5月23日(月)
今日は代休だから家でのんびり過ごしていたのだけれど、夕方、帰って来た美空から光公園へ急いで行くように告げられ、理由も聞く間もなく公園へ走った。
そこにいたのは和泉くんで、「どうかしたの?」って聞いたら私に話があるから待ってたんだって。
いつもは見せないような深刻な表情だったから何か悩み事の相談かしらと思いベンチに腰を下ろしたら、彼はそれまで皆に秘密にしていたという話をしてくれた。
彼は恐らく生まれた時から人を識別する力を持っているんだって。言葉で説明するのは難しいけれど、和泉くんの目には個人特有のオーラ、即ち指紋のようなものが見えるらしく、
一度見た人間というよりも感じたオーラは絶対に忘れないし、どんなに遠く離れた場所にいて顔や姿形がはっきり見えなくても、そのオーラの感覚で誰か分かってしまうとのことだった。
「何かに役立つわけじゃない。ただ一度会った人間を忘れないだけ、遠くからでも変装してても誰か分かるだけの能力なんて何であるんだってずっと劣等感を持ってた」と和泉くんは悲しそうに言った。
子どもの頃にそれとなく友達にこの話をしたけれど、理解してもらえなくて嘘つき呼ばわりされてからは誰にも話していないそうだ。
そんな特殊能力のことがあるから今まで人を本気で好きになれなかったらしい。
これまで何でもできて悩みなんてなさそうだった和泉くんがそんな悩みを抱えていただなんて私は全然知らなかった。
「ずっと苦しかったんだろうね」って言ったら彼は泣きそうな顔で笑った。そして「ありがとう」と言うと私の手をギュッと握る。
そこで私は「あれ?」と思った。「じゃあ、和泉くんは私と美空が時々入れ替わってたのを知ってたの?」と尋ねたら「そうだよ」と言って優しく笑った。
「もしかして休み時間いつも会いに来てたのは私が他の子たちと接しなくてもいいように?」と言うと彼は静かに笑っただけだったが、恐らくそのなのだろう。
嬉しくなった私はありがとうとお礼を言ったら、私の手を握る彼の手の力が少し強くなった。そしたら何だか急にドキドキしてきて何を話せばいいのか分からなくなった私は
ただ目の前の噴水の水が沈んでいく太陽の光を反射して橙色に輝くのを見つめていた。すると、和泉くんが「とこうやってのんびり過ごす時間が好きなんだ」と言った。
疲れた時や落ち込んだ時は私に会いたくなると言っていた。私は人の態度や心の変化に敏感だから何も言わなくてもつらい気持ちを察してくれて受け止めてくれるような気がするんだって。
「買いかぶり過ぎだよ」と言ったのだけれど和泉くんは首を振る。「実際、俺は救われたから」って。
「嘘つきだと言われた時から人間は自分と違う他を拒絶する生き物だと思ってたけど、だけは絶対に味方になってくれるって信じてた」そう言って彼は握っていた私の手に口付けした。
それから「これからは俺がお前を守る存在になりたいんだ。俺が今までお前に救われてたように、今度は俺がお前の心に寄り添いたい」と言った。
その時、漸く私は彼が私を慕ってくれていることを知った。彼があの日キスをしたのは間違いなく私だったのだ。
「私も和泉くんになら話せるかもしれない。両親のこと。でも、私が今、言いたいのは…」そう言って言葉に詰まりながら勇気を出して想いを伝えると、和泉くんは私の頭をそっと撫でてキスをした。
和泉くんが傍にいてくれるなら、もうあの日の夢を見ても怖くない。私を心から必要としてくれる人がいると分かったから。
―メモ―
◆和泉くんと付き合うことになった
◆“Scrapbook -I-”を入手
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本日、拙宅は開設6周年となりました!ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
何か6周年という感謝の気持ちと私個人の高揚を形として表わせないかと思い、ゲーム制作を挫折して今後頭の中でも眠る筈であった
この作品をなんとかサイトにあげてやりたいと考え、今回のような形で作品化しました。
本来、ゲームの作品なのでイベントの発生やおまけアイテムの入手、バッドエンド行きなど
パラメータや選択肢によって立つフラグのようなものがあるのですが
今回は文字で表わすだけなのでバッドエンド(この作品における“途切れた日記帳”ルート)以外は常に主人公が最善の行動を取ったという前提で書いています。
作品を読みながら「あ、これがフラグかな」など考えることも楽しみながら読んでいただけたら幸いです^^
さて、キャラごとの感想を申しますと…
和泉はお兄さん的存在で、美空と一緒に主人公を溺愛し、守っている存在のつもり。でも美空と同様に実は主人公に守られているという設定です。
天才な為に結構飽きるのが早くて将来の夢も特にありません。とりあえず今できることをやっていれば(突発的に何か起こっても能力的にもなんとかなるし)うまくいくだろ、的な
ちょっと人生舐めたところがあります。それでも実はコンプレックスを抱えていて皆には秘密にしている、という作品に描いたそのままの設定だったり。
和泉は人のオーラが見えますが、人柄も何となく察知できます。いい人そうとかなんか不気味とか。
本文中に書いていないのですが、恩田兄弟のことは入れ替わった兄を見た時点で双子だと気づいています。
主人公を気遣ってくれる恩田兄弟のことは有難いと思いつつも、結構嫉妬深いので彼らのことも心配していたり。
かなり嫉妬深いイメージですので、付き合ってからやたらと煩そうです。
というわけで、内容としては日記形式で文字も少なく状況説明も殆どない作品で物足りない方もいらっしゃったかもしれませんが、
主人公と和泉の鎖を切ってくださったお客様、ありがとうございました!!!
吉永裕 (2011.11.3)