アークバーンの伝説 〜Story afterwards〜


+結婚記念日・ククル編+




明日はとククルが結婚した記念日。
はここ数日ずっと機嫌がいい。
しかしそんな彼女に、遅く帰宅したククルがひと言。

「俺、明日からレジェンス様のボディーガードで3日間、サウスランドに行くから」
「えぇ!? 聞いてない!」
「あぁ、今日決まったみたいなんだよな」

ケロッとククルはそう言うと着替えに行く。

…折角の記念日なのに…。

は文句やら泣き言やら色々言いたかったが、ふぅと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
仕事なんだから仕方ないじゃないか。
命をかけて国の重鎮を守る仕事をしている彼に、結婚記念日だからといってその仕事について文句を言ってはいけないのだ。

それでも…。
「寂しい」というくらいは許して欲しい。そう思っては寝室のククルのもとへ行く。
しかしシャツを着ている大きな背中を見て彼女は立ち止まった。

ククルが生きているだけで、私は幸せじゃないか。

そう思った。
かつて彼の前から突然消えてしまった自分。残されたその時の彼の気持ちが今、ようやく分かった。
苦しくて切なくてやるせなくて。自分がとてもちっぽけで孤独な存在に思える。

またここに帰ってくるなら、結婚記念日なんて一緒に祝わなくてもいい。

は静かに微笑んでクローゼットから大きな鞄を取り出す。

「急いで荷物の準備しなきゃね」

そう言って夫の下着や洋服を鞄に詰めていると、後ろからそっと彼に抱き締められた。

「寂しいか?」
「…別に?だってまた帰ってくるじゃない」

強がりながらはククルの鍛えられた腕に触れる。
すると彼は彼女の髪に顔を埋めてギュッと抱く手に力を込めた。

「俺は寂しいけどな」
「――っ…」

彼の静かな声に涙が零れた。
こんなにも同じ気持ちでいる事が嬉しいなんて。

「…さみし…ぃ」

ポツリとは思いを漏らす。

「ククルが傍にいるだけで幸せなのに、でも私は…っ…欲張りだから…だから…記念日は傍にいて欲しかったの…」


俺もそうだよ、と言ってククルはの頬に自分の頬をすり寄せた。
そして彼女の足を抱えると自分と目線のあう高さまで持ち上げる。
子どものように抱き上げられたは、ククルの頭を包み込むように抱き締めた。

「欲張りなのは、俺の方だよ」

そう言ってククルは抱きつくの背中を優しく撫でる。

「お前が生き返って俺の手の届くトコにいる。 それだけで俺は神って奴に感謝しなきゃいけねぇ。
 でも、俺はもっともっと幸せになりたいし、お前を幸せにしたい。
 …こんな事ばっかり思ってたからバチが当たっちまったのかな」

でもお前は何も悪くないのにな、とククルは苦笑した。

「バチじゃないよ」

は夫を抱き締めている手を離し、彼を見つめる。

「プレゼントなんだよ。神様の」

微笑んでは言う。

「だってククルがどんなに私の事愛してるかわかったもん」
「…お前って奴は」

ククルは恥ずかしそうに顔を赤らめて目を逸らす。

「私もきっと同じくらいククルの事、愛してるよ」
「…、お前な」

新婚みたいな事、言ってんじゃねーよ、と恥ずかしそうに笑う。

「新婚だもん!」

そう言っても笑った。
そうしてククルは妻の小さな唇に優しくキスをする。



 時計が0時の鐘を鳴らす頃、2人は夢の中にいた。
誰よりも近い場所で、固く手を握って。




 ――3日後、サウスランドにいるレジェンスから
「折角の記念日を邪魔してすまなかった」という電話と、それと一緒に言い渡されたククルの1週間の有休を貰い、
改めて記念日を祝おうと、いそいそとご馳走を作って夫の帰宅を待つご機嫌なだった。














何だか相手がククルとは思えない内容ですみません。
しんみりしちゃったかも…。

それぞれの家庭の事情を書きたかったので私的には満足なのですけれどもね…^^;


吉永裕 (2006.7.2)


2006.10.12から一般公開開始。

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