5月21日(土)


 今朝は何故かトーヤくんが迎えに来てくれた。と言っても登校時間はまだ一般客は入場できないので学校の近くまで一緒に行って、
その後、トーヤくんは時間が来るまで辺りを散歩してくると言って消えてしまったけれど。
彼が言うには「緊張してるんじゃないかと思って会いに来た」だって。緊張はしてるけどいきなりトーヤくんが家の前で待ってる方が余程心臓に悪いよ!

劇の前にこっそりトーヤくんから呼び出された時は本当に肝を冷やした。「何で冬樹くんの顔を知ってるクラスメイト達がわんさかいる場所に来ちゃうのよ!?」と
叫びそうになったけれど、準備で忙しい時だったし辺りが暗かったこともあって皆も気づかなかったようでホッとした。
トーヤくんは「舞台から落ちないようにね」とか「緞帳の下に敷かれたりしないようにね」とか言って、からかっているのか心配しているのか分からなかったけれど
それでも突然の彼の訪問のおかげで緊張は吹っ飛んでしまったので結果良しということにしておこう。
肝心の劇は、和泉くんやトーヤくん、変装したようには見えない美空も見に来てくれていて「良かった」と言ってくれたので大成功だったと思う。
特にトーヤくんはちょっと目がウルウルしていたような感じで感極っていたみたいだった。「そんなに良かった?」って聞いたら「兄貴のシナリオが神だった」だって。
もう、確かにそれはそうなのだけれど。でも、無事に終わって良かった。

トーヤくんが帰りも家まで送ってくれた。「劇、頑張ったからご褒美に鞄持ちしてあげる」とか言って珍しくご機嫌な顔をしていた。
そんなに文化祭が楽しかったのかな?と思って、「明日一日自由行動できるから良かったら明日も来ない?」と言ったら、嬉しそうに頷いていた。
でもその前に、明日は学校に行く前にいつもの公園に来て欲しいと言われた。「公園に何かあるの?」と聞いたら「明日、君の顔を見た瞬間に魔法が解けるんだ」だって。
「魔法って何の魔法?基本的に魔法が解けるって表現は夢の世界から現実に戻るとか悪い意味が多い気がするけど」と私が尋ねたら、
彼は「心配しないで、僕にかかっているのは悪い魔法だから」なんて急にロマンチストなことを言った。
トーヤくんが悪い魔法だなんて言うものだから心配になって彼の横顔を見ながら帰っていたのだけれど、別れ際に彼は優しく笑って私に鞄を渡し、
前触れも前置きもなく「が好きだよ」なんて言い出すから、驚き過ぎた私は受け取ったばかりの鞄を落としてしまった。
そんな私を見て彼は楽しそうに笑うと鞄を拾ってくれた。そして「明日、会った時に返事を聞かせてよ」と言って帰って行った。
公園に来てくれってそういうこと?と思いながら鞄を抱えて部屋に向かう私の胸は破裂しそうなくらいドキドキしていて、
だけど、そのドキドキは嫌な感じではなくてくすぐったいような感覚なものだから、鞄を抱いてゴロゴロとベッドを転がる私の頭の中で彼への返事は既に決まっていた。


―メモ―
特になし




5月22日(日)


 今日は文化祭二日目。トーヤくんに会う為に光公園に行く。何だか照れ臭いけれど早く会いたくて公園まで走った。
公園に着くと既に彼は来ていて、私の顔を見て一瞬息が止まったように固まったけれどすぐに安堵したような表情になり、そして満面の笑みに変わった。
その顔を見たら恥ずかしさや不安はすっかり治まって、練習してきた劇の台詞のように「私もトーヤくんが好き」と自然に言葉が口から出た。
そしたら彼は「良かった。ずっとこの日が来るのを待ってた」って言って苦しいくらいに私を抱きしめた。
「悪い魔法は解けた?」って聞いたら「うん」って言ってちょっと泣いていた。そんなにも私のことを想ってくれていることが嬉しくて何だが私も泣いてしまった。
でも私のどこが好きなんだろうと思って聞いてみたら、「馬鹿みたいにお人好しで何でも許しちゃうところ」だって。
「それ褒めてないよね」って言ったらトーヤくんは笑っていた。「でも、私が人を許すのは嫌われたくないっていう下心があるからだよ」って言ったら、
トーヤくんの考える許すということは相手を受け入れるということなんだって。
自分と相手に違いがあってもそれを異質なものとして排除するのではなく、個として認めるということは頭では分かっていても真に体現するのは難しいそう。
私は感受性が強くて相手の気持ちに無意識に寄り添おうとするからどんな相手でも受け入れてしまえるのだと話してくれた。
そして、不思議な力を持つ自分たちを受け入れてもらえたことで自分は救われたのだと微笑んだ。
彼が説明してくれたことを日記に書いている今も難しくてよく理解できないのだけれど、それでも彼が私のそんな部分を好きだと言ってくれたことで
私は漸く自分の居場所を見つけられたような気がした。
彼の言っていた悪い魔法が解けたのは私の方だったのかもしれない。


―メモ―
◆トーヤくんと付き合うことになった
◆“Scrapbook -IV-”を入手
◆“Secret memo -VIII-”を入手




→ 鎖は切れました。この日記は未来へと続いていきます










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本日、拙宅は開設6周年となりました!ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
何か6周年という感謝の気持ちと私個人の高揚を形として表わせないかと思い、ゲーム制作を挫折して今後頭の中でも眠る筈であった
この作品をなんとかサイトにあげてやりたいと考え、今回のような形で作品化しました。
本来、ゲームの作品なのでイベントの発生やおまけアイテムの入手、バッドエンド行きなど
パラメータや選択肢によって立つフラグのようなものがあるのですが
今回は文字で表わすだけなのでバッドエンド(この作品における“途切れた日記帳”ルート)以外は常に主人公が最善の行動を取ったという前提で書いています。
作品を読みながら「あ、これがフラグかな」など考えることも楽しみながら読んでいただけたら幸いです^^

さて、キャラごとの感想を申しますと…
トーヤは最初の段階ではかなりのブラコンで攻略不可なキャラでした。
しかし、私が気に入ってしまい、キャラ設定や物語が大幅に変わって今の形になりました。
それでもブラコンはブラコンですけど^^;
なので基本的には贔屓目に書いていますし、トーヤから主人公への好感度は最初から高そうに見えますが、実際は攻略が結構難しいキャラのイメージです。
バッドエンドと冬樹EDを見た後に攻略が可能になるキャラのつもりだったり。
よろしければおまけ要素のmemoなんかも見ていただけたらよりトーヤのことが分かると思います^^

というわけで、内容としては日記形式で文字も少なく状況説明も殆どない作品で物足りない方もいらっしゃったかもしれませんが、
主人公とトーヤの鎖を切ってくださったお客様、ありがとうございました!!!


吉永裕 (2011.11.3)