が集まる。

1:待っていたぞ
2:わざわざ倒されに来たか
3:ふ、あの時の子どもか……
4:我が力の前に恐れ慄け!
5:また虫ケラが湧いたか。叩き潰してやる!
6:コウゲキタイショウヲハッケン、ハイジョカイシ

「おい待て、人間じゃないのが混ざってんじゃねーか」
「色々ふざけてるな」
「6出たらどうすんだよ、これ」

 そう行って浩輝がボタンを押すと、6が出てしまった。
全員から「ああーー!!」という声が上がる。

「どこに行こうとしてんだよ、この物語はよ」
「これは酷い」
「これは、あれだよ!
 かつて古の双子の神々として存在していた俺たちだけど、相反する力を持っていたせいで敵対することになったんだ!
 俺は光であいつは闇!!でも憎しみや哀しみが世界に溢れた結果、闇の力に飲まれたあいつは人格……神格?も失ってもはや世界を壊すことしか考えられない無機質な存在になってしまったんだ!」
「あ、はい、そうですね。対となる存在だったんですね、あなたたちは」

 浩輝の無理矢理な物語設定をそのまま受け入れ、章博は続ける。

「あなたと相手は激しくぶつかり合います。命をかけた戦いが繰り広げられていきます。
 刹那、相手が隙を見せました。今こそ必殺技を出す時です!
 さあ、あなたが愛用している武器の種類は……」

1:斬系の武器
2:魔法
3:打撃系の武器
4:体の一部
5:動物
6:食べ物

「さっきから6はハズレなのか?」
「どういうことだよ」
「123出ろ……やった!1出た」
「では刃が付いてるような武器を使ってるってことで。どんな形状の武器にする?」
「んー、普通の剣しか思いつかねーよ。片手でぶんぶん斬りつけるみたいな。あ、でも神が使ってる剣だからなんか装飾とか結構ごつい感じできらきらしてるみたいな」
「はいはい、じゃあそんな剣を握り絞めてると。
 じゃあ、その武器の名前は……」

1:大切な人の名前
2:相棒orハニー呼び
3:厨二病的な
4:自由
5:〜にゃんor〜ちゃん
6:ああああ

「お前これ全部やばいじゃねーかよ」
「どうすんだよ、これ」
「逆に体とか食べ物にこんな名前つけずに済んで良かったじゃねーか」

 何を出しても事故りそうなのは目に見えているが、浩輝はえいっとボタンを押した。
そして画面に5が出た瞬間、頭を抱えて絶叫する。

「無理言うなよ、神の癖に剣に“○○ちゃん”とか呼びかけるなんてヤバイ奴だろうがよ」
「これ、名前は自分で決めるの?」
「そう。自分で決めた名前ににゃんかちゃんを付けて」
「地獄かよ」
「ええ……どうしよ」

 浩輝は苦悶の表情を浮かべながらうんうんと唸る。
その後、頭をガシガシと掻くと何かを決意したような表情を浮かべた。

「よし……フラガラッハ、いや、フラちゃん、君に決めた!!!」
「何だこの神」
「シリアスな物語が急にコメディちっくになったな」
「よし、では必殺技を繰り出す時の口上の一部は?それを使った必殺技名も教えてくれ!!」

1:一子相伝
2:詠唱(自分で考える)
3:伝説
4:回想(この技を習得するにあたっての思い出を語る。必殺技名は考えなくて良い)
5:自分の名前
6:武器の名前

「これ、意外と2が鬼門じゃね?」
「自分で考えるのしんどいな」
「自分の名前を必殺技にするのもやべーだろ」

 最後の項目を見た3人の顔色が青くなる。
浩輝は「無難に3とか出ろ!」と言いながら画面をタッチした。
出たのは6。

「よし、ではサイコロを100面に設定し直して……、まずは敵の今現在の体力は……」

 章博は100面のサイコロに設定を変更して、ボタンをタッチした。
出た目は24。

「じゃあ、敵の今の体力は76ってとこかな。
 ――神・浩輝よ。ここが正念場です。必殺技名を声高らかにどうぞ!!!!」

 章博が浩輝に手を差し出す。
浩輝以外は全員じっと彼を見つめた。

「――俺の、最強の武器の一撃を食らえ!
 我の思いに答えよ!切り裂け、フラちゃん!!!」

 そう叫び、浩輝は100面サイコロのボタンを押した。
他の3人は笑いを堪えられず、肩を揺らしている。

 出た目数は89。

「おお~!」
「これは?」
「……おめでとうございます。敵は倒れました。
 あなたの長い旅は終わったのです。終わり」
「何だよ~、最後呆気ねぇな」
「そりゃそうだよ、必殺技TRPGなんだから。
 この後ぐずぐずしたら面倒くさいだろ」
「色々やばかったな」
「ダイス運もそうだけど、項目が既にやばかった」
「でも見てる分には楽しかったけど」
「じゃあ、次はナオがやれよな」
「ええ、嫌だ」
「まあ、振るだけ振ってみろよ」

 そうして次は直彬の物語が始まるのであった。
くだらないゲームではあったが、何だかんだで和気藹々と休日を過ごした4人だった。






 



久しぶりなのにこんなふざけた内容の更新ですみません。
でもなんかこんなおバカなTRPGで遊びたくなっちゃって、自分で作ってしまいました。
拙宅のキャラ内でこんな遊びをしてくれそうなのはこいつらだけだったので、
ほぼ会話文だけでしたが彼らで書いてみました。


因みに直彬は <()内はメンバーのツッコミです>

敵:神(またかよ)
因縁:師弟(下剋上だな)
言葉:コウゲキタイショウヲハッケン、ハイジョカイシ(またかよ!!!)
武器:食べ物(どうすんだよ、これ)(タバスコとか辛いものをぶん投げて目に入れる的な?)
武器の名:ああああ(名前付けるの面倒くさくなってんじゃねーよ)
口上の一部:回想(敵の前で思い出に浸ってんじゃねえ!)
必殺技またはかけ声:「散れ」
敵のHP:58(これはいけるぞ)
必殺技のダメージ:20(そりゃ食べ物じゃ無理だろ)(普通に殴り合ってた時の方が強いじゃねーか)
ED:相手に決定的な一撃を加えられなかったあなたは反撃を受け倒れました。あなたの旅は終わったのです。
   おや、新たな人影が……。(これ、意外と倒すの難しいんじゃない?)


孝輔は

敵:皇帝(お、革命起こす系か?)
因縁:家族(なんだよ、権力争いかよ)
言葉:ふ、あの時の子どもか…(あれ、これもしかして妾との子どもとか?本当は赤子の時に殺される予定だったとか)
武器:魔法(何だかんだで魔法が一番強そうだよな)
武器の名:自由。「魔法だし雷魔法とかでいいんじゃね」by孝輔(ダイス運いいじゃん)
口上の一部:一子相伝(一子相伝の魔法とかかなり強そう)(逆に使ったら死にそうだけど大丈夫なん?)
必殺技またはかけ声:「一子相伝の雷魔法を食らえ!」(まんまだな)
敵のHP:91(無理じゃね?)
必殺技のダメージ:76(惜しいな)(結構良い数値だったのに)
ED:相手に決定的な一撃を加えられなかったあなたは反撃を受け倒れました。あなたの旅は終わったのです。
   おや、新たな人影が……。(終わんねぇじゃねーか)

章博は
敵:勇者(勇者が世界滅ぼすの?闇落ちした?)(普段敵の目線なゲームもなかなか面白そうだな)
因縁:出会った時から敵対(お前、魔王だったの?)
言葉:ふ、あの時の子どもか……(ああ、初めて会った時は勇者がまだ成長してなかったんだな)(その時にやっておけば良かったのに)
武器:斬系の武器(魔王が武器使えるんだな)(素手で殴ってくるイメージ)
武器の名:ああああ(だから名前付けるの面倒くさくなってんじゃねーよ)
口上の一部:自分の名前(必殺技に自分の名前入れるとかヤバ……)
必殺技またはかけ声:「章博アタック!!」(だせぇ)
敵のHP:14(これなら行けるだろ)
必殺技のダメージ:66
ED:おめでとうございます。敵は倒れました。
 あなたの長い旅は終わったのです。終わり。(良かったのか?勇者に勝って)(勇者が魔物の住む世界滅ぼそうとしてたんだからいいんじゃね?)




というような感じでした。
今回はヒロインさんは全く出てきませんが、普段の残念クインテットメンバーの日常が書けて良かったです。
少年らしさを残しまくっている彼らを少しでも愛らしく思っていただけたら幸いです。
こんな番外編まで読んでくださったお客様、ありがとうございました!


吉永裕 (2023.1.29)




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