私の青春はここから始まる
進級したばかりの3年Cクラスはある話題で持ちきりである。
「このクラスに編入生が来るらしいよ」
「ふーん、まぁ新学期だから丁度いい時期よね」
「でもさ、こんな時期に編入するってかなり頭良いんじゃない? スポーツ特待かな?」
「残り1年でスポーツ特待はなくない? それよりも男子かなぁ、女子かなぁ?」
緑ヶ原高校は1学年500名ほどいるものの付属幼稚園からそのまま進学している者が多いので、全生徒の名前は知らないまでも顔は知っているという生徒が殆どだ。
したがって編入生や高等部から入学してきた者は特に注目される存在となる。
それが成績優秀者やスポーツ推薦者、美男美女であればあるほど――
ある女子生徒が教室に入ってくると教室は一瞬ざわめき、その後シーンと静まり返る。
教卓の上の座席表を見て自分の席へ向かう彼女に視線が集まった。
腰近くの長さで少し毛先に癖のある髪が彼女の動きに合わせてふわふわと揺れる。
窓からの光に包まれた彼女の横顔はすっと鼻が高く、伏し目がちな瞳を長い睫が隠しているのが印象的だ。
皆、彼女が編入生だと確信し、再び教室はざわつき始める。
すると好奇心旺盛な女子が話しかけに行った。
「あの、貴女、編入してきたの?」
「そうなの。っていいます。宜しくね」
大人びて落ち着いた顔つきの彼女が、ニコッと無邪気に笑ってみせる。
そんな美人の可愛いくて人懐っこい笑顔に一気に近寄りがたさは緩和されたようで、わっとクラス中の女子が集まってきた。
「どうしてこんな時期に編入してきたの? ――っあ、ゴメン! 言いたくないなら言わなくてもいいから」
「ううん、全然構わないよ。父親の仕事の関係で急にここに来ることになったんだ。
田舎暮らしから一気に都会暮らしになってびっくりしてるの。
気をつけてるつもりなんだけど変な方言が出ちゃったらごめんね、その時は笑って」
「えー方言とか全然気にならないよ。この学校、スポーツ推薦とかで色んな地域から来てる人いるし」
「そうそう。寧ろ可愛いよね」
「そうだといいけど……本当に凄く田舎に住んでたから、全然メジャーな方言とかじゃないの」
そんな話をしていると担任の教師が入ってきて、チャイムが鳴った。
――そうしての緑ヶ原高校での生活が始まる。
始業式後、HRで委員決めなどが済んだと同時に本日の授業の終わりを告げるチャイムが校舎に響く。
皆が午前中に帰れることを喜ぶようにわいわいと騒ぎながら帰宅していく中、
事前に事務局で貰っていた緑ヶ原高校のパンフレットを広げて構内図をざっと見たは、鞄は机の上に置きパンフレットだけを持って立ち上がる。
しかし、教室のドア傍の席にいるある人物が気になって声をかけた。
「あの、大丈夫? ずっと寝てるけど具合でも悪いの?」
「……」
癖ッ毛なのかパーマなのかは分からないが、金髪で毛先が色んな方向にうねっている髪の男子生徒は、HR中もずっと右肘をついた状態の姿勢で船を漕いでいて、
数回、教師から注意を受けていた人物だ。最終的には開き直ったのか突っ伏して寝てしまった。
さすがにこんなにもずっと寝ているなんて、どこか具合が悪いのではないかとは陰ながら心配していたのである。
「あの……」
そっと呼びかけても起きないので、今度は少し肩を叩いてみた。
するとその男子はゆっくり瞼を開ける。
「んー?」
「あのどこか具合でも悪いんじゃないかと思って。大丈夫ですか?」
「あ……うん、眠いだけ。――あれ、HRは?」
「もう終わって、殆どの人が帰っちゃいましたよ」
「あーまたやっちまった。あ、飯野もいないじゃん。じゃあ飯食って部活行かねーと」
そう言って彼は机の幅から随分とはみ出すように置いていたバドミントンバッグを持って立ち上がり、ふらふらとした足取りで教室を後にする。
そんな様子をポカーンと見ていたに、残っていたクラスメイトは声をかけた。
「心配しなくても大丈夫だよ。指原くんって昔からずっとああだから」
「え、そうなの?」
出て行った彼の名前は指原深道(さしはらみどう)。席順は基本、出席番号順の筈なのに要注意人物だからか一番授業中に指され易い右側一番前の席に配置されている。
なるほど、いつもこんな風に寝ているから前の席にされているのか、とは妙に納得した。
まあ具合が悪いわけではなくて良かったと思いながら、その子に挨拶をしても教室を後にする。
今日は午前中で授業が終わった事だし、できるだけ構内を見て回ろうと思ったのだ。
何故ならばこの緑ヶ原高校はきちんと配置を理解していないと確実に迷子になってしまうほどの広さだからである。
それに部活動も見て回りたいと思っていた。
3年なので入部しても残り半年ほどしか参加できないが、それでも仲間と共に何か一つのことに向かって励むという感覚が好きだったので是非とも好みの部活動があれば入部しようと考えている。
「でもこの学校は水泳部はないのか、ちょっと残念だなぁ」
部活動一覧を見て、はため息をついた。
前の学校では、水泳部のマネージャーをしていたのだ。
「それでもマネージャー業は部活が違っても変わらないかな?そのスポーツのルールとか仕組みを覚える必要はあるけど、応急処置とかテーピングは変わらないし。でもなぁ、うーん」
そんな独り言をぶつぶつと言いながら本館の昇降口から出て辺りを見渡す。
パンフレットを指差しながら建物の確認をしていき大体の方角を掴んだので、ぶらっと一周構内を歩いてみる事にした。
「凄いなぁ、喫茶スペースとかあるんだ。わ、体育館も大きい〜!」
はそれぞれの建物を見ながら体育館の横を通り、プールの裏へと歩を進める。
すると――
「指原くん……?」
プールの裏の芝生に見覚えのある生徒が寝転んでいた。
それは先程ふらふらと教室を出て行った彼だった。
「大丈夫!? いや、また寝てるだけ?」
心配になり思わず駆け寄るが、彼はすやすやと気持ち良さそうに眠っている。
どうやら体調不良が原因で寝ているわけではないらしい。
しかし、いくら春といえども風はまだ少し冷たいし、日陰のこの場所は肌寒く感じるほどである為、このまま寝ていたら風邪を引いてしまうかもしれない。
更に彼は部活に行くと言っていたのに、ここにいるという事は部活に行っていないというわけで。
真面目なはもしかしたら練習が始まっているかもしれないと思い立ち、体調も気になったので気の毒だが幸せそうに眠っている彼を起こす事にした。
「指原くん、風邪引くよ。 部活は?」
少し強めに揺すってみたが、全く起きる気配がない。
周りに人がいればバドミントン部の人を呼んでもらう事もできたが、場所も時間帯も悪いのか、辺りには誰もいない。
それでもこのまま放っておくのも気の毒だし、彼の体調も気になるには1つの方法しか思いつかなかった。
昼食を食べて眠気が倍増したのだろうかと思いながら彼の顔を見て頷き、パンフレットを小さく折り畳んでポケットに入れる。
そして傍らに置かれたバドミントンバッグを寝ている彼に斜めに引っ掛け彼の体を起こして支えると、は地面にしゃがみ込み彼の腕を肩の上から回すように持ってきて、
できるだけ上に重心を置き、彼の太腿を持ってゆっくりと足を伸ばして立ち上がった。
「やっぱり男の子は重い……。でも部室棟はすぐ近くにあった筈」
そう呟きながら、はゆっくりと彼を背負って歩き始める。
腰を伸ばすと無防備な彼が落ちてしまうので、腰を曲げた状態で一歩ずつプールと構内を取り囲む塀の間を進む。
少しでも早く彼が起きればと思い、運びながら声をかけようとしたのだがそんな余裕はなかった。
ほんの少しの距離だと思っていたのに、何キロも走った時のような息苦しさや体の重みを感じる。
漸くプールの端に辿り付き、部室棟が見えてきたので少しホッとしたが、顔にじわりとした汗を感じたは立ち止まって息を整える事にした。
体温が急激に上昇していく感じを覚える。
はこのじわじわと身体が熱くなっていく感じが好きではなかった。
は昔から汗が出にくい体質らしく、気温と湿度が高いところで運動すると熱中症の症状になりやすいのだった。
だから暑い季節の体育の授業や、身体を動かす遊びやスポーツをする時は気をつけねばならなかった。
は地面と自分の足を見ながら意識的に呼吸を整える。
すると――
「ん、深道か? ――は?背負ってるの誰だ?」
後からやって来た男子生徒が声をかけた。
その声にハッとしては顔を上げるが、身体が少し傾いた拍子にバランスを崩し膝からガクリと地面に倒れて、背負っていた彼に押しつぶされるような形で激しく転ぶ。
「お、おいっ、大丈夫か!?」
「何があったんだい?」
バタバタと駆け寄ってくる数人の足音と、自分の上から聞こえる「ん〜?」という目覚めの声を聞きながら
漸くあの苦行のような苦しみから解放されたは、未だに重みを感じながらもホッとした。
「深道、どけよ! まだ寝てんのか!?」
「いやーもう起きたよ。んで、飯野と梶は何でここにいるんだ? 一体何が起こったわけ?」
「いいからどけって。――ん?お前は確か同じクラスの……だっけ?」
「あ、そうです。飯野遙(いいのよう)くんでしたよね?」
「おう、よく分かったな」
「綺麗なストレートロングヘアーが印象的で覚えてたんです」
「へぇ、クラスメイトなんだ。それはそうと、君、大丈夫かい?」
「ええ、何とか……」
やって来た二人の男子生徒に助け起こされ、は一息つく。
二人とも深道と同じバドミントン部に所属しているらしく、一人はや深道と同じクラスの飯野遙、もう一人は3年Bクラスの梶紳之介(かじしんのすけ)。
紳之介の自己紹介を聞き終わった後、は先程背負っていた彼の事を思い出し、慌てて駆け寄った。
「指原くん、大丈夫? 怪我はしてない? 部活の道具も平気!?」
「んー大丈夫大丈夫。って、キミが背負ってここまで連れて来てくれたんだよね? 重かったよね、ごめんよ」
眠そうな目をしていたが、それでも申し訳なさそうに彼は頭を下げた。
「ううん、私は全然なんとも。でも力尽きてしまって、落としちゃってごめんなさい……」
「っていうかお前、よく運ぼうと思ったな」
「本当に。相手は男だし、更に荷物まで持ってるってのに」
「はぁ……起こそうとしたんですけど指原くんが全然起きなくて。でもあのままにしとくと風邪引きそうだし、部活ももう始まってるかなと思って心配になってしまいまして」
「優しい!キミって女神様だなぁ。そういえば教室でも心配して起こしてくれたんだっけ? あれ、同じクラスだったかな俺達?」
「うん、同じクラスのです。これから宜しくね。 ――あぁ、お互い砂埃で真っ白だよ」
そう言ってが自分と深道の制服の汚れを軽く払っていたら、飯野が声を上げた。
「おい、お前。膝、凄い事になってるぞ。早く洗って処置しろよ」
「掌も怪我してるみたいだね」
「わっ…マジで!? ゴメン!!!」
の両膝から流れる血を見て、突然深道は目を見開き、大きな声で叫んだ。
そんな彼の変わった様子に驚きつつ、は笑顔で首を振る。
「いいのいいの、私がドジったのが悪いんだから。全然気にしないでね。じゃあ保健室に行ってきます。 ――練習、頑張ってね」
そうしては手を振り、踵を返した。
膝がピリピリして歩きにくかったけれど、ぎこちない歩きをすれば心配をかけるかもしれないと思い、気丈に歩く。
「でも、保健室ってどこだっけ……」
折り畳んだパンフレットを取り出し、保健室の位置を探しながら歩を進める。
なんだか今日は歩いてばかりだなぁと思いながら、目の前にある学食を遠目に眺めた。
もう昼は少し過ぎたが、パンフレットを見る限りまだ開いている時間である。
一度、教室に戻って荷物を持って保健室に行ってから学食に寄ってみようと考え、は痛い足を引きずりながら昇降口まで戻ってきた。
すると前から来た男子生徒が指差して声をかける。
「――ちょっと、お前さ。足、めっちゃ血だらけだけど大丈夫か?」
「あ、はい。さっき転んじゃって…」
「だけど保健室はこっちじゃないけど」
「はい。一度、教室に荷物を取りに行ってから保健室に寄ろうと思いまして」
「それなら負ぶって連れて行こうか?」
眼鏡をかけた長身の男子生徒が気遣ってくれたのか手を差し出してくれたが、は慌てて両手を振って断った。
「いいですよ、そんな重傷じゃありませんし」
「でもすげぇつらそうに歩いてたみたいだけどよ…」
ヘルメットのような……といったら失礼かもしれないけれど、アイドル顔負けの小さな顔にピタリと沿った丸みを帯びた髪型の男子生徒も訝しげな表情でこちらを見る。
「あはは、ちょっと痛いくらいですので」
「――というか思い出したけど、保健室には今誰もいないよ」
「あ、そっか。俺達、今さっき絆創膏貰いに行ったんだけど、職員会議かなんかで不在になってて鍵かかってたぜ」
「あら、不在ですか。――あ、ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、は上着の内ポケットからソーイングセットを取り出し、中から絆創膏を数枚抜き取る。
「これ、よかったらどうぞ。汚れはちゃんと落としてから使ってくださいね」
「え? あぁ、ありがとな。用意いいな、お前……っていうかお前が使えば?」
「幅広のものは生憎今日は持ち歩いてなくて」
「いつも持ち歩いてるの?」
予想外の行動に呆然としながら、とりあえず男子生徒は差し出された絆創膏を受け取った。
「はあ、昔からドジでよく怪我をしてましたし、部活でマネージャーをしてたので必要に駆られてですけど持ち歩いていたのが今では習慣になっちゃって。
テーピングセットは持ってるんですけど」
「今はマネはしてないの? ――というより、学年は?」
「あ、3年です。今日から編入したんです」
「なんだ、同級かよ。敬語とか使うから年下かと思ったぜ」
「あは、人見知りなものですから」
「その割には人懐っこい可愛い笑顔だねえ」
「……はい?」
キョトンとした表情のと、にっこりと笑った眼鏡の友人の顔を見ながらもう1人の男子生徒はため息をついた。
「豪司(つよし)、いきなり口説くなよ。ってか流されてるし」
「黙ってくれる、颯人(はやと)。――それなら僕らの部室にある救急箱貸すよ。確か使ってないパッドがあったと思うし。君も早く処置した方がいいだろう?」
「え、でもそんな」
「いいっていいって。お前もそんな血だらけで学校中、歩けねぇだろ?」
「はぁ、確か――にっ?」
そう言った瞬間、は豪司と呼ばれていた男子に抱え上げられる。
は驚きで表情と身体を強張らせながら、彼の顔を見上げた。
「あ、の?」
「歩くのもきついだろ? すぐそこだから連れて行くよ」
「でも私、重たいですし……会ったばかりの貴方にそんな事をしていただくなんて恐れ多く」
「全然気にしなくていいよ。君、軽いし」
「いえ、でも」
「ホントに気にすんなよ。豪司は親切心じゃなく下心でやってるだけだから。
――あ、じゃあ俺、お前の教室に行って荷物取って来てやるよ」
「颯人、その言い方酷すぎない?」
「え、下心?? ――というよりも、貴方にまでそんな事を」
颯人と呼ばれた男子の言葉を聞いて動揺しながらが口を開くが、もう次の瞬間には彼は走り出していた。
しかしながら彼は階段前で立ち止まり振り返る。
「お前、何クラス? 名前は?」
「あ、Cクラスのです! ――あぁ、もう本当にすみません、ありがとうございます!」
「了解了解!じゃあ先に行ってろよ、すぐに追いつくから」
手を上げて彼は階段をリズム良く駆け上がっていく。
その後姿を見送り、豪司が声をかけた。
「じゃあ、行こうか」
「はい、すみません」
が頷くと、豪司は歩き始めた。
少人数だが下校途中や部活動に向かう生徒たちと目が合い、非常に情けなく恥ずかしい気持ちになる。
豪司はこの学校で人気者なのか有名人なのかは分からないけれど、彼を目に止めた女子たちから黄色い声が上がっている。
そんな彼女らの目線の先にいるは大変気まずい。
「あ、そうだ。さんだったね、名前も教えてくれる? 僕は小泉豪司(こいずみつよし)。さっき走って行ったのは束原颯人(つかはらはやと)。二人ともAクラス」
「私はといいます」
「か。いい名前だな。それはさておき、そろそろ普通に話そうか。敬語で話されるの、堅苦しくて苦手なんだ」
「ごめんなさい。分かった」
そうして話しながら移動していると、後ろから軽快な足音が聞こえてきて次第に大きくなっていった。
振り向くと、先程鞄を取りに行ってくれた彼が走って近づいてくるのが見える。
「おーい!取ってきたぜ」
「ありがとうございます。早いですね」
「まあなっ!」
彼はそう言いニッと笑って隣に並び、同じ速さに歩調を合わせる。
豪司は180pは確実にあるけれど、そんな彼の耳程のところに颯人の頭がある。
颯人は男子生徒の中では平均よりも背が低めなのかもしれない。中学生と言われたら頷けてしまえるかも。
そんな彼らに運ばれていくと部室棟が見えてきた。
「ん?あれ、その子って……」
豪司に抱えられたに気づき、着替えを終えた深道は不思議そうな顔をして彼女を指差した。
そんな彼には苦笑してみせる。
「あ、あはは。戻ってきちゃった」
「あれ? 知り合い?」
颯人がと深道の顔を交互に見ると、はクラスメイトだと頷いた。
「――あ。お前、保健室に行ったんじゃなかったのか?」
「何だかバドミントン部に縁があるみたいだね、君」
先程助け起こしてくれた二人も部室から出てくる。
彼らも不思議な表情をしていた。
そんな彼らに颯人が説明をすると一番近くの水場へ案内してくれたので、そこで足についた砂を落とす。
清潔なブラシがあるわけではないのでは石鹸で洗った指で丁寧に傷口にめり込んだ汚れを落としていった。勿論痛かったが。
その後、再び強引に近い説得で豪司に抱えられて部室まで連れて行かれる。
「部室、綺麗ですね」
「そうか?物が少ないだけじゃないか?――あ、いや、確かにいつも片付けてくれる奴がいるな」
はあまり見ては失礼だとは思ったが驚いて辺りを見回す。
自分が以前マネージャーをしていた水泳部の部室はお菓子や雑誌が散らばっていたし、着替えも畳まずにポイッと椅子や机の上に置かれていたりしたものだ。
しかしながらこの部室はゴミ一つ落ちていないし整理整頓されているように見える。
緑ヶ原高校は文武両道で有名な学校であるし、先程見たパンフレットに確か男子バドミントン部は常に全国大会出場していると書かれていたから、
こういうところでも意識が違うのだろうな、とは思った。
そんな話をしていると、目を擦りながら深道が救急箱を持ってきてくれる。
「あれ、深道が自分から何かするなんて珍しいな」
颯人が意外そうに言うと、深道は苦笑しながら頭を掻く。
「あぁ……まぁ、怪我の原因は俺だから」
「そうなの?」
「あぁ。彼女、寝てる指原を担いで部室棟まで来てね。その後、僕達の目の前で崩れ落ちて両膝を強打、今に至る」
「力強っ!」
「無茶するなぁ、君」
「あはは……」
苦笑しながらは椅子を借りて2つ並べて座り、左足を椅子のひとつに乗せて処置を始める。
市販のハイドロコロイド被覆材のパッドを傷口に合わせて貼り付けた。
「滅茶苦茶、痛そうだな」
「さっきも傷口ぐいぐい洗ってたし、お前って見かけによらず大胆だな」
てきぱきと処置をするの様子をメンバーたちは興味深く見つめている。
「そうですか? 別に自分の身体ですから遠慮はいらないし。まぁ、他の人の治療をする時はもうちょっと手加減しますけど」
「そういえば、前の学校でマネをしてたって言ってたな」
「ん?前の学校って何?」
「お前、同じクラスなのに何も知らねーんだな」
「まだちゃんとお話してないから仕方ないです。私、3月の終わりに引っ越してきて、今日この学校に通う事になったんですよ」
「そうなんだー」
そんな事を話しながら左足の治療が終わろうとしていた時、部室のドアが開いた。
開いたドアの先に立っていた生徒と目が合ったは、その男子生徒をどこかで見たような気がすると首を傾げていたが、2秒程でパッとひらめく。
生徒会長の遠塚谷雅(とおつかやみやび)だ。
始業式が始まる前に彼の姿を見つけた女子生徒たちが生徒会長だとざわざわ騒いでいたのを思い出したのである。
前に座っている話し好きな女子から聞いた話では、彼は有名な外食グループを経営している社長の御曹司で、成績優秀かつ部活動でもキャプテンを務めているらしい。
「ちぃーす」
「おう。――ひとつ聞くが、そこにいる奴は誰だ? ここからスカートの中が丸見えだぞ」
「えええええっ!!!」
【ドスンっ】
生徒会長の第一声に動揺してはバランスを崩して椅子から落ちる。
「おい、大丈夫か」
「は、はいっ……お見苦しいものを見せてすみません。
訳あって保健室で治療できなかったものですから、皆様のご厚意で場所と道具をお借りしておりますっっ」
転げ落ちたは物凄い勢いで起き上がり、痛い膝を曲げて正座して男子生徒に頭を下げた。
「おいおいおい、謝るのはお前じゃねーだろ」
「ってかビビリすぎ」
「面白いじゃない、君」
そんなの後ろからメンバーの笑う声が聞こえてくる。
「柳井(やない)、手当てしてやってくれ」
「かしこまりました」
雅の後ろからスーツの男性がすっと現れる。
柳井と呼ばれた男性は豪司よりもやや低めかもしれないがモデル体型な雅より一回り筋肉質で背も高い。
しかも端整な顔立ちはしているけれど無表情なので密室にいたら圧迫感を与えるような人である。
無言の彼は近づいて来て、ひょいとを抱え上げた。
そして椅子に座らせ、右膝や掌の傷を処置していく。
「ありがとうございました」
「まだ痛むでしょうからお気をつけて」
傷口を全て処置してもらったは立ち上がって雅や柳井に向かって頭を下げた。
周りのメンバーにも礼を言う。
「本当に皆さんにはお世話になってしまって。ありがとうございました」
「気にすんなよ。俺らが連れてきたんだし」
「そうそう。元は深道が原因みたいだし、遠塚谷にも下着見られてるし、どちらかというと君、被害者だからね?」
「そ、そうかな? というよりも、後者は早く忘れていただきたいと……。
――あ、もうこんな時間!ごめんなさい、練習の邪魔をしてしまって。では失礼します。お邪魔しました」
「帰っちゃうの? なあなあ、飯食ってなかったら一緒に学食行かねぇ?」
「おい、深道。まだ昼食済ましてなかったのか?」
「うん、気がづいたら寝てた」
「じゃあ、さっさと済まして来い。学食閉まるぞ」
「おうっ!じゃあ行こう、ちゃん」
「う、うん」
深道のペースに流されつつ、自分も学食で食事をしようと思っていたのでは頷き、彼について行く事にした。
「深道の事、頼んだぜ? また寝てたら起こしてやってくれよな」
「は、はぁ」
颯人の言葉に苦笑しながら頭を下げて二人は学食へ向かう。
彼女らの後姿を見ながら豪司はため息をついた。
「いいなぁ、深道と飯野は。あんな可愛い子と同じクラスだなんて」
「可愛い? 可愛いっていうよりも綺麗系じゃねぇ?」
「外見はそうだけど素直だし礼儀正しいし性格は可愛い子だろう」
「小泉、お前もうあいつに手出したんじゃないだろうな」
「それ誤解を生む表現だよ、遠塚谷。僕、今までバドミントン一筋だったじゃないか。まあ、今からはどうか分からないけどね」
「それって彼女が気になるって事? やるじゃない、小泉」
「そんなに気になるんだったらマネージャーに誘えばいいじゃん」
「男バド部に女子マネとか地獄だぞ。取り巻きの女どもからいじめられる未来が見えるぜ。まあ、守ってやらなくもないが」
「だよね。男バドは生徒会長様を始めとして人気者が多いから」
「ノスケ、お前もその中に入ってんだよ。この前、差し入れ貰うところ見たんだからな」
「あれれー、颯人だって以前は先輩にモテてたじゃない。3年になってからはファンは減ったかもしれないけど」
「うるせえ」
「おい、早く支度しろ。今週末にはレギュラー選抜校内戦するんだ、弛んでるとベンチだからな」
「はいはい」
そんな話をしながら着替えをするメンバーであった。
しかしながらその後、バドミントン部顧問の教師にも気に入られたは、皆から勧誘され男子バドミントン部に入部することになった。
そうしてマネージャーとなったは、部員の皆から愛され、尚且つマネージャーとしても信頼される存在となる。
そんな彼女の献身的な態度や美しい容姿は、試合の度に他校の者の間でも有名となっていったし、
最初は妬んでいた男バド部の取り巻きの女子たちからも「彼女なら」と認められていくのだった。
そんな女子たちの間でそれぞれの押しメンとのカップリング妄想話が水面下で盛り上がっていることはもバドミントン部のメンバーたちも全く知らない。
今年は編み物やプラ板作りにはまりすぎてしまってサイト更新を全く忘れておりました。すみません!
でも水面下で話をちょこちょこ書いてはいたのですが(言い訳)
というわけで、今年は何も新しい作品なしでサイト開設記念日を迎えようかなと思ってはいたのですが、
ぐうたらな私のことなので、これが癖になってはいけないと思って、せめて昔書いていたけれど表に出せずにいたものをリメイク?しようと。
本来は長編になるはずだったのですが、これ以上書けそうにないです。続き期待された方がいらっしゃったらすみません。
昔のはちゃめちゃな書き方やシチュエーションが盛りだくさんで懐かしいやら恥ずかしいやら。
でも今ではこんな勢いがある話書けない気がするなぁと思うので、恥ずかしいけれど結構内容そのままでいっちゃってます。
ちなみに水泳は小学生の頃、バドミントン部マネは高校の頃やっていましたので、書きやすいかなと思って。
だけどSSだし、詳しい内容書くまでもなかったな。
全然まともに書けてないので、ここで補足。
・主人公:身体に熱が籠もりやすい体質なのがコンプレックス。思いきり運動したりしたいけれど、死にかけた時の苦しさを知っているのでセーブしている。
その為、マネージャーとして最大限の力を持って選手を支えることに命をかけている。自分より選手の身体や道具など何より大事にするし優先する。
(しかしながら選んだ部活がどれも暑い環境で試合を行ったりするので、部員たちの見えないところで滅茶苦茶熱中症対策してる)
選手第一だし、取り巻きの女子たちにも気を配って対応するので女子生徒にも人気が出るタイプ。
なので色んな女子から「私の押しの深道くんと主人公ちゃんのお世話カップルが最強」とか「梶くんを振り回せるのは主人公さんだけ!よってベストカップル」とか
「雅様が信頼してサポートを任せられるのは主人公さんしかいないの。あれは運命だわ」とか影ながら言われて勝手に押しとの仲を応援されてる。
時々知らない女子から「(私の押しと良い感じの関係築いてくれて)ありがとうございます!」とか言われてキョトンとしてる。
・指原深道:好きなことには一生懸命全力で取り組むけど勉強は苦手。
部活や筋トレなどに体力も時間もかけるタイプで、それ以外はほぼ寝るか食べるか。
今は色気より食い気だけれど、主人公のことは優しくて面倒見が良いので好き。
いずれ彼女を独り占めしたいと思い始めて恋心を自覚するタイプ。
無意識に「好き〜」とか「愛してる〜」とか言っていたけど、恋心自覚後は恥ずかしくてまともに話せなくなる。
「私、深道くんに何か嫌なことした?」とか不安に思われて問い詰められて、慌てて言い訳しようとしてそのまま告白したりするドタバタな感じ。
付き合って半年経っても関係は余り変わらずお友達の延長みたいな感じだけど、本人たちは全く気にしていなかったが、
周りから「どこまで行った?」って聞かれて「遊園地!」とか言ってるんで本気で心配される。
でも実は遊園地の帰りにファーストキス済ませてたんだけど、この思い出は二人の宝物だからってとぼけたふりしてる。
プレイスタイルはとにかくアクティブ。フットワークが軽くて前後左右に揺さぶるのが得意だし、自分も得意。ヘアピン練習が好き。
・飯野遙:あまり女子と関わらず男子たちと連むことが多いぶっきらぼうタイプ。
口は悪いが結構面倒見は良く、たまに優しくされた女子のハートを射貫いているが本人は興味も自覚もなし。
主人公は頑張りすぎるところがあるので心配している。部活を引退してからも傍で守ってやりたいと思いながらも自分からはあまりアプローチできないタイプ。
でもラッキースケベ体質だから結構思わぬ接触があったりして何だかんだで意識されるようになったりとか。
一番最初に主人公の体質に気づいて助けてあげる(無意識にお姫様抱っこで保健室まで運ぶ)人だと思う。
大人の関係にまでなった時に、長い髪の毛が主人公の顔や身体に当たって「くすぐったい」とか言われるので切ろうかと思ってるけど、
主人公に優しく梳いて貰うのが好きだし、主人公も長い髪、好きよと言ってくれるので今度から押し倒す前に髪の毛結ぼうとか思ってる。
多分、自分で髪の毛結ぶ姿超セクシー。
バドミントンのプレイはハイクリア後にカットするのが好き。持久力には自信ありなので長めの試合になることが多い。
・梶紳之介:周りからはノスケと呼ばれている。飄々としていてこれといった親友はいないけれど、信頼する仲間は結構いるタイプ。
いつも涼しげで澄ました顔で皮肉を言ったりするが、その後めちゃめちゃ甘い口説き文句を言ったりする。相手の色んな表情を見たい意地悪タイプ。
次第に主人公が対応に慣れてきて「はいはい」とか言われるようになってムッとし、それから本気で落としに来る。わざわざ呼び止める際に壁ドンしてくる。
主人公に興味を持っている他の男子に対してめっちゃマウント取ってくる。なんなのその自信、ってくらい。
でも彼が陰ながら努力してるし、実は滅茶苦茶負けず嫌いなところがあるのを偶然主人公は知ってしまって、努力してるから自信があるんだなぁとそこそこ尊敬し始める。
そこから主人公が本気で照れ始めるけれど、主人公の本気の照れ顔や仕草が可愛すぎて言葉も思考も失うタイプ。
「その顔、ズルい」って言ってハグして自分のキュン顔隠してみたり。傍から見たらただのバカップル。「早く付き合え」「教会ここに建ててくれ」って言われてる。
試合中は常に余裕な顔をして戦略重視で色んな技術や情報を用いて戦うタイプ。
雅がスマッシュ打ちまくるので目立つけれど、実力的にはNo.1で一年の時から無敗だったりする。
・小泉豪司:基本的に物静かで物事を俯瞰で見るタイプで、女性にはモテるし、関わるのは好きだけど本気になれないタイプ。
自分が死力を尽くしたけれど負けてしまった試合の後に陰で主人公が自分の悔しさを思って泣いてくれていたのを見てから本気で口説き始める。
簡単に手にキスとかしちゃう人。
でも普段の行いのせいで軽い男と思われて本気にして貰えない。最終的には「なんで本気にしてくれないんだ」って泣き落としするタイプ。
仕方ないので「自分と付き合うとこんなメリットがある」とプレゼンしていたけれど全く主人公に響かないので
「僕はこんなに駄目な男だから君しかいない」って方向に持っていくようになる。
主人公も普段淡白でプレイボーイ風な彼がこんなにも熱心で尚且つへたれなところを自分にだけ出してくれるので懐柔されていき、
姉さん女房的にお付き合いが始まるけれど、多分、付き合い始めたらスパダリになって夜だけ甘えるタイプ。
プレイはドロップとかカットとかの前方に落ちるショットが得意。長身を生かしたスマッシュは角度がエグい、とよく颯人に褒められて(?)いる。
・束原颯人:元気な少年がそのまま大きくなってる。喜怒哀楽が激しく、運動量も激しい。
常に走り回ったり飛び回ったりしていて、部活の中では深道と仲良し(部活中は深道もテンションが高いので)
言動だけでなく童顔なのも相まって皆から可愛いと言われるがとても不満。格好いい男になるべく、日々雑誌やインターネットで情報を集めてみたりするけれど、
自己分析の時点で間違っているので世間の大人の男をモデルにしたところで結果に繋がらない。
主人公とは性別関係なく仲良しとなるが周りの男どもがあからさまに意識し始めるし、主人公は鈍感すぎて危なっかしいしで
まともに相手できるの俺しかいねーじゃん!みたいな気持ちから恋に発展するタイプ。
お付き合いが始まると面倒見が良いお兄ちゃんタイプになる。周りからは相変わらず可愛いと言われるけれど、主人公には「格好良い」と言われるので満足。
主人公の手作りお菓子や料理がとても好きすぎて「毎日食べたい!早く一緒に住みたい!」って皆の前で堂々と言ってしまって多分卒業後すぐに結婚する。
好きな練習はプッシュ。背が小さくダブルス向きなのは分かっているし、ネット際のプレイが得意なのでダブルスで一番になりたい。
ダブルスの相手は豪司だったりノスケだったり遙だったり相手によって変わるけれど性格的にもプレイスタイル的にも豪司が一番組みやすい。
・遠塚谷雅:完全無欠の生徒会長でキャプテンでお坊ちゃま。もはやテンプレ。
雅様と呼ばれてたら良いなって。声は高めで中性的な感じだと私が好き。
授業以外では常に執事の柳井を侍らせている。「自分は優秀で人よりやることが多いんだから雑用を執事にやって貰って何が悪い」って感じで
入学当時から執事を連れ歩くスタイルは変わらない。
子どもの頃は素直でのんびりとしたお坊ちゃまだったが、自分よりもずっと優れていて憧れていた兄が
父の後を継がず料理人になると家を出て行ってしまったので一気に周りから期待されることになったのと、
兄への失望で性格ががらりと変わり、常に相手に裏がないが悪意がないか見極めようとしてしまう。
素直で騙されやすい主人公を見ていると幼い頃の自分を思い出すので最初は邪険に扱い気味だが、彼女が必死に選手の為に尽くしている姿を見るうちに
こういう人が傍にいてくれたらこれから先社会に出ても戦っていけると思うようになり、何も知らない主人公に秘書検定の勉強を勧めてみたり、社交界のマナーを叩き込んだりする。
相手が気がついた時には公私ともにパートナーにしてしまうタイプ。
付き合い始めると気位の高い猫みたいになる。突然「疲れた」って言って腕の間に顔を突っ込んできたり、本読むから先に寝てろって言ったくせに寝てる主人公に添い寝したり。
プレイはスマッシュとカットを織り交ぜて相手を攻めながら揺さぶることが多い。バックハンドの攻撃的なドライブが得意。
・柳井小次郎(やないこじろう):遠塚谷家に雇われている雅付きの執事。雅を立派な跡取りにするべくサポートする、27歳。
昔の人懐っこい純真な雅のことを知っているので、がらりと変わってしまった彼を気の毒に思っているが仕事の時は割り切っている。
正直、高校に連れてこられるのは周囲が煩いので遠慮したい。雅に対してキャーキャー騒ぐ女子を見て「お猿の群れですね」って思ってる。
主人公も元気が良すぎるところがあるけれど、あまりの奉仕の心に感心している。
雅ルートに入ったら「雅様、頑張ってください」ってめっちゃ応援して雅の為にデートプランとか立ててくれるけど、
大人っぽすぎでヒロインに毎回却下されるので毎回雅に怒られる。
雅ルートかーらーの、(隠し)柳井ルートに入ると時々大人びた表情で空を見ていたりする主人公に惹かれて、年齢差とか雅との関係とかで陰ながら苦悩するタイプ。
でも雅は立派な紳士なので柳井ルートに入った時点で二人が両片想いなのを察するし、柳井にも「俺を道化にするなよ」とか言って背中押してやる感じ。
…という感じで、またもや私だけが想像して楽しい感じになってしまいましたが、
ここまで読んでくださった皆様、ありがごうございました!
<2019.11.30 各キャラの説明文?を少し追加。柳井の情報も追加してみました>
吉永裕(2019.11.3)
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画像は CHARAT(キャラット) 様にて作成した物を縮小して使っております。本当はもっと美しいの〜。でもレイアウトが合わないので渋々縮小しました。
色々なキャラクターをメイクできますのでめっちゃお勧め!