5月23日(月)
今日は代休だし、クヴォレーくんのことで落ち込んでいたままだったので家でのんびりしようと思ったら、クヴォレーくんが家に押しかけて来た。
彼の頗る機嫌が悪い顔を見た瞬間の生きた心地のなさは並大抵のものではなかった。ぎくしゃくしながら私の部屋に通して恐る恐るお茶を出し、
彼の口が開くのを待ったけれど、世間は月曜なものだから両親も美空もいない我が家は静まり返っていて息をするのも憚られた。
それでもやはり事の発端は私が彼に入れ替わりを黙っていたことだと思い「入れ替わっていたことを黙っていてごめんなさい」と謝ったら、
「悪気はあったのか?ボクに対する罪悪感は?」と聞かれて「悪気はなかったよ。罪悪感はあったけど」と答えた。
クヴォレーくんと一緒にいる時間が増えるにつれて美空のことを隠していて悪いなという気持ちはどんどん大きくなっていった。
それでも本当のことを話したら私はクヴォレーくんの求める私ではなくなってしまうのではないかと思って怖かった。
「私もそこら辺の女の子たちみたいにクヴォレーくんに軽蔑されるんじゃないかなって。そうなるのが嫌だなって思ったの」と、
上手く説明できるような言葉がなかなか出てこなかったけれど、考えていたことをそのまま彼に伝える。
すると、クヴォレーくんは突然「ボクは我儘な姫なんだ。そしてお前は何でも許す王子……」と言葉を零した。恐らく我儘な姫とは先日劇で演じた役のことだろう。
姫は愛に飢えていることを知られたくない為に自分を偽り我儘を言っては相手の心を試し、王子は自分に自信がなく人に嫌われたくない為に頼みを断れない。
王子の性格や生い立ちがどこか私に似ている気はしていた。しかし、クヴォレーくんも役に自分と通ずるものがあったらしい。
彼は私のことを最初は面白い奴だと思ったと語った。存在を意識したことがなかったくらい大人しくて人畜無害そうな私が、
こっそり一人で悪態をついているなんてもしかしたら別の人格を演じなきゃならない事情でもあるのではないだろうかと思い、親近感を持ったとのこと。
そして私になら本当の自分を見せても支障はないと思ったそう。どうでもいい人間だったし、他の人にバラそうとしたらこちらも脅せるネタを持っていたからだって。
そんな彼は受け入れてもらいたいとかではなく、ただストレスを発散する為の相手が欲しかっただけだったそうだけど、
性格がひん曲がっていたのは最初だけで、後はどんな言葉も我儘も受け止めて笑うから調子が狂っていったらしい。
次第にため息をつきながらも優しく微笑んでくれることが嬉しくなって、この人間には全てを知られてもいいかもしれないと思うようになったとクヴォレーくんは話してくれた。
そんな彼を傷つけた私は謝っても許されることではないけれど「本当に、ごめんね」と心から謝罪したら彼は優しく笑って首を振った。
「最初に会ったのが姉の方だったと知った時、ボクは一瞬悩んだ。ボクが好きだと思ったのは姉だったのか、お前だったのか分からなかった」
その言葉で私は「え?」と思い顔を上げた。そんな私の動揺をよそにクヴォレーくんは話し続ける。
「興味を持ったきっかけのボクらの出会いは確かに姉の方だった。でも、ボクが我儘を言えるのはお前だけなんだ。ボクは我儘を言うことでお前に甘えていたんだよ」
そう言ってこちらを見つめる彼の瞳はキラキラと輝いていて今にも光が零れ落ちそうだった。
「本当のことを言うよ、。ボクは金なんてどうでもいいんだ。ボクが本当に欲しいのは、ボクだけを見つめて愛してくれる人なんだ」
彼の言葉を聞いた次の瞬間、私は無意識に彼を抱きしめていた。クヴォレーくんが子どものように泣き出したから私にはそのくらいしかできなくて。
でも、暫く彼の頭を撫でていたら静かになったので「一人で頑張ろうとしなくてもいいんじゃない?私でよければ傍にいるから」と言ったら「ずっとだぞ」だって。
何だか急に幼くなっちゃったなぁと思いながら笑って頷いたら、またいきなりキスされた……。
もうっクヴォレーくん、自由過ぎだよ!と怒ろうと思ったのだけれど、急に彼は真剣な顔をして私の手を握った。
「貴方は自分には何もないと思っている。ですが、貴方には自分の受けた苦しみを人には味わわせたくないと思う優しい心がある。私は貴方のその優しさに救われた」
「姫…」彼が突然、姫君の台詞を言い出したので私の口からもつい台詞が出た。
「私とずっと一緒にいてください。私には貴方が必要なのです」彼の言葉を聞いた私は台本の通りに心から頷いて、今度は覚悟を決めてキスをした。
劇はその後終幕へ向かうけれど、私とクヴォレーくんはここから始まるんだ。
―メモ―
◆クヴォレーくんと付き合うことになった
◆“Scrapbook -II-”を入手
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本日、拙宅は開設6周年となりました!ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
何か6周年という感謝の気持ちと私個人の高揚を形として表わせないかと思い、ゲーム制作を挫折して今後頭の中でも眠る筈であった
この作品をなんとかサイトにあげてやりたいと考え、今回のような形で作品化しました。
本来、ゲームの作品なのでイベントの発生やおまけアイテムの入手、バッドエンド行きなど
パラメータや選択肢によって立つフラグのようなものがあるのですが
今回は文字で表わすだけなのでバッドエンド(この作品における“途切れた日記帳”ルート)以外は常に主人公が最善の行動を取ったという前提で書いています。
作品を読みながら「あ、これがフラグかな」など考えることも楽しみながら読んでいただけたら幸いです^^
さて、キャラごとの感想を申しますと…
クヴォレーは明らかな二面性の持ち主でとにかく我儘だけれどなんか憎めないキャラ…というイメージで作っています。憎かったらすみません^^;
一応、施設に入っていたので、本人としてはそのつもりはないのに気がつくと年下の面倒などみてしまっていたりする人です。そんな自分に悪態ついたりするんだけれど。
付き合うまでは色々酷いけれど、付き合い始めたら凄く愛してくれる人だと思っています。でも我儘なところは健在でかなり甘えたがりになるかな。
日記形式なので書けませんでしたが、付き合い始めた後、クヴォレーは主人公に「大学で経営学を学べ」みたいなことを言ったりします。
でも主人公さんは「私はそういうのに向いてないから私もお菓子か料理を作る資格を取って、オーナーは頭の切れる美空にやってもらおう」みたいなことを提案します。
その後、クヴォレーは修行でジッカラートを離れ、主人公はジッカラートで料理の勉強をすることになり遠距離になるのですが、
クヴォレー帰国後も一人前になるまで一緒に仕事はしないのですけれども、最終的には昔主人公が提案した案が通って
オーナーが美空でシェフが主人公、パティシエがクヴォレーみたいな感じであったかいカントリー調のレストラン経営をするっていうどうでもいい脳内設定があったりします。
というわけで、内容としては日記形式で文字も少なく状況説明も殆どない作品で物足りない方もいらっしゃったかもしれませんが、
主人公とクヴォレーの鎖を切ってくださったお客様、ありがとうございました!!!
吉永裕 (2011.11.3)