+最後の夜+



 
 明日はついにアーク国との決戦の日。
軍としての戦いでは兵器の開発でバーン国に分があるが、個人個人としての戦いでは、闇は光には勝てない。
おそらく明日は厳しい戦いになるだろう…。

エドワードは複雑な表情で部屋にいた。

たがかあんな小娘1人くらい、奴らに差し出せばよかったものを…。

ちらっと窓を見やると、カーテンの隙間から覗く硝子に自分の姿が映って見えた。


「…、行くな」


――何故、私はあのような事を?
勿論、ただであの女を連れて行かれたならば取り引きの意味もないし、あの女を連れて来た意味もない。
…だが、そんな実利的な理由で引き止めたわけではなく、
実に率直に、激情に、気がつくとあの時の自分は言葉を発していた。
第一、あいつを取り引きとしての道具にする事すら、自分から取り下げてしまった。

「あやつを…をアーク国に渡すのは止めて頂けませんか」
「俺は元からをそのようにするつもりはなかったぞ。
 が現れた当時はそう思っていたのかもしれないが、この数ヶ月のうちには俺たちの心を奪ってしまった」
「王っ!?」
「ふっ、安心しろ。友情以上の感情は抱いてはおらぬ。
 しかし、はひょっとしたら神からの使いかもしれないな。 敵国で拾った人間だというのに、警戒心すら抱かせない。
 実に無邪気で温かい女性だ」
「…」
「――エドも、彼女のあのような所に惹かれているのだろう?」
「いえ、私は……。――失礼します…」


くそっ、あの女が何だというのだ。
小さく吐き捨てるようにそう言うと、エドワードはネッカチーフを解いて机の上に投げ捨てた。

からかった時の反応が面白いだけだ。
だから首筋につけたキスマークも、図書室での事も…全て――遊び。

自分でそう結論付けながらも、苛々しながらシャツのボタンを胸まで外す。

自分は宰相たる人間だ。
色恋事にはまって理性を欠くような事はしてはならない。
それに、俺は…。


「――おにぃ…ちゃん…」


時が止まった妹の顔が浮かぶ。

愛さなければいい。
愛さなければ失ったとしても心は動かない。
王に誓った忠誠や、同僚・部下達への信頼とは違う、唯一無二の愛という感情に縛られなければ、
きっと自分はずっと独りでも強く生きていける。

そう思って「宰相になったのだから身を固めたらどうだ?」という周りや王の言葉を跳ね除けてきた。

――だが、何故こんなにも私は…という女に振り回されているのだ?


『コンコン』

考えを遮るかのように、ドアがノックされた。
現在、頭の中を占領している人物が目の前にいる。
しかしいつもの彼女とは違い、どこか呆然としているような、怯えているかのような、弱気な目をしていた。

「…貴様か。どうした?」

ぶっきらぼうな言葉。
自分でもわかっているが、彼女を前にするとそうなってしまう。

「…べ、別に用事はないんだけど。
 ――ほら!エドワードの事だから、明日の事、考えて眉間にふか〜い皺ができちゃってるんじゃないかと思ってさ。
 この優しいちゃんが癒しに来てあげたってワケよ!!」

苦しそうに笑ってみせる
明日の事が心配なのだろうか。無理に笑う姿など見たくはない。
それならば早く休んで明日に備えて欲しい。

「…お前の遊びに付き合っている暇はない。自分の部屋に戻れ」

こんな言い方しかできない自分に嫌気が差しながらもを追い出そうとドアに手をかけた。
すると彼女の苦しそうな笑顔が更に歪んで笑みが消えていく。

「声がっ…聞きたくて…。 ただ会いたくて…っ…。
 …抱きしめて欲しかったの…」
「!」

何も考える間もなく、グイっとの腕を引き寄せる。
彼女の言葉に、その痛々しい涙に、何もかもが弾け飛んだ。
柔らかくて小さな唇に貪るように吸い付く己が唇。
その細い身体を砕きそうな程に強く抱き締める。

「…エド…っぁ――」
「…

自分で囁くその女の名前がとても愛しく響いた。
その身をもって教えられた。
自分はが堪らなく愛しいのだと。
欲しても欲しても、満たされない程までに、このという女を好きになってしまったのだと。



 胸に指で触れる感触がして、薄っすらと目が覚めた。

『すき』

と書かれたその文字での気持ちを明確に理解する。
愛し合っている最中、熱く彼女の想いを感じた筈なのに、愛の言葉を交わさなかった為か、惚れた弱みなのか、
行為が終わって暫くすると無性に不安になってしまった。
求めているようで、突き放されてしまったかのような…、これ以上、踏み込んで欲しくないような瞳を見たら、
もう何も言わずに眠るしかなかった。
だから相手の想いを理解できて嬉しいと思ったのは事実で。

――想われる事など、鬱陶しいと思っていたのに。

次第に湧き上がってくる幸福感を噛み締める。
しかし、次の瞬間、彼女が次に書こうとしている言葉が

『さよなら』

のような気がして、慌ててその手を握った。

「…まだ起きていたのか」
「ご、ごめん…起こしちゃって。もう、部屋に帰るから…」
「…」

は何をそんなに怯えているのか。
もしかしてこうやって抱き締められるのはこれが最後で、
いつの間にか私の前から消えて他の男の所に行ってしまうのではないか。
今まで経験した事のない不安と嫉妬が心に沸々と湧きあがってくる。

「朝までいろ」
「え…」

はっきりと想いを伝えられない自分は馬鹿だ、と思いながらもを放したくない気持ちには抗えず、
彼女の小さな頭を抱え込み、そっと額にキスをした。
するとは力を抜いてちょこんと肩に頭を乗せる。

ずっとこの手でお前を抱いていたい。
たとえ明日、世界が滅びる日だとしても、この至福な温もりの前では恐怖も不安も拭われる。


それほどまでに――、お前を愛しているのに。
どうしてお前はそんなにも儚い瞳で私を見つめる?




 朝、起きて左手で布団の中をまさぐる。
愛しい人の温もりはそこにはなかった。
こんなにも一人で目覚めるのが淋しいだなんて、想像した事もなかった。

――
これまでと同じように私たちは接していけるのだろうか。
またお前をこの手に抱けるのだろうか。

そう思いながらエドワードはシャツに手を通した。
とりあえず今日の決闘が終わったら、の事にも決着をつけよう。
グッと決意してエドワードは部屋を出る。

――しかし、彼女がこの数時間後に消えてしまう事を彼はまだ知らない。








第2弾はエドワード。

…なんかこれだけ読んだら無茶苦茶、悲恋な感じの終わり方ですね。
まぁ、さらにその後、彼女が生き返る事も知らない彼ですが…。


とはいえ、さすが私の好きなキャラという事もあって、
レジェンスよりも格段に話が長いっ!!!

でも何か無茶苦茶ヘタレチックな男になってしまった。
俺様エドワードが好きな方はすみません。
また、「え〜、あの時のエドワードはこんな事考えてないもんっ!」と思った方にも。…すみません…。

もっと考えて話を作れば良いのですが、今回のanother sideはモロに付け足しましたので、
本編の話を書いていた当時とキャラのイメージも変わっていますし、
本編の足りない所を少しでも補いたい、というのもありますので、
何か本編とは違った書き方になってるかもしれません。


もう少し私に文才と詳細に設定を考えられる頭があれば…。


…というような反省点がいっぱいのanother sideですが、
少しでもキャラを身近に感じて頂ければ幸いです。



それでは、他のキャラの話にも興味を持ってくださった方は、
是非またいらしてくださいね^^

では、次回作で会いましょう☆


吉永裕(2006.4.7)

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