は右腕を押さえるククルに駆け寄る。

「ば、馬鹿!来るな!!」

ククルはに背を向ける。そんな彼の服を彼女は掴んだ。

「無理しないでよっ…! それに私、もう誰にも血を流して欲しくないの…っ!!」

彼女の悲痛な叫び声に男たちの闘争心は奪われていき、皆、持っていた武器を下ろした。
するとレジェンスがカルトスの前へ進み出る。

「…宝玉は差し出す」
「王子!?」

レジェンスは立ち上がり胸元から宝玉を取り出した。

「好きにするといい」
「…良いのか?」
「あぁ。…彼女にあんな顔をされてはな」

カルトスはを見て苦笑する。

「…では使わせてもらう。――心配するな、我々も貴公らと願いは同じだ」

そう言い、カルトスは宝玉を受け取るとレジェンスは一歩下がった。
そして台座に8つの宝玉を置いていく。

「宝玉よ。 8つの封印を解き放ち、今ここに力を解放せよ」

カルトスの言葉に一瞬宝玉の光は強まるがそのまま静かに治まっていく。

「…反応…しないだと?」
「そんな…!!」

バーン国だけでなく、アーク国の面々も驚愕の表情で宝玉を見つめた。

(…どうして…?)

がそう思うのと同時に、頭の中で

『ピー』

という音が聞こえた。

(あ…、時間切れだ…)

目の前には元の世界の自分の姿が見えていた。
自分の身体に繋がれた心電図が0になり、一本のラインが延々と続いている。

(…私の身体が死んだ。こっちの私も…消える…)

はポケットから手紙を取り出す。
その手紙を持つ自分の手は透き通り始めていた。

「ククル」

声もあまり出ないような気がする。

!?」

の姿を見てククルは彼女の肩を持ち強く揺らした。

「どうなってんだよ!?」
「…言ったでしょ?遠い所に行くって」
「でもそれは…っ!!」
「…ごめん、もう時間切れだよ」

は悲しく微笑むと空に吸われるように消えていった。



 「…っどういう事だよ!? 何で急に消えちまうんだよ!!」
「…ククル」

そこにいる者たちは泣きながら地面を殴りつけるククルを我が身のように見つめ悲しむ。

「…ククル。手紙が落ちているぞ。きっと が書いたものだ」

レジェンスが地面に落ちていた手紙を拾い上げた。

「…代わりに読み上げますね」

そう言い、シャルトリューはレジェンスから手紙を受け取り、静かに封を開く。

「――アーク国とバーン国の皆へ」


『アーク国とバーン国の皆へ
 皆がこれを読んでいる時には、私はもう消えていると思う。
 私はきっと今日死にます。
 元の世界にいる私の身体が死に、こっちの世界にいる私は消えるの。

 今までこの世界にいた私は身体から切り離された魂だった。
 魔法が存在するこの世界だから私が“生きたい”と強く思う事で、生身の身体を持った私が存在する事ができたんだと思う。
 だけど、身体と魂は2つで1つ。
 不慮の事故でずっと意識が戻らないまま数ヶ月間、眠っていた元の世界にいる私の身体は今日の昼には命が尽きるみたい。
 記憶が戻った今、私には元の世界がはっきりと見えるの。

 さて、私の話はこれでおしまい。
 私が最後に何を言いたいかというと、私は“思い”でこの世界に存在していられた。
 それは貴方たちが目の当たりにしたでしょう? だからね、私は思うのです。
 人々が強い思いを持てば、自分を信じて相手の幸せの為に祈ったら、奇跡は起こるんじゃないかって。
 私は“思い”の力を信じてる。
 強く思えば、1人1人の魔力は微々たるモノでも、何千人、何万人と集まればきっと奇跡は起こるって。
 魔法は皆が幸せになる為に存在するんだよ。
 だから、和平の道を諦めないで。
 歴史は繰り返されるっていうけど、皆が望めば断ち切ることができるはずだよ』


そこまで読み、シャルトリューはククルに手紙を渡す。

「…」


『最後に、大好きなククルへ。
 きっとククルは怒ってるよね。私が急に消えちゃったから。
 でも、悲しいけど嬉しいよ。私の事、本気で好きだって事だからさ。
 お願いだから、私と出逢った事を後悔なんてしないで。
 少しだったけど私がこの世界に存在して貴方と想いを通わせた事は事実だから。
 私はその事が本当に嬉しいの。
 貴方に逢えてよかった。
 口が悪い所も、ぶっきらぼうな所も、時々強引な所も、全部、大好きだよ。
 さよなら、ククル。幸せになってね。   



「…馬鹿やろう…」

ククルは天を仰いで立ち尽くして涙を流し、それを見守る男たちもまた を想って涙を流した。



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