は顔をしかめて右腕を押さえるエドワードに駆け寄った。
「馬鹿者!何しに来た!?」
エドワードは彼女の手を払いのけるがは彼の腕にしがみ付く。
「もうこれ以上、皆が傷つくのは嫌なのっ…!」
彼女の悲痛な叫び声に男たちの闘争心は奪われていき、皆、持っていた武器を下ろした。
するとカルトスがレジェンスの前へ進み出る。
「…わかった。俺たちの負けだ」
「王っ!?」
「いいのだ」
カルトスは胸元から宝玉を取り出す。
「…好きに使うがいい」
レジェンスはそれを受け取った。
「…良いのだな」
「あぁ」
そう言うとカルトスは一歩下がる。
するとレジェンスは台座に8つの宝玉を置いていった。
「宝玉よ。 8つの封印を解き放ち、今ここに力を解放せよ」
レジェンスの言葉に一瞬、宝玉の光は強まるがそのまま静かに治まっていく。
「…反応…しない?」
「そんな、馬鹿なっ!?」
アーク国だけではなくバーン国の面々も驚愕の表情で宝玉を見つめた。
(…やっぱり…)
がそう思うのと同時に、頭の中で
『ピー』
という音が聞こえた。
(あ…、時間切れだ…)
目の前には元の世界の自分の姿が見えていた。
自分の身体に繋がれた心電図が0になり、一本のラインが延々と続いている。
(…私の身体が死んだ。こっちの私も…消える…)
はポケットから手紙を取り出す。
その手紙を持つ自分の手は透き通り始めていた。
「エドワード」
声もあまり出ないような気がする。
「!?」
の姿を見てエドワードが慌てて駆け寄った。
「具合が悪いのなら早く――」
首を横に振る。
「私…行くね」
「おい…!」
エドワードは薄れるの肩を掴む。
「昨日、ちゃんとお別れできなかったね。 でも、嬉しかったよ。…さよなら、エドワード」
笑顔で挨拶をすると 彼女の身体は空に吸われるように消えていった。
「…どうして…、どうしてお前はいつも自分勝手なのだ!!」
エドワードは傷ついた手で地面を殴りつけた。
そこにいる者たちはそんなエドワードを我が身のように見つめ悲しむ。
「…手紙が、落ちていますよ」
ヤンが地面に落ちていた手紙を拾い上げた。
「…エド。代わりに俺が読むぞ」
カルトスがヤンから手紙を受け取り、手紙の封を開ける。
「――アーク国とバーン国の皆へ」
『アーク国とバーン国の皆へ
皆がこれを読んでいる時には、私はもう消えているはず。 私はきっと今日死にます。
元の世界にいる私の身体が死に、こっちの世界にいる私は消えるの。
今までこの世界にいた私は身体から切り離された魂だった。
魔法や生体エネルギーが存在するこの世界だから私が“生きたい”と強く思う事で
生身の身体を持った私が存在する事ができたんだと思う。
だけど、身体と魂は2つで1つ。
事故にあってからずっと意識が戻らないまま数ヶ月間、眠っていた元の世界にいる私の身体は今日の昼には命が尽きるみたい。
記憶が戻った今、私には元の世界がはっきりと見えるの。
さて、私の話はこれでおしまい。
私が最後に何を言いたいかというと、私は“思い”でこの世界に存在していられた。
それは貴方たちが目の当たりにしたでしょう?
だからね、私は思うのです。
人々が強い思いを持てば、自分を信じて相手の幸せの為に祈ったら、奇跡は起こるんじゃないかって。
何でそんな事を言い出すのかって?
私はね、宝玉の封印は解けないって思うの。どちらの国が宝玉をめぐって争う限り、封印は解けないって。
封印が解けてたらごめん。
でも、きっと私の勘は当たってると思うの。
そして、きっと皆はこの大陸の将来を考えて絶望に打ちひしがれているんじゃない?
そこでさっき話した事に戻るよ? 私は“思い”の力にかけたいの。
強く思えば、1人1人の魔力は微々たるモノでも、何千人、何万人と集まればきっと奇跡は起こるって。
魔法は皆が幸せになる為に存在するんだよ。きっと、宝玉の力だってそう。
もし、宝玉の力が当てにならなくて絶望的になった時には私を信じて。
どうせ滅びるんなら最後に悪あがきしてもいいんじゃない?
皆で皆の為に祈ってみて。
きっとアークバーン大陸に光が差し込むよ』
そこまで読み、カルトスはエドワードに手紙を渡す。
「…」
『最後に、性格最悪のエドワードへ。
利己主義で独断的で冷酷で、エドワードなんか最初だいっ嫌いだった。
でも、気がついたら私、貴方のいろんな所に惹かれていってドキドキして…。
悔しいけど本気で好きになっちゃったじゃない。
エドワードは私の事、何とも想ってないかもしれないけど私は心の底から貴方を愛してた。
何も言わずに消えてごめん。
昨日の事、忘れないから。 ホントに、死んでもいいと思えたの。
今は生きたいって思うけど、でも、お別れだね。
さよなら、エドワード。 』
「…馬鹿者。こんな手紙の書き方があるか…っ! 私がどんなにお前を…っ!!」
エドワードの零した涙が手紙を濡らす。
男たちもまたを想って涙を流した。
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