第14話 サルサラと天摩



 と天摩は伊絽波を部屋の入り口にもたれさせると、地下への階段を下りていった。
冷たい空気とどこからか滴る水の音が不気味で仕方がない。
はそっと彼の腕に触れる。

「大丈夫?…傷、痛む?」

天摩は立ち止まると彼女の頭をそっと撫でる。
はううん、と首を横に振った。

「今度こそ、俺が守るからね」
「うん」

優しく抱き締め合うと、2人は手を取って再び階段を下りていく。
先程の不安な気持ちは吹き飛んでしまったようだ。
は彼の横顔を見上げる。

好き。
愛してる。
貴方がいるだけで、こんなにも私は強くなれる。

心に勇気が湧き上がってくる。

――サルサラを救うことはできないけど、でも、この世界を一時的に救うことはできる。
だったら今できることを私はしたい。

そうして2人は最後の段を降りて部屋に足を踏み入れた。
と天摩の前に現れたのは、クリスタルの中に眠るサルサラと、
もう1人、その傍らで佇んでいるサルサラと同じ容姿をした人物だった。
夢で見たそのままの姿である。

「…サルサラが…2人…?」

2人は戸惑いを隠せない。

「初めまして、白巫女サン」

もう1人のサルサラが不敵な笑みを浮かべて数歩、の方へ歩み寄った。

「結界、張りに来たんでしょ?」
「…勿論よ」

彼のペースにはまらないようには努めて冷静に振舞う。

「ま、力を増した巫女相手にただの分身であるボクが太刀打ちできるわけはないけど、でも、邪魔くらいはさせてもらうよ。
 黙って見てるだけなんて癪だからね。 ――それに巫女だけならともかく、付添いがいるとなると」

ボクに勝機がないとは限らない…そう呟いてサルサラはシュッと姿を消した。

「!?」

周りに邪気が立ち込めている為、サルサラの分身の邪気を特定できない。
はキョロキョロと辺りを見回す。

――ふぅん。君が白巫女さんの相手?」

ふふっと笑いながらサルサラが天摩の後ろにすっと現れた。
天摩はバッと振り返る。

「何か女にだらしなさそうな男だね」

そう言うとサルサラはくすくすと笑い始める。
天摩はそんな彼を睨みつけた。

「初めて会うっていうのに結構失礼なこと、言ってくれちゃって」

天摩はポキポキと手の関節を鳴らす。

「天摩」

は天摩を見る。どうやら冷静さは失ってないようだ。

「そんな強気な割りに…白巫女サンのその傷はイロハにやられたんでしょ? 君、女の子1人守れないわけ?」

『パシィッ』

ケタケタと笑うサルサラに腹が立ち、は彼の頬を殴った。

「イロハちゃんを道具みたいに使った貴方がそんなこと言わないで」

低い声で言う。

「…ふん。――愛だの恋だの…これだから人間は」

静かに呟くとサルサラの口元がわなわなと震える。
腹が立つったらないよ――と目に黒い炎を燃やしながら。

「…ちゃんは結界を張りに行ってよ。ここからは俺の出番☆」

天摩は笑顔でそう言った。

「でも天摩…」
「へーきへーき!――ほら、早く行って」

天摩は不安な表情を浮かべる彼女にウインクをする

「…わかった」

静かに頷くとは彼に背を向けた。

天摩は天摩のできることを。
私は私のできることを。
今の私にできることは、天摩を信じて結界を張ることだけだ。

そう思い、はサルサラの本体の方へ足を踏み出した。












さて、ついにボスとの戦いです。
思ったよりもあっさり終わってしまいそうな予感が…。すみません。
ここまで延ばしておいてアレなのですが…。

ところで、真織と天摩は凡な感じのストーリーですみません。
葉月と伊吹はまだサルサラと絡みがあるんですけどねぇ、こいつらは…。



…というわけで、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
次回をどうぞお楽しみに!



吉永裕 (2006.3.22)



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