+新婚さんのとある一日+

〜レノン編〜



 「はい、では失礼します〜」

アークバーン大陸にヤンが開発した電話、という文明の利器が登場してから
新しいもの好きで、心配性のレノンさんの母親・つまりは義母は1週間に一度は連絡をくれる。
まぁ、いつも向こうの世間話とかレノンさんの昔話とかなのだが、
恐らく私がこちらにあまり知り合いがいないのを気遣ってくれているのだと思う。
そんな私にズシンと響く言葉が今日、彼女の口から飛び出した。

「まだまだ結婚して間もないけど、でも早く子どもの顔が見たいわぁ。
 ノンちゃんとちゃんの子どもだから絶対美人さんが生まれるわね」

可愛らしい高い声で(実際見た目も無茶苦茶綺麗で若いんだ、さすがレノンさんのお母さん)
義母さんは楽しそうに子どもが生まれてからの事を想像している。
はぁ、頑張ります。(というのも恥ずかしかったけど)と言ってはみたものの…実際、それが一番難しい事で。
だってレノンさん……

――結婚して2週間経つけど、ぜんっぜんキスすらしてくれないんだもん!



 さすがにレノンの協力なしには子どもは作れないしなぁ…とため息をつきながら夕食の準備をする。
キスも何も…というよりも、一番の原因は恐らく寝室が別なのだ。
事件などが起こったら朝早かったり夜遅かったりする為、私を起こしては申し訳ないと
彼が気を遣って寝室を別にする事になってしまったのである。
さすがにそんな事はご両親には言えない。
新婚早々、寝室が別だなんて…!

…レノンさん、私に興味がないのかなぁ。

ふと包丁を持つ手を止めて思ってしまう。
だって前回のアレは私が消えてしまう勢いに任せて抱いてもらったようなものだし。
そんな事を考えていると途端に恥ずかしくなった。

「何、変な事ばっかり考えてんのよ!」

ブンブン、と頭を振りながら料理を再開する。

「でもレノンさんってそれらしい兆候が全然わからないんだよねぇ」

キスとか…したい時とかないのかな?
ぽわわん、と夫の日常を思い出してみる。
彼が普段家でしている事は…

1.帰宅
2.食事
3.鉢植えの手入れ
4.風呂
5.読書
6.就寝

…こんな感じだ。
とりあえず、鉢植えの手入れと読書してる時は私が傍にいて話をしたりもするけど…、
私がいつもソファからレノンさんを見つめてる方が多い気がする。

それでも愛されていないわけではない。
朝、仕事に行く時とか、休日とか、ほんの些細な仕草や彼の表情で愛されてるなぁと感じるのだ。
だから別に不満があるわけではない。
まぁ、恐らく彼はそういう事をしなくても、愛情を感じられるし、与えられると思っている人なのだろう。
私も彼が傍にいて穏やかな表情をしているだけで幸せな気持ちになれるから、ないならなくてもいいのだけれど。

「…でも、子どもはなぁ…」

一緒にいるだけでは子どもはできない。

――まぁ、まだまだ2人でのんびりしたいけど、いつかは…欲しいなぁ、赤ちゃん。

そう思いながらそっと自分のお腹を触ってみた。
レノンと自分の子ども。
彼に似た子どもだったら物凄く美形になるに違いない。そして父親の背中を見て気高く優しい人に育つだろう。
男の子だったらガールフレンドにヤキモチ焼いちゃうかも、とずっと先の事を想像してふふふ、と笑う。

するとチャイムが鳴った。
愛しい夫が帰ってきたようだ。小走りで玄関へと向かう。
この瞬間が好きだ。
ドアを開けて上を見上げると首を少し傾けて「、ただいま」と言う夫がいる。

――それだけで、私は幸せ。

「お帰りなさい」

そう言って抱きついた。

「…どうした?何かあったか?」

普段はそのような事はしないのでレノンは心配そうに妻の顔を覗き込む。

「私、今すっごく幸せだなぁと思って」

嬉しそうにそう言うと彼はふっと笑った。
そうして辺りをキョロキョロと見回すと、玄関の中へ入り、ドアを閉めてすぐにそっとキスをする。
外から帰ってきたばかりのレノンの唇は、冬の外気に触れて冷たかった。
その冷たさと彼の突然の行動に思わず驚く。
それでも何だか嬉しくて頬が熱くなるのを感じながら夫の顔を見上げて微笑んだ。
彼の頬も赤くなっていた。恐らくそれは冷気のせいではなくて……私と同じ理由だろう。

「ね、レノンさん。今日、一緒に寝てもいい?」
「? ……」

レノンは何故私がそんな事を言い出したのかわからず考える。
しかし顔を上げると、納得したように

「――そうか、今日は寒いからな。そうしよう」

と言った。

…そっか、レノンさんは鈍感だった。

苦笑しながらもうん、と頷く。
今日は遠慮せずに甘えてみよう。
触れたい時に触れて、話したい時に話しかけてみよう。
彼ならきっと穏やかな顔で振り向いてくれると思うから。



――義母さん。
キスで照れてしまう私たちなので、まだまだ赤ちゃんは先になりそうです。
それでも、私たちは(特に私は)幸せいっぱいで毎日満たされています。







久しぶりの『アークバーンの伝説』の更新はレノンです。

全然レノン出てきてなくてすみません^^;
しかも何気に展開を期待させる内容で…。
でもそこは天然のレノンさん。
薄っぺらい内容で申し訳ありませんでしたぁ〜m(_ _)m

本当はこの続きも考えているのですが…それは拍手お礼用にでもしようと思います。
この後に繋げると、長くなってしまうので^^;


ちなみに、レノンのお母さんはレノンの事を「ノンちゃん」と呼んでます^^;
何故に省略!? …と自分でも思いますが、そんなイメージなので。


…というわけで、少しでも皆様がレノンさんとの新婚生活をイメージできたらよいのですが^^。


それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!



吉永裕(2006.8.21)

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