「…カルトス」

思わず出た言葉に驚く。

「…別に好きだ何て…思ってないし。
 第一、好きになんて…なっちゃいけない人だし」

自分で自分に言い聞かせるように呟いた。

だって彼は由緒正しき王族の血筋で私とは生まれ育ってきた環境が違いすぎるもの。
取り巻きもファンも沢山いるし…。
それに、カルトスってどこかクールな所があるし、好きになっても見向きもされないわ、きっと。
それに、彼が私の傍にいてくれるのは…副委員長だからであって私たちには特別な関係なんて…。

それでも…。
副委員長として毅然とした態度を取る彼に、時折見せる少年の顔をした彼に、
ドキッと胸を動かされる時があるのも事実で。

そう思いながら風呂に行く用意をし、部屋を出ると、カルトスの後姿を見かけた。
は慌てて彼を追いかける。

別に用があったわけじゃない。
追いついた所で特に話なんてないけど…でも――

――ただ会いたくて。



 カルトスは非常階段の所に座っていた。
小さな窓の外には月が浮かんでいる。その月の光がひっそりと彼を包み込んでいるように見えた。

「カルトス…?」
「…。どうした?」

そっとが声をかけると、驚いた様子で彼が振り向いた。

「後姿を見かけたものだから、追って来ちゃった。
 カルトスが独りでいるなんて珍しいって思ったし…」

いつもカルトスはレノンと一緒にいるので独りでいるのが新鮮に思えたのである。

「…そうだな」

そんな彼女の言葉に彼は苦笑し、黙り込む。
手持ち無沙汰なは持っていた荷物を握り締めた。

「…あ、独りになりたい時もあるよね。ごめん、じゃ私お風呂に行くから…」

何だか余計な事を言ってしまったような気持ちになっては立ち去ってしまおうと考え、踵を返す。

「いや…。行かないでくれ」

そう言うと急いでカルトスは立ち上がり、彼女の肩を掴んだ。
ドキッと胸が弾む。

「…お前に時間があるなら…少しだけでいい。傍にいてくれないか」
「…う、うん。私は別に…」

申し訳なさそうな表情でカルトスは俯く。
顔が熱くなってきたも頷くと俯いた。

「…では、少し話そう」
「うん…」

そうして2人は階段に腰を下ろす。

…何だかカルトスとこうやって階段に座って話をするなんて…。
信じられないな。

そんな事を思いながらは隣に座るカルトスの横顔をちらりと覗き見る。
俯いた彼はいつもよりも幼く見え、年相応に見えた。
きっと普段、しっかりしているから年が上に思えるだけで外見は少年そのままなんだ、と思う。
するとカルトスと目が合った。

、俺はお前が好きだ」
「え……えぇ!?」

突然、脈絡もなくそんな事を言われ、は大きな声を上げる。
そんな彼女を見てカルトスはハハッと笑った。
時折見せる少年の顔だった。

「邪魔者が来る前に言っておこうと思ってな。急にすまない」

そう言うと放心状態のの手を握る。

「修学旅行の時には好きな者に愛を告白すると聞いた。だからお前をどうやって呼び出そうか策を練ろうと思ってな。
 何せ、の周りには常に誰かがいるから」

その誰かとやらを思い浮かべたのかカルトスはふふっと笑う。

「いっその事レノンに呼び出してもらおうかと思っていたのだが、さすがにそれは男らしくないと思っていたのだ。
 …お前が来てくれてよかった」

何だか突然の事で心が麻痺しているようだ。
嬉しいと思うよりも先に、今日のカルトスは饒舌だと思った。

、俺はお前よりも年は下だが、お前を守れるだけの力はあると思う。
 …もし今、お前に想い人がいないなら、俺だけのものになって欲しい。

 ――他の男には渡したくないから」

何だかプロポーズを受けているような気がした。
ジワジワと彼から好きだと言われた嬉しさが心に広がっていく。

「…私がカルトスを追ってきたのは……貴方に…会いたいと思って」

――カルトスが好きだから。
ただ…会えるだけでも、嬉しいと思って…。

――なのに…こんなに幸せでいいのかな、私」

微笑んだの目には涙が滲んでいた。

「――ずっと俺の傍に………」

カルトスが覗き込むように顔を近づける。
そうしてそっと肩に手を回し、キスをした。



 「…」

ゆっくりと目を開ける。

「……あ…れ…?」

辺りをキョロキョロと見回した。 そこはバーン国の図書室だった。
は上半身を起こす。

――夢…かぁ。

なんだぁ、と顔を赤くして頬に手を当てた。

そりゃそうよね。
アーク国とバーン国の皆が仲良く同じ学院にいるんだもん。
そんな事、あるわけないし。
それに…カルトスが…私の事、好きだなんて……。

そんな事を考えているとドキドキと胸が鼓動する。
すると『ガチャリ』とドアの開く音がした。

「…。ここにいたのか」
「か、カルトス…!」

彼の姿を見て、は立ち上がった。
そんな彼女を不思議そうに見ながらカルトスは近づいてくる。

「顔が赤いな。具合でも悪いのか?」

そう言うと、手袋を外し、彼女の額に手を当てた。
はドキドキしながら目を閉じる。
今、この至近距離で彼の顔を見る事はできなかった。

「…少し熱いな。ヤンを呼ぼうか?」
「ううん!!」

プルプルと首を横に振る。

「だ、大丈夫! …ほら、元気だから!!」

そう言っては腕を曲げたり伸ばしたりして笑って見せた。
そんな彼女にカルトスはクスッと笑う。
そうしてそっとの頬に触れると真っ直ぐに瞳を見つめた。

「…なら良いが。あまり無理はするなよ。 俺のいない時に倒れられたりしては困るからな」
「…うん。気をつける」

俯きながら応える。
直に触れる彼の指から温もりが伝わってきて、余計に恥ずかしかった。

「…そういえば、カルトスは何の用事でここに? 何か借りに来たの?」

何か話をしていないと恥ずかしくて間が持たないと思ったは話題を振った。
すると彼は右手に持っていた本を彼女に見せる。

「今日は本の返却に来た」
「どんな本を読んだの?また政治とかの難しい本?」
「…いや、今日は――」

彼が見せた本の表紙は『forbidden love』と書かれていた。

「…あ、これ私が前に読んでた奴?」
「あぁ、どんなものか気になってな」

そうしてペラペラとページを捲った。

「…禁じられた恋だったとしても、2人はお互いを愛し貫いた。
 ――俺には…そこまで想える程の覚悟があるのだろうか」

そう言ってパタリと本を閉じる。

「――それでも…

カルトスは何も言わず、真っ直ぐにを見つめた。
静かな空間に柱時計の音だけが響く。

「譲れないものは、確かにあるのだ。――ここ……俺の胸の中に」

そうして彼はの手をとって、自分の胸へと導く。
微かに彼の心臓の動きを感じた。

「…カルトス…」

もしも、彼が自分と同じ気持ちだとしたら…。
そんな可能性を少しずつ信じ始めていた。
――しかし、自分はそれを聞く事もできないし、言う事もできない。

「…私……カルトスを………」

グッと涙を堪えて口を開く。

「――カルトスの幸せを願ってる」

そう言うと彼も泣きそうな顔で微笑み、額にキスを落とした。








サイト1周年記念小説の割には、大した事なくて申し訳ありません…。
な、何故かカルトスだけ悲恋チックな終わり方を…(;´▽`A``
物語の途中を意識したもので、す・すみませ…(´д`、)

とりあえず、今回は修学旅行とか温泉旅行とかの定番チックなものを目指しました。
非常階段での密会とか…ドキドキしません!? (田舎者の私だけかしら…)


さて、最初はしっかり者のカルトスを委員長にしていたのですが、
さすがにそれはレジェが気の毒かしら、と思って副委員長に^^;
ちなみに、レノンとカルトスは幼馴染設定です。

まぁ、それはどーでもいい裏話ですが。


ここまでサイトを続けてこれたのも皆様のお陰です^^
是非是非、今後もR⇔Rとアークバーンの伝説を宜しくお願い致しますm(_ _)m


吉永 裕(2006.11.3)



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