「…無口で無表情だけど優しくていい人…」
そんなにたくさん話すわけではない。
いつも会っているわけではない。
(ほんの少し会えるだけで、ほんの少し優しくされるだけで嬉しくてもっと近づきたいって思う。
もっと笑って欲しいって思う…)
「…? なのですか?」
突然、後ろから優しく穏やかな声が聞こえる。
振り向くと、懐かしい微笑みを浮かべたシャルトリューがいた。
「シャルトリューさん…」
「お久しぶりですね、。急にいなくなったので心配しました。手紙は受け取りましたが、お元気ですか?」
「はい。心配かけてすみませんでした」
彼の笑顔にはホッとする。
「それにしても、貴女はこの辺りにお住みなのですか?」
「いえ…。私の現在の住まいは…バーン国です」
「…そう…ですか」
彼女の言葉を聞き、シャルトリューの顔から笑みが消える。
「バーン国とアーク国が共に手を取り合う日は訪れないんでしょうか?
私は…、その為にここに来たんです」
「…誰にもそのような思いはあります。しかし――」
「何奴だ!?」
後ろからレノンの凛々しい声が響く。
いつもとは違い、大きく勢いのある声だ。
「レノンさん、待って!彼は…!」
は剣を構えているレノンを制する。
「私はシャルトリューと申します。…バーン国の方ですね」
「…そうだ。近衛兵のレノンと申す」
レノンの言葉にシャルトリューは彼女の方を振り向いた。
「、貴女は王族とかかわりなのですか」
「…彼が、倒れていた私を助けてくれて…。それからお世話になっています」
「…貴方がたの要求は宝玉ですね…?」
「それは…」
鋭いシャルトリューの言葉には固まる。
「おおよそと交換で宝玉を手に入れるつもりだったのでしょう」
(…そう、私はただの道具なんだ)
チクリチクリと胸が痛む。
分かっていた事なのに、事実を突きつけられると苦しくて仕方がない。
「…」
レノンは黙って2人を見つめている。
「…はこのままアーク国に返してもらいます。その方が彼女は幸せです」
そう言い、シャルトリューはの肩に手を添えた。
「さぁ、行きましょう。王子もきっと喜びます。
私も、貴女が傍にいて欲しいと思っています。明るい貴女の笑顔が我々には必要なのです」
(…シャルトリューさんが私を必要としてくれる。
ちゃんと言葉に出して気持ちを言ってくれる。 それは凄く嬉しい。…でも…)
は厳しい表情をしているレノンを見た。
(レノンさんの事だ。きっと私の幸せを考えて自分が処罰されるのも構わず私を見逃す気だ…)
そんな彼を見ている彼女の肩をシャルトリューは強く抱く。
「…。彼も理解してくれたようです。行きましょう」
「…」
は諦めてシャルトリューと共に行こうと前を向いた時――
「…行くのだな」
微かに呟くようなレノンの声が聞こえた。
「!!」
はその声で頭の中が真っ白になり、
気がついた時にはシャルトリューの手を払い、泣きながらレノンに抱きついていた。
「…私、ずっとバーン国にいるから」
そんな彼女の肩にレノンはそっと手を置いた。
そして次の瞬間、真剣な表情になり、立ち尽くしているシャルトリューに向かって叫ぶ。
「…カルトス王からの伝言を言う。
我々も宝玉を4つ集めた。明日の正午、ラスティア山の頂上で決着をつけよう、…以上だ。了解されたし」
「…わかりました。王子にはそう伝えます」
複雑な表情でそう言うと、シャルトリューは仲間のもとへ戻った。
「…よかったのか」
レノンは静かに尋ねる。
「うん」
は彼に回した手に力を込める。
(傍にいたいって思った。誰よりもレノンさんの傍にいたいって…。
だって、私、レノンさんの事、好きなんだもん。 好きって気づいちゃったんだもん…)
「あ、でも何で決闘なんて…。宝玉は私と交換のはずじゃ…」
「…恐れ多くも王に願い出たのだ。人を物のように扱うのはやめて欲しいと」
「…私の…為…?」
の目には再び涙が滲む。
「…戻って来てくれて嬉しかった」
「…うっ…っぇ…」
静かに微笑むレノンを見て は涙を堪えられず泣きじゃくり始める。
「…」
そんな彼女の背中に彼はそっと手を添えた。
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