※『アークバーンの伝説』のヒロインが皆と満遍なく仲良くて皆とお友達のままだったENDというIF設定です。
※攻略キャラでないキャラ(ランの兄のタクト)×ヒロインです。
アークバーン異聞録 −タクト編−
この国には救世主と呼ばれる存在がいる。
予測されていた災害の日が近づくにつれ不安を募らせていった民衆らの心の支えとなり、
また長年対立状態であったアーク国とバーン国が平和的協定を締結して一つの国となったきっかけを作った人物だ。
正式に救世主という発言があったという記録はないが、元アーク国レジェンス王子と元バーン国カルトス王が民衆に対し
今後の国の行方と方針について提唱した中で後に救世主と呼ばれる人物の描写があった。
その時の「彼女の遺した言葉と存在そのものがいずれこの大陸を救うことになるだろう」という彼らの言葉が人々の間で次第に救世主という形を成していったのだろう。
後に像が作られ、また救世主に関する佳話が広まるにつれ、人々は救世主をより身近な存在に感じるようになる。
戦争放棄し国を統一する旨と一年後に未曾有の災害が訪れるという発表をした後、当たり前だが両国内は混乱を極めた。
しかしながらアークとバーン両国の元王と元王子らによる重鎮らが参加するという武闘大会等の各種イベントによる両国間の友好度上昇、
何より何百年も続いた対立が一気に解消されたことの深刻さが彼らの“想う力が魔力となる”という主張を民衆らに信用させるに至り、
バーン国で開発されていた魔力増幅装置という魔動機器の力も借りて災害を回避することができた。
一年前まで敵対していた人々が手を繋いで皆の為に祈り、大陸全土が虹のような壁で覆われて大波すらも物ともせず
全てをやり過ごせたのを目の当たりにした時、恐らくそれを見た全員が人々の中から両国間の柵が完全に取り払われたことを実感したことだろう。
皆の心を一つにし大陸を守る為に尽力した両国を代表する宝玉の守護者である8人は英雄として称えられ、真の救世主となった一人の女性に皆が感謝した。
その後、救世主が宝玉の力でこの世に再び生を受けたニュースは大陸中を駆け抜ける。
そんな彼女は希望を与えた者として一層神聖化されていった。
僕も彼女を神聖化していた者の一人だった。
しかし、実際に彼女と接したことがあり今や英雄の一人となっている弟から話を聞いていたので
世間の伝聞と弟の話にずれがあるとは思ってはいたけれど、どちらにも共通するのは優しく明るい女性ということだ。
僕は次第に彼女に親しみを持つようになる。
「へぇ…。ここがランくん一家が住む家か」
この世界に戻ってきた彼女は英雄たちのその後を見て回っていたらしい。
また、英雄たちしか頼る者がいない為、どこに居住するか考えているようだった。
その日は彼女は弟の暮らすこの街にやって来る日で、そして、僕は初めて彼女に会う。
「わ、例の彼女!?」
「マジで!?」
「「可愛いっ!!」」
「!?」
僕と兄は興奮気味で彼女を出迎えた。
弟が作ったという救世主像と瓜二つの女性は慌ただしい僕らに驚いて目を丸くしていたが人懐っこい笑顔を浮かべて挨拶をした。
遠目から見ても綺麗な人だと思ったが、興味津々に街を見て回ったりする様子や笑顔を見て可愛い人だと思った。
それは神聖化されていてずっと遠くにいた彼女が僕のすぐ目の前に降り立った瞬間だった。
その後、彼女はこの街に住むことになった。偶々うちの近くに空き家があったのだ。
元アーク国の城下町でもあるこの街は活気があるし治安も良い方である。
それにランだけでなく元王子のレジェンス様も住まれていて彼ら以外に知り合いのいない彼女も心強いだろうという理由だった。
最初は仰々しく敬われていたが、気さくで分け隔てなく皆に優しい彼女は次第に救世主としてではなく
同じ街に暮らすただの一人の女性として人々の中に溶け込んでいった。
実際に接する彼女は明るくて好奇心が旺盛で、でも時々子どものようにムキになって相手と張り合ったりもする強情なところもある。
それが逆に彼女の魅力でもあった。
僕ら一家とホーリー家は特に彼女と親しく付き合っている。
レジェンス様や弟が彼女に好意を抱いているのは僕や兄も気づいているし、僕や兄が好意を抱いていることは向こうも気づいているだろう。
気づいていないのは彼女だけだ。ただ、どの程度の好意なのかは分からない。
友人程度なのか、恋愛対象としての好意なのか。
――僕は彼女に惹かれている。彼女に女性としての魅力を感じている。
親しげに話す弟に嫉妬する程度には。
「…ランがこの街から離れて寂しいんじゃない?」
「うん、そうだね。でも、マジェスまで遊びに行く理由ができたし、
それにランくんが自分のお店を持てたってことが純粋に嬉しいよ」
目の前の彼女は嬉しそうに微笑んで見せた。
彼女の人のことを自分のことのように喜べるところは美点と思う。
それと同時に彼女に探りを入れようとした自分の浅ましさに自己嫌悪した。
「――てっきり君はランと一緒にマジェスへ行くかと思ったよ」
「どうして?」
「ランがこれを機に結婚を申し込むんじゃないかと思ったんだ」
「あら、それでどうして私がついて行くと思ったの?」
「君はランと仲が良いからさ」
「タクトは私と誰かをくっつけたいのね。前はレジェンスのことを言っていたでしょ。
今度はランくん?」
膨れっ面の彼女がこちらを向く。
僕の嫉妬による回りくどい詮索により彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。
「…タクト、私のこと嫌いなの?」
「いや…。ごめん」
そう言うと彼女は一瞬表情を凍らせる。
僕はもう一度、「ごめん」と謝った。
「僕は臆病だった。昔から何でもすぐ諦める癖があるんだ。
でも、今日で終わりにする」
僕は彼女の手から商品をそっと取り上げた。
商品を見栄え良く陳列していた彼女はきょとんと僕の顔を見上げていたけれど、僕が手を握ると頬を薔薇色に染める。
「君が好きだよ。出会った時からずっと君に惹かれてる。
僕は英雄でもなければ自分の店も持っていないただの経理やってる男だけど、
君のことだけは諦めるつもりはない」
その瞬間、店の扉が開き「カランカラン」とドアベルが音を鳴らした。
それはまるで僕らの恋の始まりを祝福するかのようだった。
WEB拍手お礼画面に置いていたSSですが、気に入っていたので早めにこちらに持ってきました。
ふと思い立ってIF話を書いてしまいました。
タクトの神経質で内向的な性格を表したくて長めのSSとなりました。
個人的に気になっていたイエーガ兄弟の話が書けて自己満足です。
長々とした話を読んでくださいましたお客様、ありがとうございました!!
裕(2014.2.22)
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