――もうね、会った瞬間からビビっときたんですよ。
色白美人だったし、目を大きく開いて研究所をキョロキョロ見回してた姿が可愛かったっていうのもあるんですけど。
彼女は普通の人間でいて、特別な人だったんです。
皆にとっても、私にとっても、ね。
私の父はアーク人、母はバーン人でして、今は一つの国になってそりゃあ平和ですけど、
当時はピリピリとした均衡状態が何年も続いていましたからね、研究所に引き抜かれる前までは苛めの連続ですよ。
それでも生まれた場所がバーン国だったっていうのは幸いでした。
バーン国は人種の入り混じる国。
違う大陸から来たというサウスランド人も、もう何世代も暮らしているような国ですから。
色んな人種の混血がいても、そんなに珍しくもないんです。
寧ろ、純粋なバーン人の方が珍しいくらい。
でも今となっては、人々は王族と同じバーン人の血を誇りに思う反面、バーンの血を捨てたがっていたのではないかとも思えるんです。
昔、奴隷だった闇の属性を持つバーン人の血を。
だからこんなにも異人種間の婚姻・交配が多いのではないかと思うのです。
それでも、敵国のアーク人との混血は当時としてはまだ珍しく、
褐色の肌や黄みがかった肌の子どもたちの中に、赤みがかった肌の私がいると酷く目立ったものでした。
しかし私は苛めなんかに屈服はせず、ずば抜けた医療知識と技術を買われてアーク人だというのにもかかわらず城の医療兵長に抜擢された父のようになるべく、
日々、積極的に勉学に励み、自分で試行錯誤して仮説を立てては実験と研究を重ねてきたつもりです。
そしたらある日、国立研究所に引き抜かれたんですよ。私の魔動機器についての論文に目を通して貰えたみたいで。
それからは大人の中で過ごす日々です。
毎日、自分の好きな研究の仕事をするのは楽しかったですよ。 ――あ、でも、今だから言いますけど兵器に関することは嫌だったかな。
あとは周りが皆、大人だったからどうにも私には経験や知識が足りていなくて。
足手纏いになるのは嫌だったので、そりゃもう、研究の合間をみて我武者羅に勉強しましたよ。
……そんなことをしていたら、いつの間にか私が一番何でもできるようになって殆どの部門を任されるようになってしまったんですけど。
そのせいで、ずっと彼女も作らずに家と研究所を往復の毎日だったんですよ。酷い話です。
そんな時、突然現れたのが後に救世主と呼ばれる女性です。
初めて会った時は綺麗な人だなぁと思ったんですけど、話してみると実に可愛い人でしてね。
記憶もないし、倒れている間に敵国に連れて来られちゃうし、体は透き通るし時々痛みがあるしと、色んな問題を抱えているにもかかわらず、
その人はいつも前向きで元気にあちこち飛び回って、花のように可愛く笑うんですよ。
そして「頑張ろう」と自分に言うんです。もう充分頑張ってると思うんですけどね。
更にはとても優しくて思いやりに溢れた女神のような人なんです。
敵国の私たちを大切に想ってくれて、好きだと言ってくれるような人。
勿論、バーン国でも大人気ですよ。
彼女が来てからというもの、重々しい城の雰囲気が一気に明るく爽やかになった気がしましたもん。
カルトス様も笑顔が増えましたし、まぁエドワードさんは研究所にいた頃から捻くれ者だから眉間に皺率が増えてましたけど喧嘩するほど仲が良いって言うし、
レノンさんも態度にはそんなに表わさないものの彼女を前にすると何気に口角が上がってましたしね。
私だって、彼女と出会ってからは何だか毎日が楽しくなったりして。
ほら、私って今まで優等生エリート街道をまっしぐらだったわけですから、苛められていたことはありましたけど、それ以降はちやほやされてきたわけです。
勿論、男のしかも殆どオッサンばかりにですけども。
そんな私を普通の同年代の男として接してくれたのは彼女だけだったなぁと思うんです。
そりゃあ、出会いの絶対数が確実に少ないのは理解していますけど。
それでも、仕事以外で損得勘定なしに私を人として慕ってくれたのは当時は彼女だけだった気がします。
今では彼女のおかげで沢山の仲間もできましたからね。これでもかというくらいに感謝していますよ。
彼女は本当に救世主だなって思います。
この大陸を救ったという意味だけでなく、私や他の人々の心に眩しい希望の光を注いでくれた人として。
彼女はもしかしたら神に選ばれた人なのかもしれません。
――あぁ、きっとそうだ。
彼女は希望と躍動を人々に与える為にこの世界に呼ばれたに違いない。
いつか、彼女のことを記録に残そうと思うんです。
多分1冊に纏まるとは思うんですけど。
でも、もしかしたらその本、遠い未来では神話になっているかもしれませんね。
そして彼女は救世主から神と呼ばれるようになるんだろうなぁ。
(AHD3506年にアークバーン国で亡くなった英雄の手記より)
…ホワイトデーなのに、恋愛関係なしな話ですみません^^;
今回はヤンの話です。が、別にヤンルートというわけではありません。
でもバーン国ルート目線で書いております。
何気に最後にヒントらしきことを書いていますが、ヒロインの裏設定をちょっとお披露目します。
ヒロインは後の神候補で、その為にこの世界に呼ばれたのでした。
神候補は特殊な能力を持つなどの先天的な条件と、過酷な状況におかれるなどの後天的な条件によって
基本的に波乱万丈な人生になります。
そんな自分の運命に屈することなく未来を良い方向に切り開き、天寿を全うしたら、次は神として生まれ変わります。
しかし、逆に普通の人として生まれ、普通に生きてきた人間が候補に選ばれることもあります。
それは特殊能力ではなく、ずば抜けた才能を持っている場合です。
アークバーンのヒロインはこのタイプ。彼女の才能は“図太い程の前向きさ”です。
その才能が大陸を救う程の影響力を持った時点で彼女は候補の試練を乗り越えました。
候補というだけあって、他にも候補はおります。
『destin』のサルサラも実は神候補でした。でも彼は邪神へと堕ちたのでその時点で候補ではなくなっています。
更に言うと、サルサラHルートでのヒロイン(巫女)はサルサラを救おうとした時点で神候補になります。
そして彼を愛で救った為、後に神になりますが、これは一つの可能性の話です。
他にも私の頭の中には神候補はいるのですが、まだ小説に書いておりません^^;
『missing』が終わったら書く予定ですが、神候補とかそういう単語は書かないつもりです。
…というわけで、あとがきの方が熱が入ってしまいましたが(苦笑)
ホワイトデーというのにもかかわらず、こんな内容の話を読んでくださったお客様、ありがとうございました!!!
どうぞ皆様は素敵なホワイトデーをお過ごしください^^
吉永裕 (2009.3.14)
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