春宮に来てから早二年
初めて外がざわついた
悲鳴のような嘆きのような女たちの声に
よく知った名前を聞いた気がして
開いた扉の向こうには
傷だらけのティリア兄様
身体には血の滲む布が巻かれ
顔の痣も痛々しい
震える私を抱きしめて「家に帰ろう」と囁いた
彼は退官試験という名の暴行に耐えたのだ
「“私が死んでも世界は変わらない”
そう思って諦めていた私に
光を与えたのはティリア兄様でした。
けれど貴方がいなければ意味がないのです」
「ならば一緒にここを出よう。
殿下には既に了解を得ている。
がいなければ僕は生きていけない。
君を誰よりも愛しているから」
逃げるように手を引かれ
二人 馬に飛び乗った
門の手前で呼び止めるアルドル殿下は
「すまぬ」と一言呟き消える
私の知っている世界は
ほんの小さなものだけれど
ずっと傍にいたいと願ったのは
ティリア兄様だけでした
帰って来た不肖の弟子らにお師匠様は顔を歪めたけれど
「お帰り」と言ってすぐに仕事を言いつけた
私はなんて幸せなのであろうか
嗚呼……父様、母様
見ていてくれていますか
私は生まれた時から今でさえ幸せなのです
小さな幸せすらも幸せと思えぬ程
私は皆の愛に包まれて
今まで生きてきたのです
そしてこれからも生きていくでしょう
「“私が死んでも世界は変わらない。
けれど生きることで何か
変わる未来があるならば
私はその未来の為に生きたい”
そう言った君は今、幸せだろうか。
君と出会い僕は変わった。
君の未来も変わったのなら嬉しい。
二人で明るい未来を作っていこう」
――そして家に帰った二人は結ばれて
共に育った道場と家とし
育ててくれた師匠を母として
ずっと一緒に幸せな未来を築いていったという
サイト7周年に向けてゲームを作っていたのですが頓挫し、小説にしようと思って書き始めたが間に合わず、
尚且つ体調も崩して何も更新できないという事態に陥りそうになったのですが
「これだったらなんとか完結させられるかもしれない!」と思い立ち、慌てて脳内から言葉を振り絞りました。
相変わらず詳しい説明もないですが、この作品のテーマ的に説明文はナシだろうと思ったので
最後まで“ニュアンスで感じてください”とお客様に丸投げしてしまった駄目な私でありますm(__)m
しかしながら、最後まで見てくださってありがとうございました!
ティリアは一応、王道的な相手です。
兄というか寧ろ父とか母とかそういうキャラなのですが
あまりそういうキャラクターを出せずに終わってしまったのが完全に私の力不足でした。
それでもティリア兄様を気に入ってくださった方がいらっしゃったら幸いです。
吉永裕(2012.11.3)
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