第１５話　男たちの戦い



　静かに男たちは向かい合う。

「さぁ、君はボクをどう相手してくれるの？」
「…ぶった切ってやるよ」

おちゃらけたサルサラとは対照的に今にも飛び掛りそうな伊吹。
そうしてサルサラに刀の切っ先を向ける。

「近距離がお望み？オッケー」

そう言うとサルサラは伊吹に向かってニヤリと笑みを浮かべた。

…が救いたいと言っていたからどんな奴かと思ってはいたが。

「――嫌な奴だ」

そう呟くと伊吹はゆっくりと刀を前で構える。

「…ふ〜ん。君がそんなこと言うんだ。イロハを捨てたくせに？」

サルサラの言ったひと言に伊吹は目を見開いた。

「…お前に何がわかるっていうんだ。
　これ以上、伊絽波の名前を出すと――」

『シュッ』

ツーっとサルサラの左頬に赤い筋が流れ落ち、パラリと髪の毛が数本下に落ちていく。

「…お前を消す」
「あはは！怖い怖い。今、完全に殺意が込められてたね」

にやりと笑うとサルサラは右手で血を拭い、親指をペロリと舐めた。

「ただの分身の割にはリアルに作ってるでしょ？　…生身を傷つける気分はどうだい？気持ちいいでしょ」
「人を憎んで殺して邪神になったお前の気持ちなんかわかんねーな」

そう言うと伊吹はサルサラを睨みつける。

「ふーん…。さも自分は人を傷つけたことないみたいなこと、言ってるけど、イ――」
「黙れ！」

ブンっと振り下ろした伊吹の刀をサルサラはさらりとかわす。

「そんなにあの白巫女さんにイロハのこと、聞かれたくないの？　それとも過去の女のことなんて思い出したくもないかな？」
「…お前は本当に救われねーな」

伊吹のその言葉にサルサラは表情を変えた。

「――救いって言葉、大嫌いだよ」

今までのちゃらけた態度が一変し、冷たく指すような視線を伊吹に向ける。

「救いなんて幻想だ。所詮、誰も他人を助けようなんて思わない」
「お前が知らないだけで、救いたいと思う人間もいる――のように」
「偽善なんだよ。そんな人間は口だけさ。本当に人を救える奴なんて、いる筈がない」

言葉を発しながらサルサラの腕が次第に震えてくる。
何かに怯えているのか、溢れ出す怒りを抑えられないのか、左手で右手の震えを必死に押さえているようだ。

「――だからボクは救いだなんて言葉、信じない。
　愛も、信頼も、運命も全部っ――!!」

サルサラは右手を上げた。
そうして黒い邪気を大きな炎のように集めたかと思うと、伊吹に向かってその炎を放った。

「お前は確かに被害者だ。何もかも信じられない程のことをされたのかもしれない。
　だが――」

迫り来る黒い炎を前に、伊吹は刀を脇に構えた。

「それから逃げて人の道を外したお前は許せねぇ！」

伊吹は己の霊気が込められた刀を、一気に斜めに斬り上げる。
その瞬間、刀からカマイタチのように光の刃が放たれ黒い炎を２つに割り、離れた所にいるサルサラの左腕をも切り裂いた。

「…チッ」

腕の健を切られて使い物にならなくなった手を見てサルサラは舌打ちする。

巫女を取り込むために生かして利用するつもりだったが――

「――お前、殺すよ」

サルサラは静かに冷たく微笑んだ。

今回は伊吹がキレまくりのお兄ちゃんになってしまいました。
それにしても、性格が悪いキャラって…難しい。
正規キャラルートを読む皆様が「サルサラってホントに性格わる〜」って
思って頂けるような書き方ができてたらいいのですが。

大変申し訳ないですがまだまだサルサラとアゲハルートは再開できそうにありません。
本当にそのキャラって次の１話で終わりそうなんですもの…。
やはり終わりは揃えたいので…彼らを心待ちにしている方には本当に申し訳ありませんとしか…m(_ _)m


…というわけで、できるだけ早くこの『destin』を完結させたいと思っているので
もう少しの間、温かく見守ってください＾＾

それでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!


吉永裕　(2006.4.10)

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