「…ククル」
思わず出た言葉に驚く。
「…っていうか別に好きとか…じゃないし」
自分で自分に言い聞かせるように呟いた。
そうして雑念を振り払うかのように慌しく風呂へ行く用意をするとバタバタと露天風呂へ向かう。
そうよ。好きとかじゃないのよ。
ただククルは家が近所だから会う機会も多いし、面倒見もいいから色々私の世話をしてくれるだけで。
私は友達として彼を慕ってるのよ。
そう思いながらは膝を立てて広い湯船に入ると、膝を抱えるように手を回す。
――それでも。 困った時に頼ってしまうのも彼だし。
しょーがねーな、と笑ってポンと頭に手を置かれる度にグッと胸が苦しくなるのも事実で。
何だかとても顔が熱く感じた。頭もボーっとしてくる。
そろそろ上がろうかな、とは立ち上がるが…
「!? ちょっと大丈夫?…ねぇってば、――」
何だか自分を呼ぶ声が遠退いていく気がした。
「…」
額にひんやりとした感覚がしては目を開ける。
するとぼんやりと部屋の照明と天井が見えた。
「――!?」
突然名前を呼ばれ、声のした方を向く。
するとククルが自分の手をギュッと握り締めて心配そうな表情でこちらを見ていた。
「…ククル?どうしたの?」
訳がわからず、はゆっくりと起き上がると彼に問いかける。
「――っこの馬鹿野郎!!」
ククルが突然ギュッと抱き締めた。
そんな彼の行動に驚くが、まだ完全に頭も身体も覚醒していないは力が入らず、抵抗する事もできない。
「あの……ククル…どうしたの?」
「…っ」
のぼんやりとした様子にククルは尚更グッと彼女を抱く手に力を込めた。
熱っぽい自分の身体が彼の身体にぴったりと密着するのを感じる。
「――のぼせてぶっ倒れたんだよ、お前」
「え…」
するとククルは抱き締めたまま、が風呂場で倒れてここに運ばれるまでの事を話した。
どうやら男湯にその時の様子が聞こえていたようで、彼は慌てて着替えて女湯に駆け込んできたらしい。
そうしてを抱えあげると、部屋まで運び、布団に寝かせたようだ。
「――じゃ…じゃあ…ククルが私をここまで運んだのね…?」
「あぁ」
「…っていうか…」
今までボーっとしていて気づかなかったが、自分はタオルを身体に巻いているだけの状態だった。
「このタオルは…誰が…?」
恐る恐る聞く。
「…一応、その場にいた女子が…」
「…ククル、見た…の?」
「……そ、それは…」
「…見たのね…?」
は恥ずかしさのあまり、ショックに完全に打ちひしがれる。
「――っていうか、女湯に入ってくる事自体が信じられないっ!!!」
「な、何だよ!俺はお前に何かあったのかと思っ――」
の激しい口調にククルも声を荒げたが、彼女の顔を見てハッと動きが止まる。
ハラハラと彼女の目からは涙が零れていたのだ。
「……ごめん」
何も言えなくなってしまった彼は顔を背けて口を開いた。
「――でも俺は…ホントにお前に何かあったんじゃないかと思って気が気じゃなくて…」
「…」
申し訳なさそうに話す彼を見ていたら彼には罪は無いような気がして来た。
元はと言えば、自分が風呂にのぼせた事が悪いのだから。
そう思い直し、はゆっくり頷く。
「…まぁ今回のは私がのぼせたのが悪いし、事故って事で許してあげる」
プイッとククルから顔を背ける。
すると窓の向こうに綺麗な月が浮かんでいるのが見えた。
しかしその月がシュッと視界から消える。
「――…」
腕をグイッと引かれ、はククルの胸の中に包み込まれるように抱き締められた。
ドクンドクンと大きく心臓の音が聞こえてくるが、自分のものなのか、ククルのものなのかわからなかった。
先程は感じなかった彼の手の感覚を直に触れている皮膚が感じ取り、尚更胸をドキドキと振動させる。
「…お前、凄い柔いんだな。甘い匂いもするし…。――何か……心配で仕方ねー」
ボソリと呟くようにククルが言った。
「何より性格が鈍過ぎるんだっつーの。
――だから俺は、いつか誰かに取られちまうんじゃないかって…気になって……」
「…ククル……」
一際ドクンと胸が弾んだような気がした。
「…お前を誰にも渡したくない」
そう言うと彼は私の顔を包み込むように触れ、真剣な表情でじっと目を見つめる。
――、好きだ。
ククルはそっと私の顎を持ち上げ顔を近づけるが寸前で止める。
「…いいのか?」
「……そんな事、聞かないでよ」
チラッと見上げて目を逸らした私を見て笑うと、彼は額に軽くキスを落とし、それからそっと唇を重ねた。
はパチリと目を上げる。
「……あ…れ…?」
辺りをキョロキョロと見回した。
そこは暗い森の中だった。
…あ、そうか。 今日は久しぶりに野営してて…。
はゆっくりと起き上がる。
――夢…かぁ。
なんだぁ、と顔を赤くして頬に手を当てた。
すると焚き火が小さくなっていたのに気づき、ボーっとしながら薪をくべる。
そりゃそうよね。
アーク国とバーン国の人が仲良く同じ学院にいるんだもん。
そんな事、あるわけないし。
それに…ククルと…あんな事になるなんて……。
そんな事を考えているとドキドキと胸が鼓動を打ち始める。
するとそのククルがその場にいない事に気づいた。
「…そっか、今日の見張り、ククルだっけ…」
何だか目が覚めてしまったので、は何となくククルのいる場所へ行く事にする。
空には白銀の月が輝いていた。
「…お疲れ様」
そう言って先程入れた熱い茶を目の前に差し出す。
「!? どーしたんだよ、どこか具合でも悪いのか?」
普段、旅の疲れでぐっすり眠っているが起きているのでククルは驚き、彼女の額に手を当てた。
そんな行動にどっと恥ずかしくなり、つい持っていたカップを落とす。
「――っあちっ!!!」
落としたと同時にククルが叫んだ。
「あ、ご、ゴメン!!!」
慌ててはハンカチを取り出し、濡れて湯気が出ている彼の膝の部分を拭く。
「…ったくお前はそそっかしいな」
もう大丈夫だよ、と言いククルがカップを拾おうと屈み手を伸ばすと、同じく拾おうとしていた彼女の手と重なった。
ビクッとなったはカップの底の部分に触れてしまい、「あつっ!」と声を上げる。
「…大丈夫か?ちょっと見せてみろよ」
自分の方が熱かっただろうに、彼はの手を掴んでジッと見つめる。
ランプの光と月明かりが薄暗く彼の真剣な表情を浮かび上がらせた。
「…特に心配はないみたいだな」
「…ん…。ごめんね、ありがと…」
胸がドキドキと煩くて、その音が聞こえていたらどうしようと気になってククルの顔がまともに見れない。
「あ…そうだ。ククル、休んでいいよ?私が代わりに見張るから」
これ以上、ククルと一緒にいては意識しすぎて駄目だ、と思ったは交代を申し出た。
すると彼は「そんな事、できるかよ」と言い、ポンと彼女の頭に手を乗せる。
「が見張りなんて…心配で落ちつかねー」
「…」
…それは私が見張りの役割も担えないくらい弱くて頼りなくて、
結局、自分たちに危険が及ぶから心配なの?
それとも――
「――もしお前に何かあったら、俺は…」
途中で言葉を濁らせ、プイっと彼は横を向いた。
柄にもなく照れているのだろうか。
は未だに収まらない胸の音が体中に響くのを感じながら彼の横顔を眺める。
「眠れないなら俺が傍にいてやるから。…変に気を遣うな」
そうして「肩、貸してやるよ」と言い、ククルはの肩に手を回すとグッと抱き寄せた。
ますます緊張して眠れない気もしたが、そっと彼に凭れて頭を彼の左肩に乗せる。
彼の鎖骨に当たっている耳からは、骨に響くのかククルの心臓の音が感じ取れた。
するとこんな状況なのにも関わらず何故か落ち着いてくる。
「…王子とかには…言うなよ」
「うん、言わない」
シーンとした空間で沈黙が耐えられなかったのか、恥ずかしそうにククルが口を開いた。
先程の動揺はどこへやら、穏やかな気持ちで応える。
「…秘密ね。2人だけの」
そう言うとククルの指先がピクリと動いた気がした。
「――秘密、か…」
彼が呟くように言う。
――こんな秘密なら、もっと増えてもいいけどな。
は静かに頷いて目を閉じた。
何だかとても幸せな夢が見れそうな気がした。
サイト1周年記念小説の割には、大した事なくて申し訳ありません…。
とりあえずは、ありがちなイベントで
猪突猛進型のククルに女湯に飛び込んでもらう事にしました^^;
でもねー、missingのカイトとククルの口調が段々混ざってきちゃって
「ククルってこんな口調だったっけ?」と作者失格な私です(;´▽`A``
まぁ、それは今後の課題として。
ここまでサイトを続けてこれたのも皆様のお陰です^^
是非是非、今後もR⇔Rとアークバーンの伝説を宜しくお願い致しますm(_ _)m
吉永 裕(2006.11.3)
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