最終話 Le lieu de destin



「――っ、!」

誰かの呼ぶ声がした。

は自分の全く知らない世界が目の前に広がると思っていた。
薄暗い邪気に包まれた世界。
しかしサルサラがいれば、それでいいと思った。

「…う…嘘…でしょ……」

は目を開け、起き上がると呆然と呟く。
そこにいたのはサルサラではなく、ウメ婆と許婚の4人だった。

「…サルサラは……!?」

は慌てて立ち上がり、心配して手を差し出した男たちの手を払いのけて辺りを歩き回り、地下室への階段を下りていった。
しかし、そこにもサルサラの姿はなかった。

ちゃん…」
「…

そんな様子に男たちは何も言えずに立ち尽くし、の様子を見届ける。

「――サルサラ…!!」

辺りに邪気を全く感じないは、この理解し難い状況を受け止められずに膝を落として泣き始める。
その様子を見かねたウメ婆は彼女の傍らに膝をつくと、肩にそっと手を置いた。

「わしらがこの神殿に着いた時、赤い光の柱が神殿内から天へ立ち昇った。
 恐らくその時にサルサラは…浄化されたのじゃろう」
「浄化!? どうして!どうしてよ!!! 私にはそんな力なんて――」
「おぎゃ…おぎゃっ……!!」

――その時、部屋の隅から赤子の声が聞こえてきた。
その声には愛しさが込み上げてくる。

「……サルサラ…?」

は声のする方へゆっくりと歩を進めた。
すると穴の空いた天井から光が差し込む場所で一人の赤子が元気良く泣いている。
そっとはその赤子を抱き上げた。
それまで泣いていた赤子は彼女の腕に抱かれるとピタリと泣くのをやめる。
そしてゆっくりとの顔に手を伸ばした。

「――サルサラ…貴方……」

生まれ変わったのね、人間に…。

は涙を流しながら、腕の中の赤子を愛おしく抱き締めた。
すると赤子からトクン、トクンと心臓の音が聞こえてくる。

「…帰ろうか。私たちの家に」

笑顔でウメ婆にそう言うの胸にはしっかりと赤子が抱かれていた。



 「…どうして…どうして私を助けてくれたの?」

後日、サルサラを鎮める為に作られた小さな墓の前では佇む。
そしてそっと屈むと白い花を供えて手を合わせて目を瞑る。

――、ボクは君に……生きて欲しい。ただ一人ボクが愛した人だから。

風の音が聞こえるかのように、あの時サルサラの言った言葉が聞こえてきた。
ハッと目を開けた彼女の頬にはいくつもの涙の筋が流れる。

「――私を救うことが貴方の愛だったんだね。……ありがとう」

は顔を上げ、涙を拭って微笑む。
そして立ち上がると、その場から静かに立ち去った。



 その後、ジッカラートには不変の平和が訪れた。
神殿は壊され、次第にサルサラの存在は人々の中から薄れていっているようだ。

「邪神が愛によってその力を失い、人間へ生まれ変わるとはな…」

ウメ婆は静かにお茶を入れながら、縁側を見つめる。
縁側には、“惇−ジュン”と名づけられ愛情込めて育てられている幼子とが昼寝をしていた。

「…もしかするとサルサラは、に親に抱くような愛情を感じていたのかもしれぬな」

ウメ婆はそっと2人にタオルケットをかける。
眠りについている彼らの手は固く握られ、その顔には柔らかな微笑が浮かんでいた。

















-END-

やっと完結です!
長い間、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!
サルサラや作品についてはあとがきでかいておりますので
興味のある方は是非あとがきにいらしてくださいね^^


吉永裕 (2006.5.17)




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