5月21日(月)
今朝ポストに入っていたコンサートの招待状を握り締めた私は約一年前に海くんと別れた音楽室へ走った。
文化祭の代休で誰もいない校舎を駆け抜け、早朝の音楽室にポーンポーンと響くピアノの音に気付いた私の胸の鼓動は早くなる。
ドアの前で深呼吸してゆっくりとドアを開けると、そこに立っていたのは背の高い青年だった。
右目の下にホクロがある端正な顔は、雑誌や新聞で何度も見てきた長谷川忍。
「さん。約束通り、会いに来たよ」そう言う彼の姿も声も海くんとは違っていたけれど、私は待っていた人物が彼だと確信した。
彼は私を椅子に座らせるとピアノを弾き始めた。かつて何度も聞いた機械的な曲から花が開くような優しい曲、
そして胸が張り裂けそうな悲しい曲へと変わり、最後は機械的な曲の主な部分を情緒豊かな表現に変えた曲の全部で四楽章。
涙を流していた私に彼は題名と内容を教えてくれた。「機械人形の夢想幻想曲」
機械の人形は言われたままに生きることを当然のことだと思っていた。しかしある時、少女と出会い心を知ってからは世界が変わる。
だが少女と別れの時が来て機械人形はただの鉄屑と化そうとしていた。そこに現れた別の少女によって機械人形のネジは巻かれ、再び人形は世界の美しさを知ることとなる――
彼はピアノの蓋を閉め、手書きの楽譜を持ってこちらにやってくると私に楽譜を手渡した。
「あの子への想いは前世に置いてきた。この曲は錆びた僕のネジを巻いてくれた君に捧げる」そう言って彼は優しく笑って見せた。
そして「君は僕の命と魂を救ってくれた。良ければまた君にピアノを聞いてもらいたい。僕の一番近くで」そう言って彼がそっと私の手を握ったので私も握り返して頷いた。
彼は私が彼を救ったと言ってくれたけれど、でも、彼のピアノは私を含む多くの人の心を救うのだ。そんな彼のピアノを傍でずっと聞いていたいと思った。
今日も夢で彼に会えますようにと願っていたあの頃から、いや、初めて彼のピアノを聞いた日から恐らく私は彼に囚われていたのだろう。ピアノの音だけでなく、寂しげなその瞳に。
しかし今はもう彼の瞳は光を放っている。そんな瞳をした彼は一層綺麗だから尚更目が離せなくて。
「海くんと会えるのをずっと待っていたの。でも、もう待たなくていいのね。貴方に出会えたから」そう言って私は彼に「はじめまして」と挨拶をした。
「忍さん、沢山教えてください。これからの貴方のこと」そう言うと彼は綺麗な顔をくしゃくしゃにして私を抱きしめた。
―メモ―
◆5月25日開催の長谷川忍コンサートの招待状が届く
◆忍さんと付き合うことになった
◆忍さんの電話: J-DNEOCIETP-NEODMA
◆“Scrapbook -VII-”を入手
◆“アドレス帳”を入手
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本日、拙宅は開設6周年となりました!ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
何か6周年という感謝の気持ちと私個人の高揚を形として表わせないかと思い、ゲーム制作を挫折して今後頭の中でも眠る筈であった
この作品をなんとかサイトにあげてやりたいと考え、今回のような形で作品化しました。
本来、ゲームの作品なのでイベントの発生やおまけアイテムの入手、バッドエンド行きなど
パラメータや選択肢によって立つフラグのようなものがあるのですが
今回は文字で表わすだけなのでバッドエンド(この作品における“途切れた日記帳”ルート)以外は常に主人公が最善の行動を取ったという前提で書いています。
作品を読みながら「あ、これがフラグかな」など考えることも楽しみながら読んでいただけたら幸いです^^
さて、キャラごとの感想を申しますと…
忍はあまり詳しく書いていないので存在について「???」な方が多いと思いますが、ぶっちゃけて言うと主人公の夢の中や音楽室にいたのは彼の生霊的な存在です。
生霊的…というか、アークバーンのヒロインさんのような魔法の力で作られた存在という方が正しいのですが。
バッドエンドがどうしてもアレなので、生霊的の方がしっくりくるような気がします^^;
その頃は学校の近くの病院に入院していて、昏睡状態の時に魂だけピアノのところに飛んでったような形になります。
ベストエンドの条件を満たした時点で主人公とお別れ=本体が目覚めるという設定です。
日記形式ではここまで描けませんでしたのであとがきでこそこそ補足しておきます。
性格的には神経質で真面目な人。前世は名前変換小説の現代・SS部屋にある『Dream fantasia』という作品の登場人物のつもりです。
生まれ変わってもあまり性格は変わってない感じだったり。
というわけで、内容としては日記形式で文字も少なく状況説明も殆どない作品で物足りない方もいらっしゃったかもしれませんが、
主人公と忍の鎖を切ってくださったお客様、ありがとうございました!!!
吉永裕 (2011.11.3)