５月９日（月）

　前に見たピアノの夢を見る。あの時と同じく完璧すぎて機械的に思える演奏。
今回もピアノに近付いたところで目が覚めた。
ピアノを弾いているのは一体誰なのだろう。私の知っている人なのだろうか。
それとも私が勝手に作り上げた誰かなのだろうか。

さて、今朝から本格的に劇の練習が始まった。台詞は一応暗記したけれど、動きをつけながら話すのはなかなか難しい。
そもそも大きな声を出さなければならないのが私の一番の課題だったり。
クヴォレーくんは何気に女役がはまっている。元々アイドルを演じているからか演技をすることは得意のようで、
女性の言葉遣いなど特に問題なくこなしているので理由はともかく感心してしまう。
冬樹くんはシナリオを書いたのでもうすることがないのか、朝練には参加していなかった。
それでも毎朝早くに教室に来ているので予習でもしているのかと思って少し様子を窺ってみたら
一見、目を閉じて座っているだけで眠っている様子だけれど、耳栓をしているのが見えた為、恐らくМガムを噛んでいるらしかった。
時々、顎の筋肉が動いているし、耳栓をしているのが普通のガムとは違うところだから。
ここ一年くらいの間にМガムは大流行して販売当初に比べるとずっと安くなったものの、
それでも６枚入りで５００リーンだから消耗品にしては高い方だと思う私にはなかなか手が出せなかったけれど、
“魔法の力で音楽が練り込こまれ噛むと身体の臓器や骨に音を響かせて身体の中から音が聴こえるガム”というМガムは気になってはいるのだ。
今度、冬樹くんに感想を聞いてみようかな？


―メモ―
◎帰宅後の行動：音楽鑑賞

５月１０日（火）

　劇の練習は順調に進んでいる、と思う。衣装の手配や小道具大道具の係のクラスメイト達は休み時間を利用して準備を進めているようだ。
劇に出演する方はその点は楽なのかなと思ったが、本番失敗すれば皆の努力を無駄にすることになるのだと思い知り、憂鬱な気持ちに逆戻る。
練習という名目でクヴォレーくんから昼食に誘われることが多くなったが、愚痴を聞いたり演技のダメ出しをされるので正直楽しくはない。
それでも彼が素を出せるのは私の前だけなのだから仕方がないのかなとも思う。彼は彼で、もしかするとアイドルを演じることにストレスを感じているのかもしれない。
だとしたら少しくらいの我儘は許してあげてもいいかと思ってしまう。美空にそう話したら理解できないような顔をされて「甘やかすな」と言われた。
うーん、やっぱり愚痴を聞かされ続けるのは嫌だと言うべきなのかな？


―メモ―
◎帰宅後の行動：音楽鑑賞
◆ピアノの夢を見る

５月１１日（水）

　クヴォレーくんにお昼を誘われたので玄関に向かっていたところ、下級生の女子たちとぶつかり玄関の土間で思いきり転ぶ。
後から来ていたクヴォレーくんは「ワザとだ」と言って今にも彼女たちを捕まえて文句を言いそうな位に怒っていたのでなんとか宥めた。
実際、バランスを崩して転んだのは私がとろいせいだもの……。
それにクヴォレーくんの熱狂的なファンにしてみたら毎日のように一緒に昼食を取っている私を面白くなく思っても仕方がないかもしれない。
私としては精神の修行の時間みたいなものなのだけれど。
そんなことを考えていたらクヴォレーくんに抱えられて保健室に連れて行かれた。
華奢なのに意外と力持ちだななんて感心もしたのだけれど、周りの視線が痛かったし、彼の綺麗な顔のアップを正視できなくてずっと俯いていた。かなり恥ずかしかったなぁ。
その後、先生に処置してもらってから中庭に行ったものの、お弁当はひっくり返ってぐちゃぐちゃだし、擦り剥いた膝と掌はヒリヒリ痛むしで、
今日は特別自信があったお弁当だったのに色々残念だなぁと思っていたら、クヴォレーくんがおかずを交換してくれた。
マッシュしたかぼちゃのサラダにサツマイモが入っていて凄く美味しかった！
私が感動して美味しい美味しいと連呼したからか、彼も気分が良かったようでマヨネーズに少し生クリームを入れるのだと隠し味まで教えてくれた。
その話でお弁当は彼の手作りらしいことが分かる。
「料理が得意なんだね」と私が言うとお菓子作りも得意だと話すので食べてみたいと言ったら、なんと作ってくれると約束してくれたけれど、
“材料費”という名目で５０リーン取られた……。クヴォレーくん、がめつい。がめついよ！

夜にクヴォレーくんから電話がかかってきた。
どうやら本当にお菓子を作ってくれるらしく、今度の日曜日はお菓子の型や材料を見に雑貨屋に付き合うように言われた。
なんだかここのところ完全に彼のペースに巻き込まれているのだけれど……雑貨屋を見て回るのは好きだからまぁいいか。
それに何だかんだで私のことを心配してくれているらしい。「もしまた女子に何かされたらボクに言え」だって。
もし言ったら相手の女子に何する気なんだろう？クヴォレーくんは素で怒ったら相当怖そうだから、何かあっても言わない方が良さそうだな。


―メモ―
▼“移動雑貨屋”に行く
　

◎支出：９５０リーン（お菓子作りの本とクヴォレーくんへのクッキー代）
◎残高：３５０リーン
◎気になるアイテム：クッキー（２００リーン）







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