beautiful sky -II-
第一印象は最悪。二回目に会った時はただ驚いて三回目には興味を持っていた。
きっかけは薬の購入。
生理になったはいつも気絶するように寝てしまい起床後も気分が悪いらしく、よく貧血緩和の薬を飲んでいるので
その日も薬を買って飲ませてやろうと普段利用している薬局に行ったが生憎休みの日だった。
仕方なく周辺を歩き回り漸く別の薬局を見つけたのだが、その薬局がまた今にも閉店しそうな雰囲気で、
窓やカウンターは曇っているわ棚に埃が被っているわで本当に営業しているのか疑われる店だった為に正直入るのも躊躇われたが、薬が必要なのは変わらないし
日も傾いてきているのでこれ以上薬局を探してうろつくわけにもいかない。
仕方なくガタつく扉を開け、薄暗い店に入りカウンターへ向かった。しかし呼んでも店主が全然出てこない。
苛々して大声を出したらやっと奥から出てきたけれど、その店主がまた一見青年のように見えなくもないものの髪の毛はぼさぼさで髭も剃っておらず
見るからにだらしなく、畑仕事をしていたかのような泥のついたTシャツとジャージを着ていた。
それを見た瞬間、私はつい店主に向かって説教してしまった。
「接客業なんだから窓ガラスやカウンターは拭きなさい!あと掃除もきちんとして、貴方も身嗜みを整えてカッターシャツくらい着なさいよ。
どんなにいい薬を売っていてもこんなんじゃ客に信用されないでしょう?!」
言った後に後悔したのだけれど、言ってしまったものは仕方がないと思い相手から目を逸らすこともできずに立っていたら
彼は笑って「ありがとう」と言うと私が欲しがっていた貧血に効く薬を調合してタダでくれた。アドバイスしてくれたお礼だと言って。
何だか拍子抜けしてしまったけれど、次の日、薬の効果か調子が良くなったとが言っていたのもあってその日も足があの薬局に向いた。
すると前日とは打って変わって窓も看板も内部もピカピカになっていた。そして奥から出てきたのは昨日とは別人の端正な顔立ちの青年だった。
確認したらあの店主だった。髪の毛を整えて髭を剃り、襟のあるシャツと白衣を着た彼は前日とは制服や髪型が違う私のことを何も聞かずにニコニコと笑って出迎え、茶を入れてくれた。
何でも、彼の畑で育てた薬草だそう。気分を穏やかにしてくれる効能があるらしい。
彼は商売よりも薬の開発や畑仕事をする方が好きらしく商売の勉強は何もしていなかった為に店のことはなすがままにしていたようで、
「貴女に色々と言われたことをそのまま実行したらお客さんが来ました。ありがとうございます」と人の良さそうな顔で笑った。
私は急に恥ずかしくなって前日の非礼を詫びたが、彼は穏やかに笑って「いえいえ」と言うばかり。
そうこうしているとお客さんが来た。スーツを着て黒い皮の鞄を持った男性で、店主のことを「先生」と呼んだ。
そして私には良く分からない難しそうな単語の混じった話をし始めたので、私は急いで店を後にした。店の扉を閉める時に見た店主の顔は何だか活き活きとしていた。
その次の日も私は薬局を訪れた。その日は恩田兄弟からのことで注意を受けた為に気分が落ち込んでいたのだが、ふと薬局の彼に会いたくなったのだ。
私が店の引き戸を開けて挨拶をすると、彼はまた奥から現れてにっこりと笑い茶を入れてくれた。
それでも私に何か事情を聞くこともなく、ただのんびり外を眺めたり畑に植えている野菜や薬草の話をしたりするだけ。
私も用がないのに何故こんなところに通っているのか自分でも分からなかった。しかし、この店主と一緒にいる時間はとても穏やかで悪くないと思えた。
「そうか…、雰囲気がに似てるんだ」
私が一人呟くと彼はまたにこっと笑ってこちらを見た。そうだ、物腰がどこかと似ている。
だから一緒にいて何も会話がなくても気まずく感じないし寧ろ温かい気持ちになれるのだ。
そして私がそのことを彼に話すと彼は「妹がいていいね」と言っていた。彼は一人っ子なのだそうだ。今度、連れてくると言ったら楽しみにしていると答えた。
更に次の日、私は帰宅後再び外出し薬局に向かった。その日、私は自分がに支えられて生きていることを知った。
和泉と帰りながら話をしていての存在の有難さに漸く気付いたのだ。
私は双子で昔から一緒に過ごしてきたあの子とは表面上の性格は違えど考え方や感じ方は自分と同じだと思い込んでいた。
しかし、当たり前なことだけれど思考が全く同じ人間なんていやしないのだ。
そのことに漸く気付けた。あの子は相手のことを考えて行動する優しい子、人の痛みに敏感で自分の痛みとして感じることができるくらいに繊細で感受性が強い子で、
そんなあの子に私はいつも救われていたのだ。
私がやりたいと思うことを躊躇なくできるのも、もし失敗して落ち込んでもあの子が慰めてくれるからと無意識のうちに頼りにしていたからだ。
私が自身を好きでいられるのものおかげなのである。
「今まで私は妹の気持ちを考えずに振り回してばかりだったと思う。
あの子は優しいからいつも私を許すけれど、でも、酷く傷つけていたかもしれない」
真実に気づいた私はに対して有難さと同時に申し訳なさを感じていた。その感情は和泉に吐き出してもどうしようもない程に膨らんでしまっていた。
しかし、当のにそんな気持ちを感じ取らせて心配させてしまうのは更に申し訳ない。そんな私はあの薬局の店主に全てを話すことにしたのだった。
と同じような雰囲気を持つ彼になら、の気持ちを察してくれるかもしれないし私の気持ちも理解してくれるかもしれないと思ったからだ。
すると彼は「素直に話したらどうだろう」と言った。今、悪いと思っているなら今、謝ってみればいいと。そしたら相手も想いを返してくれる筈だと。
「たとえ相手がどんなに察しの良い人でも、ただ心の中で思うだけでは自分の考えや想いを正確に相手に伝えることはできないから。
それでもし相手が傷ついていたと言えば謝ればいい。その時の君の想いを言葉で伝えたらいいと思うよ」
穏やかにそう言うと、彼はいつもの茶を出してくれた。そして元気の出るおまじないと言って茶に乾燥させた小さな花をのせた。
その可愛らしい花を眺めて茶を飲んだら本当に元気が出て、来た時とは別人のように私は笑ってその薬局を後にした。
その夜、私はと話をした。これまで色々振り回してごめんと言うとはキョトンとしていて「驚いたり戸惑ったりすることはあるけど、でもそんな気にしてないよ?」と言っていた。
そんな優しさに私は救われてきたのだと実感し、私はあの子の前で初めて泣いた。するとは酷く動揺して必死に慰めようとしてくれたので尚更涙が止まらなかった。
私は本当に幸せ者だと思った。
次の日、私はある決意をして薬局の扉を開けた。奥から出てきた店主が私を見てニコッと笑い挨拶をする。
私は彼の前にずんずんと進み出た。
「私と結婚して。
私、薬剤師の資格を取るわ。そして私がこの店を切り盛りする。
貴方は好きな研究と畑仕事に専念したらいい」
昨日こそ相手の気持ちをもっと考えて行動しようと誓ったけれど、こればかりは譲れなかった。
幼馴染の和泉とは違う居心地の良さがあるし私が自らの弱さを出せて頼れるのは彼しかいないと思ったから。
そんな私の無謀な申し出を馬鹿にすることもなく、冗談だと受け止めることもなく、彼は「ありがとう」と言って受け入れた。私の方が驚愕してしまうくらいに、実にあっさりと。
「本当にいいの?」と聞いたら彼は「はい」と答えた。最初に会った時にはっきり物を言う私はとても新鮮で面白い子だなと思ったのだそうだ。
面白いと好きは違う気がするのだけれど、ましてや結婚だなんて好きだけでは成り立たないものだと思うのだが、と自分が申し込んだくせにどこか納得がいかなかったものの、
彼が出してくれた茶を飲んだら不思議と彼を信じられて心がホッとした。
「私たち、まだお互いの名前も知らなかったわね。
私の名前は、美空。貴方は?」
「僕は峯野隆介」
その名前はどこかで聞いたことがあった。そう、クラスメイトと一緒に見ていた雑誌の――Мガム開発者の名前!
同姓同名ということもあるかもしれないけれど、以前“先生”と呼ばれていたしもしかしてと思い聞いてみたら、本当に本人だった。
しかも彼自身は偉ぶることもなく「知ってたんですかぁ?」といつもののほほんとした調子を崩さない。
大学にもいかずにのんびり店番をしててもいいのかと私が聞くと、彼は大学は夜に行っているから問題ないと言い、更にここ数日は私が来るから店番も楽しくなったと言って笑った。
「私が卒業するまで待っててくれる?」
そう言ったら優しく微笑んで頷いてくれた。
大人の彼からみたら私はとても未熟な存在なんだと思う。それでもいいと思ってくれるなら私はこのまま私らしく生きて行く。
帰宅したら一番にに報告しようと思った。さすがのあの子も普段出さないような大きな声を出して驚くだろう。
そして、本当にその人は大丈夫なのかと心配して、結局は祝福してくれるんだ、きっと。
◆隆介の電話: J-JXUUDEIIC-MREONT
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本日、拙宅は開設6周年となりました!ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
何か6周年という感謝の気持ちと私個人の高揚を形として表わせないかと思い、ゲーム制作を挫折して今後頭の中でも眠る筈であった
この作品をなんとかサイトにあげてやりたいと考え、今回のような形で作品化しました。
本来、ゲームの作品なのでイベントの発生やおまけアイテムの入手、バッドエンド行きなど
パラメータや選択肢によって立つフラグのようなものがあるのですが
今回は文字で表わすだけなのでバッドエンド(この作品における“途切れた日記帳”ルート)以外は常に主人公が最善の行動を取ったという前提で書いています。
作品を読みながら「あ、これがフラグかな」など考えることも楽しみながら読んでいただけたら幸いです^^
さて、キャラごとの感想を申しますと…
美空はかなり好き嫌いが分かれそうというか寧ろ嫌いな方の方が多いのではなかろうかというキャラになってしまいました。
でも本人は悪気はないので…許してやってください。本当はもっと妹溺愛な部分も書きたかったのですけれども、日記形式なのでそこまで書き込めませんでした。
このbeautiful skyで少しだけ美空に触れましたが、美空は主人公がどの運命(勿論バッドエンドも)を歩んでも隆介と結ばれます。
本当は主人公が美空に両親のことを話して家族関係を修復する大団円エンドで見れる話のつもりだったのですが、
今回は恋愛に特化し大団円エンドはなくした為、美空の恋だけピックアップすることにしたのでした。
結構年の差カップルですが美空の場合はこのくらい年上でないと合わないと思ったので……。
さてさて、主人公のことも少し。
実はこの作品は(というよりもいつもですが)私の救済の為に作った作品でもあります。
プロローグに出てくる主人公と両親の話は実話でして(双子ではないですけどね)、私はそれまでは美空のような自分の意思を結構表に出しまくるタイプだったのですけれども
その時から人の顔色を気にするいい子になりまして……実は今でも親に愛されたい願望は強いです。ホントにいい年なんですけど……。
「こんな私だけど、誰か好きって言ってよ!」みたいな気持ちになった時に思い浮かんだ話でした。
なので、美空以上にこの主人公の性格が合う人と激しく合わない人がいるのではなかろうかと思います。
私の周りにいてくれる人は主人公のような私の性格を「好きよ」と言ってくれる人が多いですが、殆ど話したことのないような人から激しく嫌われるということが多々あるからです。
恐らくはっきり物を言わずにヘラヘラしていい子ぶっている私の態度にいらつくのだと自分では分析しているのですが。
なのでホントに合わない方には合わない主人公です。すみません^^; せめて攻略キャラに好みのタイプがいてくれたら幸いですが……。
というわけで、内容としては日記形式で文字も少なく状況説明も殆どない作品で物足りない方もいらっしゃったかもしれませんが、
読んでくださったお客様、ありがとうございました!!!
吉永裕 (2011.11.3)