アルドル殿下の匣係となり
その本当の意味を知る
部屋を移され匣院と呼ばれ
私はアルドルのものとなった

何故彼が私のような者に
必死になるのか分からなかった
周りの者は人形が欲しかったのだと
目を逸らし冷笑する

彼が私の名を呼ぶ瞬間だけは一人ではなかった
私たち二人は同じ傷を抱え舐め合い惹かれ合った

“私が死んでも世界は変わらない。
 けれど生きることで何か
 変わる未来があるならば
 私はその未来の為に生きたい”

そう思ったのが今や遥か昔のよう
けれど新しき命とともに
生きていく強さを今の私は持つ
彼が望むまで私は彼に添い遂げよう


泣きそうな顔で殿下が訪れ
私の身体を抱きしめる
子どもを生すことで
私が死ぬかもしれないと

大丈夫だと彼を宥めて
癖のある髪の毛を撫でる
私は死んだりしない
貴方の為にもこの子の為にも

けれどいつかは逝く時がくるでしょう
子を産むのもこれが最後かもしれません

「お前の気持ちを聞こうとせずに 
 余の気持ちばかり押し付けた。
 お前を誰よりも必要としているのに
 愚かな余を許して欲しい。

 今まで特権ばかり利用して責務から逃げてきた。
 しかしこれからは逃げないと誓う。
 お前とこの子の為に自分の為に
 国の為に働く王族となってみせる」


「“私が死んでも世界は変わらない”
 そう思っていた時がありました。
 けれど貴方との出会いで
 貴方の為に生きたいと思うようになりました」

「余が必要とするお前が
 余を必要としてくれるのか。
 互いが互いの命を縛り
 未来を築いていくのもいいかもしれぬな」

 
――王子が生まれた後
政に力を入れ始めた弟太子は
身分関係なく人の話を広く聞く殿下として多くの者に愛された
その彼が愛す妃もまた民衆に愛されたという



サイト7周年に向けてゲームを作っていたのですが頓挫し、小説にしようと思って書き始めたが間に合わず、
尚且つ体調も崩して何も更新できないという事態に陥りそうになったのですが
「これだったらなんとか完結させられるかもしれない!」と思い立ち、慌てて脳内から言葉を振り絞りました。
相変わらず詳しい説明もないですが、この作品のテーマ的に説明文はナシだろうと思ったので
最後まで“ニュアンスで感じてください”とお客様に丸投げしてしまった駄目な私でありますm(__)m
しかしながら、最後まで見てくださってありがとうございました!

アルドルは前にも書いたと思いますがツンデレ自己中心的キャラです。
それが成長するところを書きたかったのでした。
結構酷い役柄でしたが、それでも彼を好きかもと思ってくださった方がいらっしゃったら幸いです。

吉永裕(2012.11.3)


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