「…レジェンス」
思わず出た言葉に驚く。
「…別に好きだ何て…思ってないし。第一、好きになんて…なっちゃいけない人だし」
自分で自分に言い聞かせるように呟いた。
だって彼はとある貴族の長男坊で私とは生まれ育ってきた環境が違いすぎるもの。
ファンだって沢山いるし…彼は皆の王子様であって、本気で好きになっても見向きもされないわ、きっと。
それに、レジェンスが私に優しくしてくれるのは…学級委員長だから。
私たちには特別な関係なんて…。
はゆっくりと窓辺に近づく。
そうしてそっと窓に触れると、空には綺麗な月が浮かんでいた。
――それでも…。
ちょっとした事で優しく微笑んでくれる彼に、一見歯の浮くような台詞をさらりと言えてしまう彼に、
キュンと胸を締め付けられる気持ちになるのも事実で。
そう思いながらため息をつくと、窓の下に見える中庭にいたある人物と目が合った。
「…レジェンス…」
はガラリと窓を開ける。 そんな彼女に彼はすっと手をあげた。
「どうしたの?そんな所で」
あまり大声を出すのも周りに迷惑かなと思いながらも体を乗り出し、声を上げる。
すると彼はニコッと笑い、
「――、そなたに会いたかった」
などと、さらっと凄い事を言う。
言われた張本人のは胸がドッドッドッと強く打ち付けるように鼓動するのを感じながら口を開く。
「今、下に降りるから待ってて」
そう言うとレジェンスが頷いた。
は慌てて窓を閉めると一目散に中庭の彼の元へと走り出す。
――会いたかっただって。 私に会いたかった、だって…っ!
変に期待してはいけない、と自分を落ち着けようとするが、それでも背中に羽根が生えたかのような昂揚感が溢れ出す。
「レジェンス…!」
息を切らしながらレジェンスの所まで行くと、彼はフッと笑っての髪を梳いた。
「そんなに急がなくても良いのに」
そう言って乱れた彼女の髪を整える。
…すっかり身だしなみの事、忘れてたわ…。
舞い上がって身だしなみをすっかり忘れていた自分を恥ずかしく思いながらも
微かに感じる彼の指の感覚に、走っていた時の鼓動とは違うドキドキを感じる。
「――それで…さ、何か用事があったの?」
は至近距離にいるレジェンスの目を見る事ができずにキョロキョロと視線を動かしながら尋ねた。
すると彼は軽く首を横に振る。
「いや…、用が特にあったわけではないのだ。
――ただ、あの美しい月を見ていたら、そなたに会いたくなった」
そう言って空の月を見上げる。
月夜に照らされた彼の横顔はいつも以上に綺麗だと思った。
「…、窓辺のそなたは美しかった。
普段は明るく可愛らしいと思っていたのだがな、先程のそなたはとても美しい女性の顔をしていた」
ゆっくりとこちらを振り向くと彼は穏やかな表情でを見つめる。
「そなたはあの時、何を思っていたのだ?」
「そ、それは……えっと…」
貴方の事よ、などとはとても言えず、そそくさと彼から視線を逸らして俯いた。
そんな彼女の姿にフッと苦笑するように笑うと彼は再び月に目を移す。
「――、月には自分の心が映って見えるそうだ。つまり自分の欲しいものが現れる」
静かにそう言うと彼はこちらを真っ直ぐ向く。
「――私はあの月を見て、…そなたを最初に思い浮かべた」
やけに辺りが静かだと感じた。
それまでドキドキと音を立てていた心臓の音も聞こえなくなる。
呆然としながらはゆっくりと顔を上げた。
「…わ、私も…」
優しい表情でこちらを見つめるレジェンスから目を逸らさないように
は手をギュッと握り締める。
「――貴方の事を考えていたの。月を見上げながら…」
そう言うと「よかった」と嬉しそうに笑いながら彼がすっと手を伸ばした。
も手を伸ばし、ゆっくりと彼の方へ歩み寄る。
初めて触れた彼の手はとても大きくて温かかった。
――そして初めてのキスも、温かくて優しかった。
「…」
は目を開ける。
「……あ…れ…?」
辺りをキョロキョロと見回した。そこはとある町の宿だった。
ゆっくりとベッドから体を起こす。
――夢…かぁ。
なんだぁ、とは顔を赤くして頬に手を当てた。
そりゃそうよね。
アーク国とバーン国の人が仲良く同じ学院にいるんだもん。
そんな事、あるわけないし。
それに…レジェンスと…あんな事……。
そんな事を考えているとドキドキと胸が鼓動する。
それでも幸せな気分で心が一杯で、すぐにまた眠るのは勿体無い気がした。
もう少しこの気分を味わっていたいな、と思い、は上着を羽織り、バルコニーへと向かう。
「…あ…」
隣のバルコニーには先客がいた。
月明かりに照らされながら月を見上げているのはレジェンス。
彼はこちらに気づくとバルコニーを隔てている柵の所までやってきてニコッと微笑む。
「、どうした?眠れないのか?」
「レジェンスこそ…」
ゆっくりともレジェンスの方へ歩を進める。
それでも先程の夢の事もあって真っ直ぐ彼の目を見れずにいた。
そんな彼女を穏やかな表情で見つめながらレジェンスは口を開く。
「目が覚めてしまってな。ふと外を見たら月が美しかったので眺めていたのだ」
「そっか。…私もそんな感じ」
そう言うととレジェンスは月に目をやった。
静かな光が2人を包んでいる。
「…丁度、の事を考えていた所だ。
そなたと一緒にこの月を見れたら…どんなに素晴しいだろうと」
「…レジェンス…」
胸が静かに、しかし早く脈打っていた。
頬が熱くなってくるのを感じる。
「柵に隔てられているが、こうやってそなたと一緒に月を見上げる事ができて私は嬉しい」
「…わ、私も……嬉しい」
そう言って柵に手を乗せると、彼がそっと手を重ねた。
「――素敵な思い出が…また1つ増えたね」
照れながらもはニコリと微笑む。
するとレジェンスも微笑んで頷いた。
「、また月を一緒に見よう。
――その時は宿を抜け出して柵のない広い所で」
「…うん」
その時を楽しみにしながら、は重ねられているレジェンスの手をそっと握った。
サイト1周年記念小説の割には、大した事なくて申し訳ありません…。
本当は、こんな話になる筈ではなかったのだけれど
書き始めてから急遽、ネタが浮かんで
ざざ〜っと書いてしまいました。
結構お気に入りな設定ですが、相手がねーレジェだからねー。
そこがネックかな、といった所ですか^^;
まぁ、私はレジェは苦手という事で置いときましょう(;´▽`A``
さてさて。
ここまでサイトを続けてこれたのも皆様のお陰です^^
是非是非、今後もR⇔Rとアークバーンの伝説を宜しくお願い致しますm(_ _)m
吉永 裕(2006.11.3)
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