最終話 Le lieu de destin
小さな大陸に住む小さな国の王子はそれまで育った城から初めて自分の意志で足を踏み出す。
「王子、あれを!」
「…何だ?あれは一体…」
西の空に赤く光る柱が天まで昇っていた。
「西では一体何が起こっているのだろう。
これも天変地異の前触れだろうか」
光に愛され加護を受けた王子は天を見上げる。
「…でもとても優しい色をしてますよ。温かい気持ちが溢れてくる」
大きなリュックを背負った少年は微笑んだ。
「ええ。きっと何かが今から始まるのでしょう。
――私たちと同じように」
優しげな瞳をした青年が王子に振り向いた。
大きな剣を持った青年も頷く。
「そうだな。私たちの旅はこれからだ。
――この大陸の運命を変える為の旅は今から始まるのだ」
そうして彼らの宝玉を集める為の旅が始まる。
「――これは…一体…」
その後、の手紙を見て彼女から2時間程遅れて神殿にやって来たウメ婆と許婚たちは立ち尽くしていた。
神殿の前の道を遮っていた怨霊や魔物たちが、神殿から赤い柱が上がったのと同時に彼らの前から一瞬にして消え去ったのだ。
「行くぞ」というウメ婆の一声で彼らは神殿の地下へと急ぐ。
地下室でウメ婆たちが見たものは、傷だらけのを胸に抱え、天を仰いで泣いているサルサラの姿だった。
「…お前!!」
「ちゃんはどうなったの!?」
伊吹と天摩が今にもサルサラに飛び掛りそうな勢いだったが、ウメ婆がそれを抑える。
サルサラには彼らの声は聞こえていないようだ。
「…もうそこにいるのは邪神サルサラではない」
静かにウメ婆が口を開いた。
「封印が解け、クリスタルが割れたにもかかわらず、サルサラもも存在する。そして、サルサラから邪気が全く発せられておらぬ。
――これはサルサラ自らが封印を解いたとしか考えられん」
「どういうことですか…?封印は自分で解けるもんじゃないでしょう?」
真織は呆然と目の前の状況を見ながら呟いた。
ウメ婆は穴の空いた天井から光が差し込む場所にいる2人の傍へゆっくりと歩み寄る。
「――サルサラの魂が解放されたのじゃ。恐らくサルサラの中にあった邪な気が消えたのじゃろう」
そうしてウメはサルサラの腕の中のを見た。幸せそうに微笑んでいる。
どうやら息はあるらしい。
「…わしらは家へ戻るぞ。国に出す書類を作らねばならぬ」
「しかし…」
「心配要らぬよ、葉月。――今は2人にしてやろう」
そう言うと、ウメ婆は途中で倒れていた伊絽波と男たちを連れて神殿を後にした。
「――。…」
誰かの呼ぶ声がした。
しかしにはそれが誰の声か分かっていた。
「…サルサラ」
はゆっくりと目を開ける。
先程まで暗く冷たかった地下室に明るく温かい光が差していた。
その眩しさに一瞬、目を細める。
「――そうか。ボクは君を待っていたんだ…」
眩しい光の中でサルサラが優しく微笑むのが見えた。
彼の温かい涙がポツリと頬に落ちる。
「…ボクを愛してくれる人を……ずっと…ボクは待っていた」
はそっと手を伸ばし、サルサラの頬に触れる。
すると温もりが皮膚から伝わってきた。
目を閉じると彼の胸からは心臓の鼓動する音が聞こえてくる。
「サルサラ、私――貴方を愛してる」
その想いを噛み締めるようにはその言葉を発するとゆっくりと目を開ける。
「ボクも…よくわからないけど、きっと今の気持ちが好きって気持ちなんだと思う」
そう言うとサルサラはを力強く抱き締めた。
「――、愛してる」
そうしてジッカラートには不変の平和が訪れた。
神殿は壊され、次第にサルサラの存在は人々の中から薄れていっているようだ。
「邪神が愛によってその力を失い、人間へ生まれ変わるとはな…」
ウメ婆は静かにお茶を入れながら、窓の外に広がる空を見上げる。
「、こっちこっち!」
「え、何?」
手招きされては船のデッキにある手摺の所へ小走りする。
「大陸が見える。あれだろう?ボクたちが目指してる大陸ってのはさ」
「うん、そうだよ。世界最大の大陸、サウスランド。
――私とサルサラが新生活を送る場所だね」
「うん」
そう言うと隣のサルサラは嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。
はそんな彼の腕に手を回す。
「幸せになろうね、サルサラ」
「嫌って言うほどボクが幸せにしてあげるよ、」
ふふん、と大人びた笑みを見せると、そっと彼はの頬にキスをした。
とサルサラの物語は始まったばかり――
-END-
やっと完結です!
長い間、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!
サルサラや作品についてはあとがきでかいておりますので
興味のある方は是非あとがきにいらしてくださいね^^
吉永裕 (2006.5.17)
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