「…私、カルトスの傍にいたい。結ばれなくても…」

たとえ結ばれなくてもひっそり想う事は自由なのではないだろうか。
カルトスに迷惑をかけなければ、胸に想いを秘めていても誰かに文句を言われる権利はないはずだ。

「……?」

その時、心臓が止まるくらい懐かしい声がした。

「…ら…ランくん…?」

会いたいようで会いたくなかったランの方へゆっくりと振り返る。

「…やっぱり、だ!」

元気いっぱいの笑顔。駆け寄ってくる姿。
正真正銘、本物のランだ。

(あ…、ホントにランくんだ)

懐かしさでの目頭は熱くなる。

「久しぶりだね、元気だった?」

ギュッと抱きしめ身体を放すと、ランは嬉しそうに彼女の手を取り上下に振った。

「うん。元気!ランくんは?」
「ボクも元気だよ!あ、そうだ。 ボクたち、やっと宝玉4つ集めたんだ」
「…そう。おめでとう」

高揚した気分が、彼の言葉で一気に落ち込む。

「王子たちなら向こうにいるけど、一緒に行く?皆、驚くよ」
「ううん、今はやめとく。突然で腰抜かしちゃうかも」

は精一杯笑顔を作った。

「ところで、はこの辺で暮らしてるの?」
「…ううん。 ――私、バーン国にいるの」
「…そう…なんだ」

彼の表情が固まる。

「やっぱり、バーン国は敵なの?協力する事は出来ない?」
「…」
「…駄目なのね…?」

彼の表情から既に予想はしていたが改めて現実を突きつけられ、は涙を流した。
どうやっても両国は手を取り合う事はできないのだろうか。
一緒に未来を作る事はできないのだろうか。
胸に無念さが広がっていく。

…。ボクだってバーン国との対立がなくなっていつでも君に会いに行けたらって思う。でも…無理だよ」

ランも俯く。

「でも、何でバーン国に住む君がここに?」
「…」
、どこにいる?」
「…カルトス?」

背後からカルトスの声が聞こえた。 どうやら捜しに来てくれたらしい。

「…カルトス…? 去年、バーン国の新国王に即位したのもカルトス王…。
 …もしかして、…」

ランの顔が強張り、はそんな彼から目をそらす。

「…私、バーン国のお城でお世話になってるの。
 それで…、いろいろ彼らと話すうちにバーン国も好きになった」
「…」
「だからアーク国とバーン国が話し合って協力できないかと思ってここまで連れて来てもらったの」
「…そんな…」
、どうした?」

カルトスが2人に気づき、近づいてくる。

「…、ボクと一緒にアーク国に戻ろう? ね、そうしよう?バーン国は利己主義の塊だっていうじゃない。
 …君が悲しい思いをするのは目に見えてる」
「ランくん…」

(確かにバーン国は自分の国を守る為にアーク国を犠牲にする事もいとわない所がある。でも…)

「ボクも傍にいてほしいんだ。君にずっと。
 君と一緒にいるとボク、毎日が凄く楽しくて幸せで……」
「ランくん…?」

ランはの手を取る。

(ランくんが私を必要としてくれてる。
 ランくんと一緒にアーク国に戻れば、皆でまた買い物したり、お話したり、バーン国にいるよりもずっと自由で楽しいかもしれない)

頭にレジェンスやククル、シャルトリュー、そしてランの顔が浮かび上がる。
しかし――


――


『ドクン』

数m後ろから愛しい人の声が聞こえた。

(…やっぱり駄目だ。たとえ自由がなくたって、どんなに利己主義の国だからといって私は…アーク国には行けない…!)

「――ごめん、ランくん。私の居場所は、ここじゃない…っ!」

はランの手を振り解き、カルトスに向かって駆け寄り、彼の胸に飛び込んだ。

(私はカルトスが好き。誰よりも傍にいたい…!)

「…

ランは苦渋の表情で立ち尽くす。

「…レジェンス王子一行の者だな」

カルトスがランに話しかける。

「…我々も宝玉を4つ集めた。明日の正午、ラスティア山の頂上で決着をつけようとレジェンス王子に伝え願う」
「カルトス…」
「互いの正義の為に、正々堂々と勝負する事に決めた。…お前の為にも」
「…」

穏やかな表情の彼に言葉を失った。

(私の為に、宝玉と私を交換する事をやめたの? 私を利用するのが嫌だから…?)

「…わかりました。王子にはそう伝えます」

そう言い、ランは仲間のもとへ帰っていく。


 「カルトス…っ」

はカルトスの腕の中で泣き続ける。

「…行ってしまうのかと思ったぞ」
「っ!」

首を横に何度も振った。

「行かないっ…私、ずっとバーン国にいる……!」
「…よかった」

ホッとした表情で微笑むと、彼は優しく彼女の頭を撫でる。
そうして2人は暫く抱き合っていた。





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