「何だかんだいって私、ヤンに惹かれちゃってるのかもしれない…」

はヤンを思い浮かべる。

(何かエッチだし、歯の浮くようなセリフばっかり言うし、振り回されてばっかりだけど、でも…嫌いになれないのよね)

「…おい、お前…か!?」

後ろから大きくて懐かしい声が聞こえる。

「…ククル…?」

が振り向くとククルが彼女の所へ走って来ていた。

「わ、元気か?どうしたんだよ、こんなトコで!」

彼は嬉しそうに彼女の両肩を掴む。
久しぶりの再会を喜びたかったが、和やかな雰囲気になってしまえばバーン国の話ができなくなってしまうと思い、
表情を曇らせては口を開いた。

「…ククルたちに会いに来た」
「え?」
「…アーク国とバーン国を何とかしていい関係に出来ないかって思って」
「…お前…もしかして、バーン国の…?」

一瞬にして彼の表情が厳しいものに変わる。

「今、バーン国のお城でお世話になってるの。
 でも、それだけじゃない。バーン国の王様も平和な世界にしたいって思ってるんだよ。
 だから私…、そんなバーン国が好き」
「そんな…っ!! バーン国王が平和な世界にしたいだと!?」

彼女の話を聞き、ククルは声を荒げる。

「あいつらは、アーク人を滅ぼす事しか考えてないんだぞ!!」
「そんな事ないっ!どうにかしたいって思ってるもん!!」

はククルにわかってもらえない悔しさで涙を流し、そんなに戸惑いながらも説得しようと懸命なククル。
すると2人にある人物が声をかけた。

「――私の恋人に気安く触れるのはやめてくれませんか」
「!?」
「…何だと!?」

振り向くと、ヤンが静かに笑みを浮かべて立っている。

(ちょっと…ヤン…!? 今、何て……?)

「カルトス王から伝言を預かっています。
 我々も宝玉を4つ集めた。明日の正午、ラスティア山の頂上で決着をつけよう、…との事です。
 さぁ、彼女から手を放して下さい」
「え…」

(嘘…。宝玉と私を交換しないの…?)

「…こいつはこっちにいる方が幸せだ」

ククルはの腕をしっかりと掴む。

、お前だって俺たちといる方がずっと楽しいはずだ。
 それに、急に消えたお前を俺がどれだけ心配したと思う?!
 もう一度、お前に会いたいって思いながら旅を続けていたんだぞ」

(え…?ククル、本気…だよね。ちょっと顔赤いし、真剣な顔してるし…。
 こんな風に必要とされるのって初めてな気がする…)

は一瞬固まっていた。

さん、帰りますよ」
「あ…」

顔を上げるとそこにはいつもの爽やかな笑顔のヤンがいた。

(…ホントはイライラしてるくせに。ホントは今すぐにでもククルに殴りかかりたいくせに。
 今すぐ私の手、掴まえてククルの前でキスとかして見せつけてやりたいくせに。
 …わかってんだからね、私。ヤンが腹黒い奴だって。
 ――でも……好き)

はククルの手をするりとほどき、ヤンに向かって走り出す。

…!」
「ごめん、ククル。でも、私の居場所はバーン国にあるの」

は彼の方へ振り返り、はっきりと言った。

「…そうかよ。じゃあ、さっきの事は王子に言っておく。…明日の正午、決着をつけるからな」

苦渋の表情でククルはその場を立ち去った。


 「さん!」

ヤンが駆け寄ってきてを抱きしめる。

(そういえばこうやって抱きしめられた事、ないかもしれない…。…何かホッとする)

「…さっき、一瞬どうしようか考えてましたね?」
「まーね。だってあんな口説き文句言われたらさ〜」
「私の言葉は信じないくせに」
「だってヤンはお腹の底で何考えてるかわからないもん」
「失礼ですね!」

(あぁ、好きだ。こんなやり取りしてるのが幸せ。
 天使みたいな笑顔で悪魔みたいなヤンが好き)

「…少し、不安だったんです。 貴女が本当にククル・イッキと行ってしまうかと思いました」
「そんな事ないし」

彼の切なげな表情が胸に痛い。
もしかして、彼は――

「せっかく王に無礼ながらも、貴女を宝玉と交換しないようにお願いしたというのに
 貴女が行ってしまったら全てが無駄になってしまいますし…」
「…わ、私の為に…?」
「勿論ですよ」

目の前の彼が微笑む。

(あぁ、もう泣きそう…)

は涙を誤魔化す為に俯いてヤンの服にしがみつく。

「…何で恋人だなんて言ったのよ」

情けないが強がるので精一杯だ。

「願望ですよ。 さんは私の愛しい人ですから」
「!?」

ヤンはそっと彼女の耳にキスを落とした。

(駄目だ、胸がドキドキしすぎて破裂しそう)

あまりの衝撃に硬直状態になる。

「…もうどこにも行きませんよね?」
「…うん」

(…ずっと傍にいるから。ヤン、貴方の傍に…)

そうしては暫くヤンにしがみついていた。




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