アークバーンの伝説 -if story-
〜エドワード編 第7話と第8話の間〜
*注意)第7話まで読んでいないと内容が分かりません。
紫玉を手に入れた後、行きと同じ宿に泊まることにしたバーン国一行は、夕食を済ませて各自部屋に戻る。
は紫玉を回収に行ったメンバーが戻ってくるまでずっと眠っていて、その間、エドワードが自分の体を支えて背中をさすってくれたのに
皆が戻ってきた後は紫玉のことで盛り上がってしまって、彼にきちんと礼を言っていなかったことが胸に引っ掛かっていた。
いつも嫌味で意地悪で怒ってばかりだが、何だかんだいって優しくしてくれるエドワード。
彼を前にすると強がってばかりで素直になれない自分が情けないし、そんな煩い女なんて彼は嫌だろうと思うと苦しくなるのに、
どうして自分の口は勝手に思ってもいないようなことを言ってしまうのだろう。
平常心でいられなくなるくらいに、自分はエドワードに惹かれているのだ――は確実に芽生え始めた自分の気持ちに気づきながらも
深く考えないように心に蓋をした。
バーン国宰相である彼が、敵国からやってきた正体不明の女を好きになるなんて絶対にないと思ったし、
城で色んな人たちの手伝いをしながら耳にしたのはエドワードの話ばかりだったので、彼が非常に人気のある人だと知っているから
子どものような自分は相手にされはしない、寧ろ「迷惑だ」と切り捨てられてしまう気がしたのだ。
それでも図書室での出来事を思い出すとほんの少しだけ希望の光があるのではないかと思ってしまう。
彼が身を挺して庇ってくれたこと、至近距離の唇、「お前が無事ならそれでいい」という言葉――彼は一体どんな気持ちで自分と接しているのか。
そんなことが気になりながらも、ひとまず謝りに行かねばとは気持ちを切り替えてエドワードの部屋に行くことにした。
二回ノックすると彼が扉を開けた。
こちらの顔を見ると無表情で「どうした」と問いかける。
は努めて冷静に昼間の礼を言った。
いつもは強がったり嫌味を言ったりしてしまうが、恐らくそれが彼といつも喧嘩してしまう原因だと分かっているし、
こういう大切なことはちゃんとしなければ、と自分に言い聞かせる。
「あの…昼間は…気遣ってくれてありがとう…」
「……礼を言われる筋合いはない。私はお前を守れと王に命を受けた。それだけだ」
プイっと顔を背けながらそんなことを言うエドワードに、の胸は砕け散ったかのようなショックを受ける。
彼が自分の傍にいてくれたのは、気遣ってくれたのは“仕事”だったから――彼の言葉が頭の中で何度も冷たく響いていた。
は溢れ出しそうな感情を抑えようと唇を噛むが、拳は震えている。
「……そう…。足手纏いの上に更に迷惑掛けて悪かったわね」
涙を堪えて俯きながら言葉をこぼすと、はエドワードの顔も見ずに彼の部屋から飛び出した。
そのまま走って自分の部屋に入り、扉をバタンと大きな音を立てて閉めた後、扉にもたれるようにしてずるずると崩れ落ちる。
人形のように生気が失われ、放心状態になったの目からは涙が幾筋も流れ落ちていた。
気づきたくなんてなかったのに、こんな形ではっきりと自覚してしまった。
彼への想いはもう戻れないところまできていたのだ。
抑えても抑えきれないところまで――
『コンコン』
突如、控え目に扉がノックされた。
慌てては立ち上がり、顔を濡らしていた涙を拭う。
「…はい。何の御用ですか?」
この顔では出られないと思ったは扉を開かず用件を尋ねるが、扉の向こうはシーンと静まり返っている。
反応がないので自分の聞き違いかと思い、確認する為に扉を少し開くと、隙間から手が見えた途端に扉は大きく開かれた。
「…早く開けろ」
「…っ…何よ…何か用?」
扉を強引に開けて部屋の中に入ってきたのはエドワード。
は思わず背中を向ける。
すると彼はゆっくりと近づいてきての前に回り込み、彼女の頬に残っている涙の跡に触れた。
「部屋を出る時、お前は泣きそうな顔をしていた。目の前で泣いている女の涙を拭うのは紳士として当たり前の行為だ」
表情を変えず口を開いた彼に思わずは怒りを覚える。
「…っなんで…さっきから……そんな義務みたいな言い方するのよっ」
彼の手を払いのけた彼女の目には再び涙が溢れ出した。
それを隠すようには顔を覆い、嗚咽を堪えながら肩を震わせる。
その彼女の様子を見たエドワードは不機嫌そうな表情で腕組みをした。
「義務だと? 私が紳士であろうとするのはお前の前だけだ。義務ではない」
彼の言っている意味が理解できないは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
「…どういうこと? …私、今は頭がごちゃごちゃで意味分かんない…」
「お前は…共感する能力が優れていると思ったが……私の考えていることは分からないのだな」
ふぅ、と呆れるようにエドワードは呟く。
「だから…っ今の私はいつも以上に頭が働かないって言ってるでしょ!? もっと分かるように――っ」
彼の良く分からない話にますます苛立ちを募らせては叫ぶが、エドワードはそんな彼女の腰に手を回してグッと抱き寄せ唇を覆った。
「――ふっ…んん……っ!」
唇の間から彼の舌が割って入り、こちらの舌を絡めとっていく。
突然のことで混乱しているのと彼の熱を直に感じている恥ずかしさで次第にの腰は砕けていき、完全に体を彼に預けた。
「――っぁ…はっ…はぁ……っな…何…すんのよっ」
漸く唇を解放されたは肩で息をしながらエドワードから離れようとするが、足腰に力が入らず彼を突き飛ばした途端にペタリと地面に座り込む。
「私の言葉の意味が分からないから分かるようにしろとお前が言っただろう」
「余計に分かんない! 何なのよ、もうっ! もしかして他の女の人にもこんなこと――」
よく分からない状況に困惑して叫んだをエドワードは簡単に抱えて立ち上がった。
至近距離にある彼の眉間には深い皺が刻まれている。
「…お前だけだ、あんなことをするのは」
「え?」
「――お前がレジェンスの名を呼んだ時、もやもやとした感情と苛立ちに私は襲われた。
恋だの愛だの自分には不要な物なのに、お前の声や眼差しひとつで私の心は揺れ、思ってもいないようなおかしなことを口走ってしまう」
その言葉では漸く彼の言わんとすることが分かった気がした。
「…エドワード………もしかして…私のこと……好き?」
「認めたくはないが、そのようだな。――お前はここまで言わないと分からないのか? 馬鹿者」
そう言うものの言葉とは反対に彼はふっと優しく微笑んで彼女の頬にキスをする。
は驚きのあまり声を失って呆然とエドワードを見つめた。
海の底に叩き落とされた後に天の上まで引き上げられたかのようなこの気持ちの抑揚に、自分自身、まだ感覚や思考がついていっていない。
「何を呆けている」
エドワードは未だに下半身に力が入らない彼女をベッドへと連れて行き、そっと下ろす。
何だか急に夢のように思えては彼の服をギュッと掴んだ。
「え…いや…その……。 ――ホントに…好き…なんだよ…ね?」
不安そうに尋ねる。
どうしてもまだ実感が湧かないのである。
「しつこいな。好きだと言っている。そこまで言うのならお前はどうなんだ」
「え…そ、それは…その………わ、私もエドワードのこと…好き……かも」
「“かも”とはなんだ。お前は私にあれだけ言わせておいて、自分は曖昧に誤魔化すつもりか?
――聞かせろ」
意地悪そうに笑った彼は、をゆっくり押し倒すと撫でるように頬に触れた。
出会ってからこれまで高圧的な雰囲気を醸し出していたエドワードだが、今の彼の瞳はとても優しい。
は肩の力を抜く。
「――好き…」
先程流したのとは違う温かい涙がじわじわと目の前の彼の姿を滲ませたが、彼の長くて細いセクシーな指が優しく拭ってくれた。
「………もう一度――」
耳元で囁く声をくすぐったく思いながら、は微笑んで彼の手に自分の手を重ねる。
「…好き……エドワード」
その言葉の余韻を楽しむようにエドワードは彼女の顔の輪郭をゆっくりと撫で、今度は短くて優しい口づけをした。
クリスマス更新なのに全然関係ない話ですみません。
何だかムラムラとエドを書きたくなってしまったのでした^^;
今回はもしもシリーズです。シリーズと言っても他の連中はありませんけど(;´▽`A``
と、とにかく、エドワードとはこういう流れもあり得るのではと思って書いてみました。
でもこの場合は…第8話と第9話が盛り上がらないかー。
それでも「早くエドとくっつきたい!」と思ってくださった方がいらっしゃったのなら、
今更ですがこれでご要望にお応えできたと…。
えっと続きは…皆様でご想像していただけたらと^^;
今年度はもう裏な話は一切書かないことにしておりますので。
まぁ、こんな昔の作品を今でも覚えてくださる方、もしくは最近読んだ方はいらっしゃらない気もしますが。
私の中ではとても大切な作品なのでこれからもこんな形で更新できたらなぁと思います。
それでは、読んでくださったお客様、ありがとうございました!!!
吉永裕 (2008.12.24)
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