最終話 Le lieu de destin
は涙を流していた。
「…救えなくてごめんなさい」
サルサラを鎮める為に作った小さな墓の前では佇む。
そしてそっと屈むと白い花を供えて手を合わせて目を瞑った。
「…寒い。ここから出して、誰か――」
地下室でクリスタルに触れた時に身体の中に注ぎ込むように入ってきた言葉を思い出し、
目を開けたの頬にはいくつもの涙の筋が流れる。
「――私は…貴方を一時的に眠らせることしかできなかった…っ!!」
わぁっとは顔を覆って泣いた。
天摩は暫くそんな彼女の様子を静かに見守り、頃合を見てそっと隣に並び優しく声をかける。
「…ちゃん、そろそろ帰ろうか」
「…うん」
は顔を上げ、涙を拭って微笑んでみせる。
そして立ち上がると、2人はその場から静かに立ち去った。
その後、ジッカラートにはまた平和が訪れた。
神殿の周囲は再び閉鎖され、次第にサルサラへの恐怖心は人々の中から薄れていっているようだ。
「えぇ!? 妊娠しないってどういうこと!」
居間にの素っ頓狂な声が響く。
「お前が毎日飲んでおった茶は、排卵抑制作用のある漢方じゃ。
わしとて鬼ではない。一族が勝手に決めたしきたりのせいで孫に望まない妊娠させるなんてことは嫌じゃからの」
「それを最初に言ってよ、バァちゃん!私がどれだけそれで悩んだか…!!」
「じゃが、それでも天摩を選んだのじゃろ」
「…まぁ…ね」
は顔を赤らめながら茶を喉に流し込んだ。
「それにしても、こんなにも平和がありがたいこととはな…」
ウメ婆は空になったの湯飲みを取ると静かに茶を入れた。
「、これを飲んだらもう寝ねさい。明日は早かろう?」
「…うん」
彼女は巫女の後見人としての顔ではなく、ただの優しい祖母の顔になっていた。
はゆっくりの茶を飲み干すと立ち上がる。
「――ばぁちゃん」
「何じゃ?」
「…今までありがとう」
「たまには土産を持って帰っておいで、」
「……うん」
そう言ってはウメ婆を抱き締めた。
「疲れてない?ちゃん」
「うん、平気だよ!」
2人は大きな荷物を持って山道を歩いていた。
この峠を越えればチャイラの国境である大きな川が見えてくる。
巫女という役割を終えたは、ただの一般人としてこれからの人生は天摩と一緒に各地を旅して回ることに決めたのだ。
そうしてまず最初に2人がかつて一緒に修行したチャイラへ向かっているのである。
「でもホントによかった?ジッカラートにいればもっと――」
「いいの!天摩がいてくれればそれで」
「…も〜、ちゃんってば」
ギュウっと天摩は彼女を抱き締め、は恥ずかしそうに顔を彼の胸に埋めた。
と天摩の物語はまだ始まったばかり――
−END−
やっと完結です!
長い間、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!
天摩や作品についてはあとがきでかいておりますので
興味のある方は是非あとがきにいらしてくださいね^^
吉永裕 (2006.5.17)
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