「…ランくん」
思わず出た言葉に驚く。
「…っていうか別に好きだなんて…意識した事ないし…」
自分で自分に言い聞かせるように呟いた。
「第一、ランくんは皆と仲良しで、いい人なだけで…女友達も多いし」
――それでも。
さりげなく係の仕事や当番を手伝ってくれる彼に「ありがとう」と言った時に見せる
少し照れたような笑顔にルンっと気持ちが弾むのも事実で。
「…今、何してるのかな、ランくん」
は旅館内を散歩してみる事にした。
「うわっ!」
「……なかなか…」
はわいわいと声のする方へ足を運ぶ。
するとそこは卓球の台が置いてあり、いつもの仲のいいメンバーが集まっていて皆、卓球を楽しんでいるようだった。
勿論、そこにはランもいて、目の前ではレノン・カルトスのペアとレジェンス・ククルのペアがピンポン玉を激しく打ち合っている。
「面白そうね…」
そう言いながら部屋の中に入ると、彼女を見つけたヤンが声を上げた。
「あ、さん、いい所に」
そう言っての手を取ると、皆の方へと連れて行かれる。
「身体も温まった事ですし、トーナメントでもしましょうか」
「面白そうだな!」
ククルが笑顔でこちらを向いた。
「でももっと面白くする為に賞品をつけようと思います。
――優勝者はさんからキスを受ける、というのはどうでしょう?」
「えぇ!?」
の驚きをよそに、勝負好きな彼らはさっさとトーナメントの用意を始める。
ま、待ってよ!
何で私がキスなんて…!!!!
ポツンと端に追いやられたは泣きそうな顔で辺りを見回すが、既に男たちは戦いの事で頭が一杯である。
すると――
「…、大丈夫?」
ポンと肩に手を置かれた。
振り向くとそれはランの手だった。
「…ランくん…」
はホッとした表情を浮かべる。
今すぐランに泣きつきたい気持ちだった。
「こんな事になっちゃうなんてね…。しかも皆乗り気だし…」
ふぅ、とランは苦笑してみせる。
も彼の隣で「はぁ」とため息をついた。
「そうだ!」
そんな彼女を見て彼は何かを思いついたように声を上げる。
「、ボクが頑張って優勝するよ! そしたらキスさせられる前にこそっと逃げ出そう?」
「…ランくん」
思いやりに満ちた彼をとてもありがたいと思った。
そして頼もしい、とも。
「結構、ボク、道具を使ったスポーツって得意なんだよ。だから頑張るっ!!!」
「…うん。応援するね!」
そうは言いながらも、スポーツ万能のククルや器用なヤンには敵いそうにないな…と思ってはいたのだが。
「…嘘」
と言うのは失礼だが。
何と、壮絶なラリーの結果、ランがククルを打ち破り優勝してしまった。
器用で運動量が多いというのと頭の回転が早いというので、総合的にククルよりも勝っていたらしい。
優勝して周りから「凄いな」と言われているランを呆然と遠くから見つめる。
有言実行の彼がとても輝いて見えた。
するとパチリと目が合う。
「…じゃあ…ボク、用事があるからこれで…」
そうして彼は周りからのキスコールを何とかかわし、のキスを受ける事無く、バタバタとその場から立ち去った。
そんなランの後を人目を盗んで追いかける。
「――ランくん」
ランの後姿を追いかけてやってきたのは中庭だった。
そこはとても静かで、白い旅館の壁が月明かりで銀色に見えた。
「あ、」
ランはニコッと笑顔を見せる。
「あの…優勝、おめでとう」
何と言えばいいのか分からなかった。
とりあえず今の状況で沈黙が続くのは気まずいと思い、言葉を発す。
「あはっ!ありがとう。何とか勝てたよ」
そう言って無邪気に彼は首を傾けて笑った。
そうして少し視線を外し、俯きながら口を開く。
「…を守れてよかった」
ランの言葉に胸がキュンとした。
彼が自分の為に頑張ってくれたのが痛い程、伝わってきたから。
その気持ちが嬉しくて、苦しくて。
「――ランくんは、賞品いらないの?」
ポロッとそんな言葉が零れていた。
そのの言葉にランはピクッと驚き顔を上げる。
「…ボクは――君が望まない事は、望まないよ」
彼は困ったように笑った。
そうして再び俯く。
「…それでも…ボクは……君の事を……」
――が誰かにキスする所なんか見たくないんだ。
ボク…我侭だよね。
そう言ってグッと握り締めた彼の拳を、はそっと包み込むように両手で握る。
「…私、望んでなくなんかない」
「…え――」
静かにそう言うと、は少し背伸びをしてランの頬にキスをした。
彼は大きな目を更に大きく開いて呆然としている。
――私、ランくんが好き。
想いが身体から溢れ出すように、言葉が飛び出した。
自分でも自分の行動に驚いている。
それでも、今、見つめている彼の瞳から目を逸らしたくなかった。
「――。……ボクも…」
…君が大好きだよ。
そう言って恥ずかしそうにエヘッと笑うと、ランは口先が当たるくらいの軽いキスをした。
「…」
はパチリと目を開ける。
「……あ…れ…?」
辺りをキョロキョロと見回した。
そこは暗い森の中である。
…あ、そうか。 今日は久しぶりに野営してて…。
ゆっくりと起き上がる。
――夢…かぁ。
なんだぁ、と顔を赤くして頬に手を当てた。
すると焚き火が小さくなっていたのに気づき、ボーっとしながら薪をくべる。
そりゃそうよね。
アーク国とバーン国の人が仲良く同じ学院にいるんだもん。
そんな事、あるわけないし。
それに…私ったらランくんにあんな事……。
夢を思い出すと顔が熱くなってくる。
するとランがいない事に気づいた。
「…どこに行っちゃったんだろう、ランくん…」
はランが気になり、辺りを歩いてみる事にする。
空には白銀の月が輝いていた。
『ビュッビュッ』
風を切るような音がした。
何となくはその音のする方へ足を向ける。
すると――
ランくん…!
そこにいたのはトンファを持ったランだった。
遠くからそんな彼の様子を見つめていると、いつもの可愛らしい彼ではなく、何だかとても……
――恰好いい。
真剣な表情で武を磨いている彼の姿はとても男らしく見えて恰好良かった。
そうして暫くランに見惚れていると、ばっちり彼と目が合う。
「!? いつからそこにいたの?」
普段の無邪気な笑顔を浮かべて彼が近づいてきた。
「あ、ついさっき。何だか目が冴えちゃって、それで散歩してたら…」
何だか恥ずかしくて彼の顔がきちんと見れない。
それでもランはそっかぁ、と穏やかに笑う。
「ランくん、ここで何してたの?」
「あ、ボク?」
彼は額の汗を拭くとはにかんだ。
「トレーニング…かな?」
「トレーニング?」
うん、とランは頷いてみせる。
「ボク、王子やシャルトリューさんみたいに強力な魔法も使えないし、
ククルさんみたいに強くもないし…。
だから足手纏いにならないようにと思って日々トレーニングしてるんだよ」
そう言って手に持っていたトンファを腰に戻す。
そんな彼の手には硬くなったマメが沢山あった。
何だかランがとても健気に思えては笑顔で頷く。
「そっか。ランくんは偉いなぁ…。
――私なんて…守ってもらってばかりで全然役に立ってないし」
自分の立場が情けなく思えた。
本当に力もないし、魔法も使えないし、戦いなんてとてもとても…。
普段、ランは重い荷物を沢山抱えているし、
傷の手当てや食事の準備など、ささっとやってしまうし…それだけでも凄いなぁと思っていたのに。
…思っていたよりもずっとランくんは逞しくて恰好良い男の人なんだな。
彼の新しい一面を知っての胸はジワジワと温かくなってくる。
するとランはふっと優しく微笑んで顔を覗き込んだ。
「はボクに沢山のモノをくれてるよ」
そうしてニコッと無邪気に笑う。
え?とは聞き返した。
「元気に笑ってるを見てるとボクは元気になれる。きっと王子たちもそうだと思うよ。
君が加わってから、とても温かい気持ちで旅が続けられるんだ。
後ろを振り向いたら、君が優しく笑ってくれるから」
「…ランくん」
は呆然とランの顔を見上げた。
少し彼の頬が赤くなっている。
「だからボクは…そんな君を……守りたいと思って。
――強くなりたいと思った一番の理由はね、
、君をボク自身の力で守りたいと思ったから…」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、時が止まってしまったかのように身体が動かなかった。
顔に似合わずゴツゴツした彼の手が私の手に触れる。
「…もっと強くなるよ。 自分自身の為にも、そして――の為にも」
「……ん…」
胸が一杯で言葉が出ず、コクリと頷いた。
そんな自分を穏やかに見つめるランが何だかとても大人びて見えた。
サイト1周年記念小説の割には、大した事なくて申し訳ありません…。
ランの話はねぇ…^^;
ただ、レジェンス・ククルVSカルトス・レノンのピンポン姿をちょろっと書きたかっただけっていう
ランくんには申し訳ないけれども、そんな設定でして^^;
さて、ランくんは「男らしく」がテーマです。
設定的には可愛らしいんですが、結構男らしい人にしたい…つもりで書いてます。
全然男らしくなくてすみませんけども。
さぁ、それはさておき。
ここまでサイトを続けてこれたのも皆様のお陰です^^
是非是非、今後もR⇔Rとアークバーンの伝説を宜しくお願い致しますm(_ _)m
吉永 裕(2006.11.3)
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