「…シャルトリュー先生」

思わず出た言葉に驚く。

「っていうか告白以前に、好きになっちゃいけない人だし…」

自分で自分に言い聞かせるように呟く。

――それでも。
先生が優しくしてくれるのは、それが仕事だからって分かってるけど、でも……
こんなにドキドキしてるって事は、私の心はそれじゃ納得いかないみたいだな。

は自分の中にある感情を波立たせないようにとまずはリラックスする為に風呂に入る事にした。



 「わ、凄い…」

髪の毛をタオルで包んでアップスタイルにし、旅館の浴衣に身を包んだ風呂上りのは中庭にいた。
露天風呂から見えた月が綺麗だったのだ。
ライトのない中庭ならもっとはっきり見えるだろうと思い、部屋に荷物を置きにも戻らずにそのまま中庭に直行したのである。
そうして上を見上げると、神秘的な光で夜空を照らす月が浮かんでいた。

――こんな異国の地で見る夜空も素敵。
隣にシャルトリュー先生がいてくれたら、もっと幸せな気持ちになるんだろうな…。

は穏やかな表情を浮かべる。
しかし温まった身体が次第に冷えてきたのか、「くしゅっ!」とくしゃみが3回程連続で出た。

「――、大丈夫ですか?」

突然後ろから聞こえた声にピクッと身体が反応する。
ゆっくり振り向くと、それは先程まで自分の頭を占領していた人物――シャルトリューが立っていた。
彼は心配そうな表情を浮かべてこちらに近づいてくる。

「貴女という人は髪も乾かさないで…。湯冷めして風邪を引きますよ?」

そう言うと、着ていた羽織をの肩にかける。
すると微かに保健室においてあるハーブの香りがした。
ハーブの香りというよりも、シャルトリューの香りと頭の中ではインプットされている。

「あ…ありがとうございます…」

俯きながらは礼を言った。 何だかとても恥ずかしかった。

「いえいえ。折角ですし、部屋まで送りましょうか?」
「あ…いえ…そんな…」

もう少し一緒にいたい気もしたが、上手く言葉が出てこない。
私は今、失礼な顔をしていないだろうか。

「…もしかして誰かとここで会う約束でも?」
「違います!」

咄嗟に叫んでしまった。
同時にパサリと髪の毛を包んでいたタオルが地面に落ちる。

「…約束するような人なんていません、私には」
…」

は苦笑して見せた。

――だって私が一緒にいたいと思ったのは他でもない先生、貴方なんだもの。

「…、今日の貴女は何だか女性の顔をしていますね」
「…え――」

シャルトリューはそっとの濡れた髪を梳いた。
その近さに思わず固まってしまう。

「月明かりの下だからかもしれませんが…今の貴女はとても儚げで透き通るように美しい」

そう言うと彼はそっと冷たくなったの手を取った。

「何が貴女をそうさせるのでしょう。…誰がそうさせるのでしょうか」

月に照らされ、少し俯く彼はとても綺麗だった。
長い睫毛の下から覗く淡いターコイズブルーの瞳はじっとこちらを捉えている。

「…少し嫉妬します」

パチンと何かが弾けたような感じがした。
自分で閉じ込めていた感情が一気に弾け飛んだような感じだ。

「…シャルトリュー先生…っ…」

溢れ出てくる想いに身体は過剰に反応し、喉が詰まって名前以外の言葉が出てきてくれない。

「私のような立場の者がこんな事を言うのは不謹慎かもしれませんが、それでも…どうか口にする事を許して欲しい」

背の高い彼がすっとの前に跪いた。
そして真っ直ぐに見つめてくる。

「私は、貴女に恋をしています。恥ずかしい程までに純粋に、強く貴女を想っています」

シャルトリューは彼女の手を強く握る。

「そして今日のいつもと違う貴女を……一段と愛しいと思います」

の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
その涙に気づき、彼はゆっくり立ち上がると彼女の頬に触れる。


とてもとても、愛おしく、私の大切な……


温かくて柔らかいモノがそっと唇に触れた。







 「――っくしゅん!」

ハッとクシャミで我に返る。 そこは町の図書館だった。


「大丈夫ですか、?」

ひょこっと顔を覗き込んだのはシャルトリュー。
はビクリと反応し、斜めになっていた身体を起こした。

――私寝ちゃってたんだ。
あれ、夢だったのか…。 そりゃそうよね。
アーク国とバーン国の人が仲良く同じ学院にいるんだもん。
そんな事、あるわけないし。
それにシャルトリューさんがあんな事…する筈ないもんね。

そんな事を思いながら夢でシャルトリューに触れられた頬にそっと手をやった。

「待たせてしまってすみません」

の様子を見ながら彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
いえいえ、と首を振る。

――夢のシャルトリューさんは…積極的だったな。

夢を思い出してクスッと笑った。
すると彼は「どうかしましたか?」と首を傾げる。

「シャルトリューさんっていつも穏やかですけど、どうしようもなく誰かを愛しいとか恋しいとか思ったことあります?」

わざと意地悪な質問をしてみた。 きっと彼は困った表情をするだろう。 
でも今はそんな彼が見たい気がした。
しかし――


――勿論、思いますよ。
、貴女と出会ってからは常に。


予想外の言葉に驚いたを見て、シャルトリューは少し意地悪そうに笑った。








サイト1周年記念小説の割には、大した事なくて申し訳ありません…。
も〜ホント私好みですみません。
攻シャルです。

こんな奴が保健室の先生だなんて…逆に怖いよ。
色々と…裏に置けそうなネタが浮かびますわ^^;

普通に白シャルとして読んで下さっても良いですし、
黒シャルとして深読みして読んで下さっても嬉しいです^^


さぁ、それはさておき。
ここまでサイトを続けてこれたのも皆様のお陰です^^
是非是非、今後もR⇔Rとアークバーンの伝説を宜しくお願い致しますm(_ _)m


吉永 裕(2006.11.3)



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